2:乾杯 ◆ziwzYr641k[saga]
2015/08/11(火) 21:59:23.38 ID:wqQE0kJT0
夕暮れどき、大きな半島と離島の狭間、粉雪降りしきる冬の日本海を進む船影が一つ。
北の大地の言語で『信頼』と名付けられた旧式艦船。
その周囲でふいにいくつもの水しぶきが上がる。四方で生じた白波がスマートなフォルムを揺さぶる。
3:乾杯 ◆ziwzYr641k[saga]
2015/08/11(火) 22:06:55.32 ID:wqQE0kJT0
19××年。某国の株価の大幅下落を発端に壊滅的な打撃を蒙った世界経済。
買い手がつかず山となった不良在庫。債務不履行を恐れて銀行が資本の抱え込みに走る。
滞る企業への融資。連鎖的に倒産していく商社。街に溢れ返った失業者。高まる国民の不満。
財政の復旧に努めようと苦心惨憺する政治家たち、資本家たち。打ち出される急場しのぎの施策。
代償として切り捨てられていくもの。その筆頭――外交政策。
4:乾杯 ◆ziwzYr641k[saga]
2015/08/11(火) 22:09:17.36 ID:wqQE0kJT0
『深海棲艦(しんかいせいかん)』。
生き物と無機物を掛け合わせたような異様さ。
その造形がどこか船に似ていることからつけられた呼称。
5:乾杯 ◆ziwzYr641k[saga]
2015/08/11(火) 22:16:51.04 ID:wqQE0kJT0
目についた人工被造物を片っ端から爆撃し、海へ向かって悠然と飛び去っていく異形の群。
後に残された光景。瓦礫の下敷きになった者。火に焼き出された者。
時を置かずして、家屋を失った者や身寄りをなくした子どもたちが、ターミナル駅周辺や地下道に溢れ返る。
生活の困窮――物価の高騰、食料の暴騰。買い物に出かけて物乞いの声を聞かぬ日はなくなる。
6:乾杯 ◆ziwzYr641k[saga]
2015/08/11(火) 22:20:11.49 ID:wqQE0kJT0
「いったい何の茶番だね、これは」
黒服の護衛をはべらせた初老の男が、傍らに立つ白衣の男を憮然と見据えた。
呉鎮守府に併設された軍港。大型艦船が行き来できるよう十分な深度設計がなされた開放的な湾内。
7:乾杯 ◆ziwzYr641k[saga]
2015/08/11(火) 22:23:39.99 ID:wqQE0kJT0
「……なんだそれは。貴様、吾輩を馬鹿にしておるのか」
「い、いえ! けしてそのような――」
8:乾杯 ◆ziwzYr641k[saga]
2015/08/11(火) 22:28:41.27 ID:wqQE0kJT0
「あの、それを申しましたら、深海棲艦とて姿形は必ずしも大きくありません。
どころか、中には等身大の女性に似ている者さえいると聞いております。
にもかかわらず、我々が敗北を喫しましたのは――」
9:乾杯 ◆ziwzYr641k[saga]
2015/08/11(火) 22:31:23.41 ID:wqQE0kJT0
「口にするのもあれだが、あの娘たちが、ごほんっ、深海棲艦に、勝利するところを?」
「はっ、演習にご協力いただいた提督の船に同乗させていただきまして、しかとこの目で」
10:乾杯 ◆ziwzYr641k[saga]
2015/08/11(火) 22:37:18.88 ID:wqQE0kJT0
「十五〇〇(イチゴーマルマル)から始めろだとさ。各自警戒待機」
「了解。いつもと勝手が違うかもしれませんが、気を引き締めていきましょう」
11:乾杯 ◆ziwzYr641k[saga]
2015/08/11(火) 22:40:34.92 ID:wqQE0kJT0
「お偉いさんへのパフォーマンスが大事だってのは、まあわかるわよ。
けど、ちょっと外海に出れば敵だってわんさか出てくるはずでしょ」
「それは、ですが、実戦ではどうしても不測の事態が有り得ますし」
12:乾杯 ◆ziwzYr641k[saga]
2015/08/11(火) 22:43:35.69 ID:wqQE0kJT0
「あなたの今の発言が何かの弾みで外部に漏れてしまったら?
悪い立場に立たされるのはあなたではなく提督。それくらいわかるでしょう?」
「……それはわかってる、けど……だからといって納得できるかは別だもん」
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