過去ログ - 【モバマスSS】香水 あるプロデューサーの物語
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72:名無しNIPPER[saga]
2016/04/02(土) 22:49:02.82 ID:zCk6PcLr0
 慶は、奈緒の握手会を三日後に設定している。地味かもしれないが、無名に等しい奈緒には、ファンと身近に接するイベントは何よりも大事である。
 基礎をしっかりと築いていれば、その上にどれだけ物を載せても揺るがない。しかし、基礎を堅牢にしないうちに上に積み上げてしまうと、累卵の危機となってしまう。そうなると、後から基礎を築きなおそうをしても遅い。
 百人のファンを千人に増やすのは厳しいが、千人のファンを一万人に増やすのは難しくないし、一万人のファンを十万人に増やすのはもっと容易いということだ。

「いいか、奈緒。どんなトップアイドルだって、最初から万人に知られた人気者だったわけじゃない。地道に仕事をこなし、下積みを経験したからこそ、今日に多くのファンを勝ち得ているんだ。今はどんな仕事も、将来の自分の糧になると思って全力でやれ」
以下略



73:名無しNIPPER[saga]
2016/04/02(土) 22:49:34.88 ID:zCk6PcLr0
 握手会当日、会場にはそれなりの数の客が詰めかけていた。

「し、新人アイドルの神谷奈緒です。よろしくお願いします!」

 奈緒は、慶の指導通りに客の一人ひとりと握手を交わしている。しかし、あまりスムーズとは言えない。
以下略



74:名無しNIPPER[saga]
2016/04/02(土) 22:50:21.16 ID:zCk6PcLr0
 二人連れの客の会話を盗み聞きし、慶はやはり自分の計算は間違っていなかったと思った。
 アイドルという仕事は、夢を売る仕事である。余程目の肥えた者でない限り、殆ど笑顔で騙されてくれるから安いものだ。

 客と握手を続ける奈緒を見つつ、慶は今後のプロデュース方針を決めあぐねていた。
 奈緒と加蓮は一歳違いだが、346には同時期に所属している。二人の関係はいたって良好で、ユニットを組ませるのという手もある。いや、ソロで活動させるより、そちらの方が良いだろう。
以下略



75:名無しNIPPER[saga]
2016/04/02(土) 22:51:03.60 ID:zCk6PcLr0




 ある日の夕刻、慶は自分のデスクルームで、書類に目を通していた。美城常務からメールで送信されてきたデータを、印刷したものである。
以下略



76:名無しNIPPER[saga]
2016/04/02(土) 22:52:04.42 ID:zCk6PcLr0
 それは、ささいなボイスレッスンだった。奈緒と加蓮は自主練として、シンデレラプロジェクトに所属している、new generationsというユニットの曲で練習していたのだ。
 そこを、当のシンデレラプロジェクトの、渋谷凛というアイドルが通りかかり、周囲の勧めもあって三人でレッスンしたという。

 「シンデレラプロジェクト」とは、346が企画したプロジェクトである。アイドルを目指して応募してきた少女たちの中から、有望な原石を選び出し、新たにデビューさせようというものだ。
 今年の春に発足したばかりであるが、夏ごろにはプロジェクトの全員がデビューし、定例行事のサマーフェスにはプロジェクト全体の新曲を披露し、成功を収めている。
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77:名無しNIPPER[saga]
2016/04/02(土) 22:52:54.16 ID:zCk6PcLr0
 渋谷凛は、そのシンデレラプロジェクトの一員である。
 十五歳という年齢からすれば、かなり背が高く、黒く豊かな長髪の持ち主である。直接話したことは無いが、態度はいつも沈着で、同年代に較べれば大人びている。
 サマーフェスを過ぎたころから、その渋谷凛と加蓮と奈緒が仲良くなったのは知っていた。しかし、加蓮と奈緒がここまで特定の人物に固執するのは珍しい。
 慶は件のレッスンを直接見たわけではないが、次第に熱を帯びてくる奈緒の口調から察するに、二人は渋谷凛と精神の深いところで通じ合ったのだろう。
 この仕事では、そういうことが稀にある。
以下略



78:名無しNIPPER[saga]
2016/04/02(土) 22:54:11.34 ID:zCk6PcLr0
 興奮する奈緒を、慶は冷静な目で見ていた。最初は奈緒をからかう風だった加蓮も、真剣な面差しになっている。
 奈緒の熱弁が途切れた後、長い沈黙が部屋の中を支配した。だが、堪え切れなくなった慶は吹き出し、呵々大笑する。
 自分たちのプロデューサーがおかしくなった。奈緒と加蓮は互いに顔を見合わせ、不安そうな目で慶の顔を凝視した。

 こんなお誂えがあってもよいのだろうか。哄笑を収めた慶は、デスクの上に置かれた資料に目を落とした。その一枚目には、ダイヤモンドの意匠と共に「Project Krone」という表題が躍っている。
以下略



79:名無しNIPPER[saga]
2016/04/02(土) 22:55:36.16 ID:zCk6PcLr0
「新しい企画には、二人と渋谷凛が入ってる。まあ、あっちにも事情や予定があるだろうし、シンデレラプロジェクトのプロデューサーとも話しをつけなくちゃならない。調整は俺がするから、精々頑張って、渋谷凛を口説き落とすことだな」

「ありがとう、慶さん!」

 慶の言葉を聞いた二人は、「やったー!」などと言いながら、手を取り合って欣喜雀躍した。
以下略



80:名無しNIPPER[saga]
2016/04/02(土) 22:56:40.85 ID:zCk6PcLr0
 慶は、先般の会議で美城常務が方針発表した際、シンデレラプロジェクトのプロデューサーが、常務に楯突いたことを思い出した。
 彼は世渡り上手というわけではなく、弁が立つわけでもない。しかし、仕事に対しては誰よりもひたむきで、常務もそんな彼を高く評価しているはずだ。

 やはり、分断策というのは穿ちすぎだろう。美城常務は、会社の利益を考慮しなければならぬ立場である。成長著しいプロジェクトを、わざわざ潰すような真似はするまい。ただ、彼女自身のプライドの高さゆえに、彼に強く当たっただけのことだろう。
 そして常務が渋谷凛、アナスタシア両名をクローネのメンバーに選出したのは、二人が持つ何かを見出したからに違いない。
以下略



81:名無しNIPPER[saga]
2016/04/04(月) 20:29:05.78 ID:0cF8uTc50



 慶は左手にウイスキーボトルを持ち、グラスを持った右手で、志希の部屋のドアをノックした。部屋の主がいようがいまいが、返事は無いと知っているので勝手に入る。
 志希は作業台に向かって、何かこまごまと作業をしていた。慶は近くの机の上にボトルとグラスを置き、椅子を引き寄せて座った。
以下略



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