1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/11/25(月) 23:47:01.96 ID:2LUuHdJ70
まだ、彼女がデビューしていないときのことだった。
アナスタシアが、「星を見たい」と言った。
「星?」
思わず問い返すと、彼女は頷きを見せた。
「ダー。Город………都会のものではなく、もっと、綺麗なものを」
「ふむ………」
いつもは滅多におねだりなどしない彼女のたっての願いだったので、随分と張り切ったものだ。
正直なことを言うと、当時彼女とはうまくいっていなかったと思う。
自分にとって初めてのアイドルであり、初めてのプロデュース業ということもあってどうあるべきかを測りかねていた。
もちろん事務所に先輩のプロデューサーはたくさんいたし、その中にはあの渋谷凛や高垣楓をデビューさせ今や一流プロデューサーとして名を馳せている方だっていた。
だが、彼らにプロデューサーの在り方について学んだところで、誰もが皆最後は「アイドルの最善のために臨機応変に対応する」ことを何よりもの目標として掲げ、担当アイドルに適したプロデュース方法を取らなければならないため必勝法などというものはないから地道に行け、と語った。今思えば、その言葉に少し甘えていたのかもしれない。
彼女もまた、謙虚で丁寧な物腰ながら、どこかぎこちなさを隠せないでいた。いや、そんな姿勢で一線を引いているようにさえ思えた。
アイドルとプロデューサー。
二人三脚で進むには、少しばかり息が合っていなかった。
そんな時に、彼女から「星を見たい」と言われた。
夏の暑い日のことだった。
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2013/11/25(月) 23:47:47.46 ID:2LUuHdJ70
星を見に行くことになった日。
レッスンを終えたアナスタシアを拾って目的地へと向かった。
万が一事故を起こしても怪我が少ないようにと、いつも後部座席に座らせている。
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2013/11/25(月) 23:48:21.35 ID:2LUuHdJ70
助手席に乗ってきたアナスタシアに飴の袋を差し出した。
「Конфета………飴、ですか?」
「運転席と助手席は空調が直当たりするからな。喉のためにも舐めておいた方がいい」
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2013/11/25(月) 23:48:58.45 ID:2LUuHdJ70
「わぁ……………!」
目的地である山の頂上付近の広場に着くなり、アナスタシアは我先にと車を降り、目を輝かせた。
「プロデューサー、Звезда…………星です!」
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2013/11/25(月) 23:49:29.74 ID:2LUuHdJ70
「………プロデューサー?」
「ああ、悪い。………ほら、シートを持ってきてある。寝転んで夜空を眺めるといい」
「Действительно? ………アー、本当ですか? 用意がいいですね」
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2013/11/25(月) 23:49:56.01 ID:2LUuHdJ70
あの天体観測からしばらくして、ついにアナスタシアはデビューした。
日本ではあまり見受けられないそのビジュアルは人々を魅了し、謙虚ともいえる姿勢が反感を生むことなくアナスタシアというアイドルを世間に広めた。広めたはずなのだが………。
「プロデューサー、星を見に行きたいです」
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2013/11/25(月) 23:50:39.16 ID:2LUuHdJ70
目的地へ向かう車中では、以前のように居心地の悪い沈黙が生まれることがなくなった。
「今日、幼少組に無表情で怖いって責め立てられたんだが………」
「ダー………プロデューサー、滅多に表情が変わりませんもんね」
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2013/11/25(月) 23:51:06.45 ID:2LUuHdJ70
「………お?」
目的地へと続くとされる道には、草木が生い茂っていた。
「………しまったな。カーナビが古いんだった」
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2013/11/25(月) 23:51:34.51 ID:2LUuHdJ70
「………重く、ないですか?」
「まったく。むしろ軽すぎて驚くくらいだ。ちゃんと飯は食べれているか?」
「ダー。寮のご飯美味しいです。お菓子がよく出るのが玉に瑕ですけど………」
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2013/11/25(月) 23:52:00.97 ID:2LUuHdJ70
目的地に着いたはいいが、
「しまったな………」
「今日はНеудача………失敗が多いですね。もしかして、お疲れですか?」
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2013/11/25(月) 23:52:27.46 ID:2LUuHdJ70
「………重く、ないですか?」
「まったく。むしろ軽すぎて驚くくらいだ。ちゃんと飯は食べれているか?」
「ダー。寮のご飯美味しいです。お菓子がよく出るのが玉に瑕ですけど………」
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2013/11/25(月) 23:53:06.90 ID:2LUuHdJ70
「………寝心地は悪くないか?」
「………大丈夫です」
「………固くないか?」
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2013/11/25(月) 23:53:40.57 ID:2LUuHdJ70
アナスタシアがユニットを組むことになった。
その名もにゃん・にゃん・にゃん。
………高峯や前川が猫耳を付けているのは見たことがあったが、アナスタシアの選考理由が「アーニャ」という彼女の愛称から「あーにゃん」という名前が思いついたので、というよく分からないものだった。
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2013/11/25(月) 23:54:22.29 ID:2LUuHdJ70
「プロデューサー」
「どうした?」
デスクワークに励んでいたこちらに、アナスタシアが駆け寄ってきたかと思うと、ずいと顔を寄せてきて、
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2013/11/25(月) 23:55:13.85 ID:2LUuHdJ70
「プロデューサー、そんなに溜息を吐いては駄目ですよ。Счастье………幸せが、逃げてしまいます」
「誰のせいだと思っている………あと語尾忘れてるぞ」
「あう………………」
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/11/25(月) 23:55:40.27 ID:2LUuHdJ70
「プロデューサー、そんなに溜息を吐いては駄目ですよ。Счастье………幸せが、逃げてしまいます」
「誰のせいだと思っている………あと語尾忘れてるぞ」
「あう………………」
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2013/11/25(月) 23:56:08.99 ID:2LUuHdJ70
頬を張られた。それも猫耳を付けた生娘に。
その生々しい音に事務所にいた面々の視線が一挙集中するが、アナスタシアはそれを気に掛ける様子もなく、
「Глупый!! Глупый!! Глупый!!」
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/11/25(月) 23:56:51.49 ID:2LUuHdJ70
「ハグ、ハグだぞ後輩」
「男は度胸! ですよ!」
「わかるわ」
19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/11/25(月) 23:57:53.32 ID:2LUuHdJ70
どす、どす、どす。
小さな拳から繰り出される殴打が止まらない。
「じょ、情熱的な語りかけをありがとう………だがなうっふ………………アナスタシア、あいにく俺の第二外国語はウサミン語でな、肉体言語ではお前と語り合えないからうっふ………………ど、どうか一度言葉で語り合ってはくれないか? なんだったら、ロシア語でもいいから………」
20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/11/25(月) 23:58:31.39 ID:2LUuHdJ70
「Женитесь. 」
「……………………トップアイドルになったらな」
「っ!?」
21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/11/25(月) 23:59:05.03 ID:2LUuHdJ70
その日、我が事務所のメーリングリストにて、猫耳のアイドルと抱き合う紅葉頬の男の写真が全社員に回された。
訴えたら勝てると信じているが、
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