10: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:02:36.29 ID:nlsr789Z0
日毎に"蜃気楼"の声は大きくなり、言葉数は比例して増えていく。
「不思議なものだな。姿形を成してなィ俺の方が人間らしくて、
人から産まれて人型の君に感情が欠乏してィる。
人間はなにを以て人間と定める? なんて、少々哲学が過ぎるが。
11: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:03:09.94 ID:nlsr789Z0
"蜃気楼"は事あるごとに少年へ話しかけた。
感情云々だけではなく、くだらない内容の話も次第に増えた。
「おお、少年。これはなんだ、なんとィう食べ物だ」
12: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:03:54.49 ID:nlsr789Z0
男子「おい、宿題みせろ」
何度も何度も巫山戯た男だと、半ば少年に自分を重ねて"蜃気楼"は怒りの種を蒔いた。
少年「……」
13: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:04:44.14 ID:nlsr789Z0
ある日の日曜日、少年は"蜃気楼"の要望により散歩をしていた。
「散歩に行こう、少年」
少年「……嫌」
14: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:05:28.14 ID:nlsr789Z0
「とりあえず人の多ィ街に出よう。閑静な住宅街では感情の動きようがなィ」
電車に乗って三十分。少年は滅多に訪れることのない都会に着いた。
「さて、適当にぶらつくとしようか」
15: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:06:29.26 ID:nlsr789Z0
結局無駄足だったかと二時間程少年を歩かせて"蜃気楼"は諦めかけていた。
その時、偶然にもありがたい事故に会う。
女「あれ? 少年くん?」
16: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:07:51.16 ID:nlsr789Z0
「ならば哀しみの種はどうだ。
ここまで気にかけてくれてィるのに、なにも返せなィ自分を悔やむんだ」
しかしその種もまた恐怖が飲み込んでしまう。
暗雲が轟く空の下で"蜃気楼"は唐突に笑顔になった。
17: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:08:47.82 ID:nlsr789Z0
「どれだけだ! どれだけ君は怯えてィれば気が済むんだ!
好きな子と偶然ばったり出会ったのだろう!? 喜べよ! 両手を挙げて喜べよ!」
「ここは〈ど、どうしよう、なに話したらィィんだろう〉って困惑する場面なのだよ!
それでも男の子か君はあああああああああ!」
18: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:09:17.78 ID:nlsr789Z0
少年「はあ……はあ……――あ……」
女「」ポロポロ ポロポロ
常に騒がしい街が一時だけ静まり返り、少年へ注目が集中した。
19: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:09:53.07 ID:nlsr789Z0
「どうなってんだ?」
"蜃気楼"は目を疑った。
20: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:10:35.34 ID:nlsr789Z0
「とにかく、俺の激情が少年に作用したとしか考えられなィ。
それにしても……怒りとはこれほどまでに疲れるものだったか?」
感情の起伏が乏しいのではなく、理性で事象を処理する存在。
そしてずっとそうであった"蜃気楼"は、感情に身を任せたことがない。
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