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2013/03/10(日) 12:43:14.45 ID:nQ4y3AGI0
絵梨果たちにはトイレに行くと言ったが、別にトイレに行きたくなったわけではなかった。少しの間、一人になって考えたかったのだ。淳子のことだ。
淳子と中学一年の時から、一番仲が良かったクラスメイトは直美であった。もちろん直美は他の友達も大切だったが、その中でも淳子は別格だったのだ。
直美と淳子は毎日のように一緒に行動を共にしてきた。大好きだったのだ。淳子のことが…。
だがある時、淳子に彼氏が出来た。塔矢である。
直美は淳子に彼氏が出来たということはなんら不思議に思ってはいなかった。淳子は積極的で明るくて行動力がある。自分なんかよりもずっと異性に好かれるタイプであることは理解していた。だからいつかこんな日が来るかもしれないと、かなり前から考えたことがあった。
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2013/03/10(日) 12:44:28.64 ID:nQ4y3AGI0
「智里ぉ!!」
直美は智里の体を抱き上げて泣きついたが、智里はもう直美には何も言い返しては来なかった。
「絵梨果ぁ!! 美咲ぃ!!」
首だけになってしまった絵梨果や、頭が完全に陥没してしまっている美咲にも近寄って泣きついたが、当然3人とも二度と口を開くことはなかった。
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2013/03/10(日) 12:46:53.87 ID:nQ4y3AGI0
分校の場所から、林を南西に歩き続けていると、緩やかな坂が現れた。女生徒は迷うことなく、その坂を登り始めた。するとその先に、大きな洞穴の入口らしき空間が現れた。
ここに隠れよう。
ほんの少しポッチャリとした顔をこわばらせながら、南条友子(女子16番)は懐中電灯で中を照らしながら穴の中に入っていった。この中に隠れていれば、誰にも見つからないかもしれないと考えたのだ。
私は殺し合いなんてしたくない。もちろん死にたくもない。
元々気が弱い友子の目からは、常に涙が溢れ続けていた。分校を出発してから、この涙は一度も止まったことはない。
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2013/03/10(日) 12:47:22.84 ID:nQ4y3AGI0
いつも明るく、どんなときでもお調子者で、クラス内でも人気者の透は、今まで学校内で泣くことなど無かったのだ。いや、もしかしたらあったのかもしれないが、少なくとも友子はそんな光景を見たことはなかった。いずれにしろ透が泣くことは珍しいことなのだろう。
逆に友子自身は自分でも自覚していたが、どちらかというと泣き虫であった。もちろん今も涙は流れ出し続けている。
向かい合って、そしてお互いに泣いているその光景は、もし別の誰かが見ていたとしたら奇妙な光景にしか見えなかったであろう。
「今まで一人でずっと不安だったんだ。頭がどうにかなってしまいそうなんだよ。頼むから一緒にいててくれないか」
友子に頼み込むように言った。泣いているのにもかかわらず、不思議と透の声はしっかりとしていた。
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2013/03/10(日) 12:48:42.71 ID:nQ4y3AGI0
男子生徒は友子の首に突き刺さっている鎌を抜いた。瞬間、友子の首からはおびただしい量の血液が飛び、男子生徒の制服にかかったが、その生徒は特にそのことは気にしなかった。
中の上くらいの高さの身長で、二重まぶたと、冷たい視線が特徴的なその顔。それは狩谷大介(男子5番)であった。
大介はヒュッと一度鎌を振り、刃の部分に付いた血を軽くとばした。
実にラッキーであった。とにかく自分以外の邪魔な生徒達を殺していこうと思っていたところに、出くわした友子が、大介に全く気が付いておらず、無防備な背中を見せていたのだ。このチャンスを逃すわけがなかった。
鎌に付いた血を制服の袖でふき取った大介は、地面に倒れている友子の体を蹴り飛ばした。友子の体は2メートルほど転がったが、そこで岩にぶつかって止まった。友子の体中に新たに出来た傷から血がにじみ出していた。
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2013/03/10(日) 12:49:23.10 ID:nQ4y3AGI0
坪倉武(男子13番)は、近くに誰もいないか警戒し、辺りを頻繁に見回していた。そして辺りに誰の姿も見えないことに安心した武は、茂みの中をゆっくりと進んだ。
武が進むたびに、茂みがガサガサと大きな音を立てていたのだが、武は緊張のあまりそのことに気がついていなかった。誰かが付近にいたとしたら、茂みの音のせいで武のいる場所はバレバレである。それに気が付かないほど、武は放心状態であったのだ。当然自分の近くに、ついさっき殺人を終えたばかりの大介が潜んでおり、次に武を狙っているなど、知る由もなかった。
次の一歩を踏み出したとき、茂みの中の枝の一本がデイパックに引っかかった。
くそっ!
武はあせりながら引っかかっている枝をデイパックからはずした。はずした弾みで再び茂みからガサッと大きな音をさせてしまった。だが案の定武はそのことに気がつかない。
988:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:49:53.93 ID:nQ4y3AGI0
突然武の背中に何かが当たった。驚いて振り向くと、そこには一本の大木が立っていた。背中にあたったのが人間ではなかったことに少し安心したが、すぐに視線を目の前の大介に戻すと、再び恐怖が舞い戻る。
「待ってくれ!止まってくれ!こっちに来ないでくれ!」
武は両手を前に出して、とにかく大介に近寄ってこないように頼んだが、そんなことで殺意を持っている大介が止まるわけがなかった。
「武。お前さっきからうるせえよ。そんなに怖いんなら一思いに殺ってやろうか?」
口調はおとなしかったが、恐ろしく顔歪ませながら大介が言った。そう、ここへ来てついに大介が本性を見せたのだ。
989:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:52:57.13 ID:nQ4y3AGI0
龍輔は手にかけたばかりの真知子の死体をまじまじと見つめている。仕留めた獲物の大きさに満足するハンターのごとく、至福に満ち溢れた目つきをして。
圭子は自分の身体がぶるっと震えるのを感じた。当然だろう。全身から殺意を漲らしている猛獣のようなこの男を前にして、少しの恐怖も抱かないなど、気が正常である限りはありえない。
だが、圭子の中を支配する感情は、すぐに悲しみと恐怖のどちらでもなくなった。圭子の中を満たした感情、それは龍輔に対する怒りに他ならない。
「黒河くん! どうしてこんな酷いことを――どうして真知子を殺したのよ!」
口が勝手に動く。
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2013/03/10(日) 12:54:31.80 ID:nQ4y3AGI0
プログラムに巻き込まれるという極限状態の中、参加生徒が精神に何らかの支障をきたすということは少なくない。過去何年にもわたって行われてきたプログラムの歴史の中では、そんな者の数など知れずといった状態だ。
そんな中、恐怖や緊張が限界点へと達してしまうと、僅かながらにでも正気を保っていた生徒でさえも、心をついに崩壊させてしまうという事態にまで発展してしまうこともある。発狂もちょうどこれに当てはまる。
今回プログラムに参加させられることとなった、兵庫県立梅林中等学校三年六組の生徒の中にも、こんな状態に陥ってしまった生徒は存在する。
ただでさえ乱れていた長い癖毛をさらに振り乱しながら、行く当てもなくフラフラと森林内を歩き続ける少女。氷室歩(女子十六番)。
二年前に起こった兵庫県立松乃中等学校大火災の被災者である彼女は、事件以来壊れてしまっていた。
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2013/03/10(日) 12:55:48.84 ID:nQ4y3AGI0
どこからか十数発の連続した銃声が聞こえたので、森の中を歩いていた一人の男は足を止めて、ふと遠くの空を見上げた。
へぇ、誰か景気良くやってやがるな。
そんなことを思い、どこか爬虫類に似た攻撃的な顔に笑みを浮かべたのは黒河龍輔(男子六番)。恋人の死に泣き崩れていた烏丸翠を、容赦なく背後から撃ち殺した悪魔のような男だ。
龍輔は兵庫県立梅林中等学校の中では、最も恐れられていた不良だった。
生活態度は悪く、学校をサボるなんてことは毎日のように行い、きちんと登校してきた日も、他の生徒に危害を加えるなど、とにかく学校にとっては目の上のたんこぶのような存在だった。
992:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/03/10(日) 12:56:43.93 ID:nQ4y3AGI0
そもそも龍輔に支給された武器はファイティングナイフ一本だけであり、いくら普段からナイフを使い慣れている(理由は聞くな)彼といえど、これだけでプログラムを戦い抜くということは難しいだろう。
そんなわけで、他の参加者に支給された武器がいかなる物か見当も付かなかった彼は、プログラム開始当初は少なからず不安を抱えなければならなかったのだ。
そんな中で手に入れた拳銃だ。プログラム内で支給されている物の中では、おそらく当たりの部類に入るであろうそれを手に入れた途端に、彼の自信が上昇気流に乗り始めたということは想像に難しくはない。
だが彼がこの時に手に入れた武器はこれだけではない。
風間雅晴のデイパックの中に入っていた白い粉。数年前から世間に出回り始めた新種のドラッグ『ホワイトデビル』。愛用者ひしめく裏世界では高額で売買されているそれをも、龍輔は手に入れていたのだ。
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