過去ログ - 少女「ずっと、愛してる」
1- 20
405:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:15:50.52 ID:Z6fjuYRs0
男――黒い一族は、十二歳の成人の儀後、その力を得る。一人一つ。どんなに優秀な者でも、例外は唯の一つもありえない。
ありえないはずなのだ。
抵抗することも出来ないまま、ルケンは背中から軽々と壁に叩きつけられた。その瞬間に能力を全開にし、衝撃点を先に吹き飛ばしておく。しかし相当な力が体を襲い、彼は溜まらず胃液を撒き散らした。
ゼマルディは低く唸りながらただ立っているだけだ。
その目が赤く、鈍く光を発している。
以下略



406:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:16:16.45 ID:Z6fjuYRs0
逃げなければ。
逃げなければ、死ぬ。
死んでしまう。
本能が悲鳴を上げる。
しかしそこでやっと、ルケンの頭に冷静な血が巻き返された。折れた歯を吐き出し、彼は猛獣のごとき唸り声を発してゼマルディを睨みつけた。震える足を気力で押さえつけ、よろめきながら立ち上がる。
以下略



407:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:16:46.95 ID:Z6fjuYRs0
逃げなければいけなかった。即、そこから離脱しなければいけなかったのだ。

間髪をおかずに。
ルケンは。
認識をすることもできずにその場所から吹き飛ばされていた。
以下略



408:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:17:14.20 ID:Z6fjuYRs0
「かっ……」

叫び声も何も出すことが出来なかった。一瞬視界が真っ赤に染まり、網膜や脳内血管が沸騰し破裂したかのような重い感覚が頭蓋をゆする。
何が起きたのか分かったのは、地面に転がって痙攣し、鼻血を噴き出しながら、右手で地面を掻いたときだった。
腕を動かしたのはほぼ無意識の行動だった。
以下略



409:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:17:43.58 ID:Z6fjuYRs0
腹が痛い。
痛い。
痛い。
背骨が折れたのか?
肋骨が肺に突き刺さっているのか?
以下略



410:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:18:17.31 ID:Z6fjuYRs0
喉から、血液ではない何か……内臓の一部を奇妙な音を立てて吐き出しながら、ルケンはチカチカと明滅している視界を、必死に前に向けた。
今まで自分が立っていた場所に、猫背に体を丸め、マントをバタバタと風に翻している異形の男がいた。両腕を地面につけ、四足走法のような姿勢をとっている。
それは、スタートの合図ではなかった。
着地。行動が終わった後での形だった。
ゼマルディの周辺の道路は、まるで矢の先端のように、彼を先として抉れていた。それはゆうに十メートル以上もの軌跡を描いて、放射状に合成コンクリートの地面を三十センチは掘りぬいていた。
以下略



411:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:18:45.57 ID:Z6fjuYRs0
ゼマルディの足は、半ば地面に埋まってしまっていた。そのままの姿勢で、彼は瞳を鈍く光らせながら体をゆすった。露出しているウロコがハッチのようにガパッと開き、おびただしい量の水蒸気を噴出する。
足が埋まったコンクリートを拳で叩き壊し、ふらつきながらゼマルディはまた立ち上がった。そして地面を片手で引っかいて、その場から離れようとしているルケンを……異形の冷めた瞳で見下ろす。
何が、起こったのだろうか。
また先ほどと同じ、ノーガードの立ちポーズをとった相手を見て、ルケンの心が凍りついた。
そう、その時。
以下略



412:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:19:24.07 ID:Z6fjuYRs0
立ち上がったゼマルディのウロコからは、水蒸気以外のものも噴出していた。霧のように赤い血も、それに混じっている。
それに、ウロコが焼けていた。真っ赤に発熱しているものもある。段々と水蒸気と空気熱で冷やされ、元の深緑色に戻っていくのが見える。
ルケンは、戦闘体制になった瞬間に能力を全開にしていた。敵に向け、戦う気概を少なくとも整えてはいた。

彼は、反発することが出来た。
以下略



413:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:19:49.20 ID:Z6fjuYRs0
だからゼマルディが彼を焼却炉で殴りつけ、あまつさえ花を焼くことに成功したのは……心の底から、単なる偶然の――本当に、偶然の産物だとさえルケンは思っていた。
そう、思ってしまっていた。
悠長に。悠長に……。
彼は定められた最強に寄りかかってしまいすぎていたのだ。
地面に転がりながら、少年はただ目の前の圧倒的な力に震えていた。そこには善も悪も。正義も何もなかった。
以下略



414:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:20:15.79 ID:Z6fjuYRs0
一撃。
一撃だった。

また内臓の破片を吐き散らし、ルケンは動くことが出来ずに地面にうつ伏せのまま横たわった。
体が痙攣している。
以下略



979Res/589.08 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice