1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/22(日) 22:10:49.98 ID:QCk4Nap1o
日が暮れたので、ぼくは「ああ、今日もまた道が閉じたんだな」としみじみ思った。
ちょっと行った所から伸びる国道も、その近くにある駅から走る線路も、みんなみんな閉じてしまった。
といっても別に物理的に閉じこめられたとかそういうわけではもちろんない。
これはぼくの感覚の話で、道自体はどこへでもどこまででも伸びているのに、
なぜだかその先に行けなくなってしまう気がするのだ。
要するに外へと動こうとする活力とか意志が萎えてしまうということだが、
だから夜は閉じていると、そう思う。
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2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/22(日) 22:12:15.52 ID:QCk4Nap1o
思うからには理由があるのだろうけれど、夜には人を縛りつける力があるということなのか、
それともただ単に夜は「帰る時間」であって、「行く時間」ではないということなのか、
考えても今のところぼくには分からない。
3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/22(日) 22:12:45.12 ID:QCk4Nap1o
ぼくだってそんな疑問は馬鹿馬鹿しいものだということは知っていた。
子供じみた疑問だし、もちろん夜に向こう側なんてない。そもそも夜は実際には閉じてなんかいない。
けれどもぼくはもう一つ余計に知っていた。くだらない疑問はくだらな過ぎて、実は誰もその答えを確かめてはいないのだ。
みんな知っているつもりになって、人づてに聞いた答えが全部だと思ってしまっている。多分。
4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/22(日) 22:13:53.30 ID:QCk4Nap1o
アナウンサーが今日は冬至だと言っていた。
一年で一番昼が短い日ということらしい。
それはひっくり返すとつまり一年で一番夜が長い日ということだ。
正確には違うかもしれないが、おおむね間違ってはいないと思う。
5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/22(日) 22:14:37.45 ID:QCk4Nap1o
ぼくが玄関を出ると既に外は暗かった。
日没からもう二十分くらいはたっているしそうなるとあっという間に暗くなってしまうのが冬だ。
西の方の空には鈍い光に照らされる冬雲があり、風除室の引き戸の隙間からは甲高い音が響いている。
6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/22(日) 22:15:18.55 ID:QCk4Nap1o
玄関先のハナミズキはもう夜の闇に呑まれてしまっていて、近くによらなければそれとは分からなかった。
枝には雪がところどころくっついていて、それが街灯の光を反射している。
寒いけれど風はない。
7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/22(日) 22:15:59.37 ID:QCk4Nap1o
足元に水たまりが光る。
道の両脇は柵が立てられ、だがその内側には背の高い草が生え散らかっているだけ。
秋ならば虫の合唱がうるさいくらいに聞こえただろうけれど、今はささやかに草がこすれる音しか聞こえない。
8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/22(日) 22:16:43.23 ID:QCk4Nap1o
それは街灯の下で、不格好に揺れていた。
すぐに人と気づいたけれど、どうやらおかしいのは歩き方のようだった。
右足に力をかけて、左足を引きずる要領。
足の悪い人の足の運びだ。
9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/22(日) 22:17:11.24 ID:QCk4Nap1o
「大丈夫ですか?」
ぼくの声は心配よりもためらいの響きがありありと出ていたと思う。
彼女は腕を突っ張って上体を起こし、こちらに顔を向けた。
10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/22(日) 22:17:43.67 ID:QCk4Nap1o
「ありがとう」
再び助け起こすと彼女は何故かにやにやしながら「シナノ」と続けた。
「シナノ?」
「わたしの名前。みたいな」
11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/22(日) 22:18:15.69 ID:QCk4Nap1o
シナノに家の場所を訊くと、ぼくが元来た住宅地の辺りにあるらしかった。
「え?」
ぼくは怪訝に思ってもう一つ訊ねた。
「家に帰るところじゃないの?」
12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/22(日) 22:19:33.66 ID:QCk4Nap1o
大通りには帰宅の車が何台も行き交っていたが、歩行者はいなかった。
信号を渡って、真っ直ぐ進んだ。
川沿いの道で、右側に土手、左側に昔ながらの小ぢんまりとした民家が並ぶ。
13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/22(日) 22:20:07.01 ID:QCk4Nap1o
それからまたしばらく黙々と二人で進んだ。
右に小さな橋が川をまたいで掛かっていて、向こうに大きな建物の影が見えた。
確か小学校があったはずだ。かつてはぼくも通っていた小学校である。
14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/22(日) 22:20:32.81 ID:QCk4Nap1o
仕方なくぼくは別の話題を探した。
シナノのような若い子の話すことなんて分からなかったし、同世代とだって上手く話せない自信があったけれど仕方なくだ。
「夜って閉じてるよね」
15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/22(日) 22:21:07.96 ID:QCk4Nap1o
「暗くなると視界が利かなくなるせいかな、見渡せる範囲が狭くなる。
きっとそれでどこにも行けなくなるんだとぼくは思う」
「気分の問題じゃない?」
その時シナノが大きくよろめいた。
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/12/22(日) 22:22:34.77 ID:QCk4Nap1o
ここまで
今晩までに完成したかったけれど失敗。少しずついきます
17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/23(月) 22:39:59.15 ID:UxR6K1hvo
「夜の向こうには何があるかな」
ぼくがぽつりと言うとシナノは気のない声で、さあ? と返してきた。
「夜の次は朝だから太陽じゃない?」
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/23(月) 22:40:28.09 ID:UxR6K1hvo
「コウは変な人だね」
シナノはそう言ったが声には特別なニュアンスはこもっていないようだった。
バッタを見て「あ、バッタ」と言うくらい当たり前に当たり前のことを言っている口調だった。
19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/23(月) 22:41:49.87 ID:UxR6K1hvo
大学生の頃、統合失調症と診断された。
その時のことはよく覚えていない。
急性期といって症状が一番顕著に出ていた時期だからだ。
20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/23(月) 22:42:32.76 ID:UxR6K1hvo
それでもまあ一旦適切な医者にかかればそれで事足りた。
現代医療の力は偉大で、ぼくは薬品の効力によってすっきりと再生し、今は夜の向こう側の探究に出ている。
それが健全なことかどうかは分からないけれど、とりあえずはもう恐怖はない。
21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/23(月) 22:43:18.45 ID:UxR6K1hvo
再び川沿いに出る。
向こうに小学校よりも大きな影が見えた。
小山のように見えるそれは川をふさぐようにそびえていて、最初はダムかな、と思った。
看板表示が出ているけれどよく読めない。
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