103:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/24(金) 06:25:13.84 ID:J60wAoTTo
  
 「例の人影が、この屋敷の方に向かうのを見た者がいるのです」 
  
  すぐに、例の空き巣の話をしているのだと分かった。 
  わたしは壁にもたれて静かに溜め息をつく。男の神経質そうな声。なんだか、無機質な印象を受ける。 
104:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/24(金) 06:26:14.72 ID:J60wAoTTo
  
  堅苦しい口調で話すその男に、わたしはなんだか嫌な気持ちになった。 
  声に抑揚というものがないのだ。色というか、気配というか、そういうものがなかった。 
  生きている感じがしないのだ。下界の人間はみんなそうなのだろうか? 
   
105:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/24(金) 06:27:12.60 ID:J60wAoTTo
  
  シラユキはしばらく黙りこんだようだったが、やがて諦めたように口を開いた。 
  
 「わかりました。ただ、少しの間待っていていただけませんか? 屋敷の中を少し片付けさせてください」 
  
106:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/24(金) 06:28:19.06 ID:J60wAoTTo
  
  わたしは通路を逆戻りし、玄関ホールから距離を取る。  
  シラユキとすぐ近くで言葉を交わすわけにはいかなかった。 
   
  わたしが厨房の付近まで移動したとき、シラユキは玄関ホールの方から姿を現した。 
107:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/24(金) 06:29:04.34 ID:J60wAoTTo
  
  シラユキは困った顔をした。わたしも困った。 
  書庫だろうとどこだろうと、しっかりと探されれば見つかってしまう可能性は拭えない。 
  
 「そんなにしっかりとは確認しないと思うんです。どこか見つからないような場所なら……」 
108:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/24(金) 06:30:52.59 ID:J60wAoTTo
  
  窓の外は雨が降っている。森の中に逃げ込めば隠れることはできなくはないが、傘は玄関にしかない。 
  何より、廊下の窓から見つかるかもしれなかった。 
   
  どこかの空き部屋のクローゼットやベッドの下は、いざというときに逃げることができない。 
109:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/24(金) 06:31:51.19 ID:J60wAoTTo
  
  シラユキは少し不安そうな顔をした。 
  でも、他のどこでも同じなのだ。彼女は最後に覚悟を決めたように頷いた。 
  
 「じゃあ、書斎の中に身を隠して、内側から鍵をかけてください。 
110:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/24(金) 06:33:01.99 ID:J60wAoTTo
  
 ◇ 
  
  書斎に行ってみて思ったのは、クローゼットには隠れられないということだった。 
  あまりに「あからさま」過ぎるのだ。 
111:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/24(金) 06:33:36.61 ID:J60wAoTTo
  
  さて、とわたしは思う。困った。手詰まりだ。 
  ためしに机の引き出しを開けてみる。たいしたものは入っていない。 
  簡単な文具や羊皮紙なんかが入っているだけだった。  
  
112:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/24(金) 06:34:10.01 ID:J60wAoTTo
  
  やっぱり書斎はだめだったんだ。見つかってしまう。見つかったらどうなるんだろう? 
  わたしはシラユキの表情を思い出した。あの悲しそうな顔。 
  彼女はわたしに猶予を与えようとして、静かに書斎の鍵を開けようとしている。 
  
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