1:名無しNIPPER[saga]
2015/11/14(土) 12:13:41.89 ID:0oXNO4iLo
 
  校舎裏で青春ドラマが始まったのを、部室の窓から見下ろしていた。 
  
  時刻は午後三時四十分。 
  
 「告白?」 
  
  となりからの声に、俺は曖昧に頷いた。 
  
 「それっぽいよなあ」 
  
  園芸部が管理している畑のそば、 
  裏庭にひろがる雑木林の手前くらいに、男子と女子の背中がひとつずつ。 
  
  たぶん、下級生だろう。 
  どことなくだけど、そんな感じがした。 
  
  快晴とまではいかないが、天気は晴れだった。 
  最近は日も長いし、四時前の時点じゃまだまだ明るい。 
  
  東校舎三階の窓から、裏庭の様子ははっきり見える。 
  声までは聞こえないし、顔まではわからないけど。 
  
  がっつり覗きたいってわけでもない。 
  ある意味ちょうどいい距離感とも言える。 
 
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2:名無しNIPPER[saga]
2015/11/14(土) 12:14:07.60 ID:0oXNO4iLo
  
 「ロケーションはそこそこだね」 
  
  なんて偉そうなことを、窓から顔半分をつきだした出歯亀女が言った。 
  かくいう俺も出歯亀男なわけだけど。 
3:名無しNIPPER[saga]
2015/11/14(土) 12:14:33.86 ID:0oXNO4iLo
  
 「あ、手握った」 
  
  言葉のとおり、ふたりは手を握り合っていた。 
  というより、片方が片方の手を掴んだらしい。 
4:名無しNIPPER[saga]
2015/11/14(土) 12:15:00.43 ID:0oXNO4iLo
  
  それから、覗きにも飽きたんだろう、体を屋根の内側にしまいこんでから、窓をピシャリと閉めた。 
  ちょっとアテられたみたいな疲れた声音で、彼女は呟く。 
  
 「いいよねえ、新入生には未来があってさ」 
5:名無しNIPPER[saga]
2015/11/14(土) 12:15:30.86 ID:0oXNO4iLo
  
 「あのねえ、たっくんさ、ちょっと考えてもごらんなさいよ」 
  
  おどけた口調、わざとらしい呆れ顔。 
  今度はどこかのコメンテイターみたいなすかした感じで、彼女は言った。 
6:名無しNIPPER[saga]
2015/11/14(土) 12:16:13.25 ID:0oXNO4iLo
  
 「分かる? 彼らにはこれから、高一の初夏、梅雨、夏、夏休み、秋に冬……が、あるわけ」 
  
 「はあ」 
  
7:名無しNIPPER[saga]
2015/11/14(土) 12:16:44.94 ID:0oXNO4iLo
  
  そんな高森と俺はいま、東校舎三階の一角にある文芸部室にふたりきり、だ。 
   
  見ようによっては青春ドラマ的と言えなくもないかもしれない。 
  
8:名無しNIPPER[saga]
2015/11/14(土) 12:17:15.50 ID:0oXNO4iLo
  
  べつに付き合いが長いってわけじゃないけど、一年一緒にいても相手を意識するようなことも起こらなかった。 
  
  入学したときクラスが一緒で、部活も同じところに入ったから、自然と顔を合わせる機会が増えたってだけ。 
  よく言えば気さく、悪く言えば馴れ馴れしいって感じの高森は、受け身がちな俺にとっては話しやすい相手だ。 
9:名無しNIPPER[saga]
2015/11/14(土) 12:19:20.32 ID:0oXNO4iLo
  
  高森はつまらなそうな顔をしていた。 
  でも、俺は自分の高校生活の一年目に、これといった不満があったわけでもない。 
  
  クラスメイトとの仲だって悪くなかったし、これといったトラブルに巻き込まれた記憶もない。 
10:名無しNIPPER[saga]
2015/11/14(土) 12:19:46.78 ID:0oXNO4iLo
  
 「土日は経験値が二倍だから、出かけたくないの」 
   
  結構前に、そんなことを言っていた。 
  未知の領域。ゲーム内ではネナベの友達と結婚しているらしい。 
11:名無しNIPPER[saga]
2015/11/14(土) 12:20:25.94 ID:0oXNO4iLo
  
  ほうほう、なるほどね、と、何度もわざとらしく頷いたあと、ありもしない眼鏡を直す手振りをして、 
  
 「うそだな」 
  
12:名無しNIPPER[saga]
2015/11/14(土) 12:21:05.88 ID:0oXNO4iLo
  
 「それにしても、部長遅いね? どこまで行ってるんだろう」 
  
 「部員が非協力的だから、拗ねてるんじゃないの」 
  
13:名無しNIPPER[saga]
2015/11/14(土) 12:21:34.70 ID:0oXNO4iLo
  
 ◇ 
  
  
 「ただいま」という静かな声で、俺の意識は浮かび上がった。 
14:名無しNIPPER[saga]
2015/11/14(土) 12:22:14.67 ID:0oXNO4iLo
  
  部長は自分の定位置のパイプ椅子に腰掛けて、長めの溜め息をついた。 
  傍においてあった自分の荷物から下敷きを取り出したかと思うと、うちわ代わりに仰ぎはじめる。 
  
  よっぽど暑がっているらしく、額には汗が滲んでいる。 
15:名無しNIPPER[saga]
2015/11/14(土) 12:22:42.58 ID:0oXNO4iLo
  
 「だから時間かかったんですね」 
  
 「そうそう。職員室でペン借りて三十秒で終わらせたんだけどね」 
  
16:名無しNIPPER[saga]
2015/11/14(土) 12:23:21.48 ID:0oXNO4iLo
  
 「……え、名前が違うだけじゃないの?」 
  
 「そうなんですか?」 
  
17:名無しNIPPER[saga]
2015/11/14(土) 12:23:48.78 ID:0oXNO4iLo
  
 「それにしても、勧誘の文句、ダメだったんですか」 
  
 「そう。ごめんね、せっかくふたりに考えてもらったのに」 
  
18:名無しNIPPER[saga]
2015/11/14(土) 12:24:19.53 ID:0oXNO4iLo
  
 「……えっとね、最初は、"まったりしましょう"でいいってタクミくんが言って」 
  
  タクミくん、も俺のことだ。 
  
19:名無しNIPPER[saga]
2015/11/14(土) 12:24:48.46 ID:0oXNO4iLo
  
 「……で、採用された文章はなんだったんですか?」 
  
  部長はブレザーの内ポケットからスマホを取り出して、「ん」と画面をこっちに向けた。 
  どうやらポスターを撮ってきたらしい。 
20:名無しNIPPER[saga]
2015/11/14(土) 12:25:23.68 ID:0oXNO4iLo
  
 「絵の話じゃないです。文です」 
  
 「え、文?」 
  
21:名無しNIPPER[saga]
2015/11/14(土) 12:25:49.79 ID:0oXNO4iLo
  
 「大いに不満です。こんな定型文みたいな勧誘文句じゃ、部員なんて来ませんよ」 
  
 「うーん、そこはもともと、あんまり期待してないんだけどね」 
   
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