5: ◆DFyQ72NN8s[saga]
2015/03/31(火) 06:10:13.60 ID:zAK3ZPJb0
それからのわたしは彼女たちを知ることに夢中になった。
5人の女の子がやっているバンドであること、みんなすごく仲良しなこと、高校の同級生で、お茶とケーキが大好きなこと。
その中の唯一の年下メンバーが大学を卒業した時−−わたしが中学2年の時に、メジャーデビューしたこと。
そして、メンバー全員がわたしの家から2、3駅のところにある、桜ヶ丘女子の出身であること。
6: ◆DFyQ72NN8s[saga]
2015/03/31(火) 06:12:58.38 ID:zAK3ZPJb0
そして晴れて桜が丘に入学して高校生になると、実際にライブへも足を運ぶようになった。
軽音部に入部する。という選択肢もあったのだが、体験入部の際に部室に入った瞬間、
そこに拡がる空気で胸がいっぱいになり、同時にわたしには“音楽を演奏する”という才能には
全く恵まれなかったことを思い知らされて断念していた。
7: ◆DFyQ72NN8s[saga]
2015/03/31(火) 06:15:16.55 ID:zAK3ZPJb0
そうやってそんな風に、わたしの高校生活は、クラスのみんなよりも
ほんの少したくさんの人と出会えた3年間に、なっていった。
だけど、そんな、現在進行形の思い出の傍らには、不安や恐怖もある。
8: ◆DFyQ72NN8s[saga]
2015/03/31(火) 06:18:46.87 ID:zAK3ZPJb0
「それでは、これより第95回桜が丘女子高等学校卒業式を執り行います」
卒業式はつつがなく進行した。
実行委員会が選んだBGMが流れる中証書の授与が行われ(U&Iのオルゴールアレンジが流れている時に
わたしの名が呼ばれたのは、もしかしたら運命かもしれない)、
9: ◆DFyQ72NN8s[saga]
2015/03/31(火) 06:21:29.93 ID:zAK3ZPJb0
そんな私の耳に、山中先生の声がする。
「それでは、校歌の斉唱です。全員、起立して下さい」
会場にざざ、とパイプ椅子を揺らす音が響き渡る。
10: ◆DFyQ72NN8s[saga]
2015/03/31(火) 06:24:46.96 ID:zAK3ZPJb0
「卒業生の皆さん!ご卒業おめでとうございます!放課後ティータイムです!」
真ん中の−−ボーカルの、唯が叫んで−−。
「1!2!」
11: ◆DFyQ72NN8s[saga]
2015/03/31(火) 06:27:49.97 ID:zAK3ZPJb0
「さぁ、みんなで、めいっぱい! 一緒に歌おうよ!」
唯はそう笑いながら叫んで、刻まれる短いイントロの後に、歌い出す。
これ……校歌だ……!
12: ◆DFyQ72NN8s[saga]
2015/03/31(火) 06:30:44.32 ID:zAK3ZPJb0
唯のMCも絶好調だったなぁ。
「私達がここを卒業して10年で、デビューして5年。先週ツアーラストの東京ドームが終わって、
このタイミングで卒業式! 絶対に今日はやりたかったの! さわちゃん、呼んでくれてありがとー」
「あれ? さわちゃんって呼んじゃまずかったんだっけ?」
13: ◆DFyQ72NN8s[saga]
2015/03/31(火) 06:33:15.04 ID:zAK3ZPJb0
そんなことをふと思った「U&I」の後、「次で最後の曲です」と言った唯は、
わたしたちの「えー!」が静まるのを待った後、こう切り出した。
「私ね、この高校を卒業した時、今のみんなと同じように、
寂しかったり悲しかったり、すごく未来が怖くなったり……いろいろ思ってたの」
14: ◆DFyQ72NN8s[saga]
2015/03/31(火) 06:35:34.42 ID:zAK3ZPJb0
そして、最後の曲が始まる−−唯と梓はアコースティックギターに、澪はウッドベースにそれぞれ持ち替え、
むぎ様はストリングスの音色を確かめ、りっちゃんはスティックをブラシに持ち替えて始まったのは−−
「いちばんいっぱい」
わたしは、もうイントロの瞬間から堪らなくなって、涙が止まらなくなっていた。
15: ◆DFyQ72NN8s[saga]
2015/03/31(火) 06:37:12.76 ID:zAK3ZPJb0
それからの事を、私はあんまり覚えていない。
ステージが終わってから名残惜しそうに捌けていく彼女たちに大きく手を振って、教室に戻って……
なんだかすごくクラスメイトや他のクラスの子にも話しかけられた気がする。
わたしが放課後ティータイムの大ファンだって事は、何故だか有名だったし。
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