878:名無しNIPPER[saga]
2017/11/15(水) 23:47:04.50 ID:lNunJpruo
◇
話はたいして弾まなかった。
879:名無しNIPPER[saga]
2017/11/15(水) 23:47:33.60 ID:lNunJpruo
彼女は不慣れな様子で栓を抜き、グラスを並べてそこに注いだ。
「よかったのか?」
880:名無しNIPPER[saga]
2017/11/15(水) 23:47:59.78 ID:lNunJpruo
「本当はね」、と、僕は話し始めた。
「今よりほんの少し普通に近い子供だった頃には、未来に対して希望をもっていたことだってあったんだよ」
881:名無しNIPPER[saga]
2017/11/15(水) 23:48:32.34 ID:lNunJpruo
「たとえば、僕にも好きな子がいた。それが、今よりは強かった希望というものかもしれない。でも、よく考えてみると分からないんだ。
僕は別に、その子と一緒にいたいとか、どこかへ行きたいとか、何かをしたいとか、そんなことは考えたこともなかった。
一緒に夏祭りに行きたいとか、クリスマスを過ごしたいとか、あるいは好きな音楽を言い合ったり休日に出かけたりね、
そんなこと、僕は別にしたくなかったんだ。映画なら一人で観る、食事も一人の方がいい、本の感想なんてあまり言葉にしたいものじゃない。
882:名無しNIPPER[saga]
2017/11/15(水) 23:49:24.15 ID:lNunJpruo
あさひは何も言わない。僕はまたグラスに口をつけて考える。
少し、違うような気がした。
そこにはまだ、自覚している以上の何かが秘められている気がする。
883:名無しNIPPER[saga]
2017/11/15(水) 23:49:57.05 ID:lNunJpruo
僕のいない世界。
それはずいぶん簡単にまわりそうな気がする。
何もかもがうまく回るような気がする。
884:名無しNIPPER[saga]
2017/11/15(水) 23:50:32.24 ID:lNunJpruo
僕が考え込んでいる間にあさひは立ち上がった。何かつまむものをとってくる、と彼女は言う。
僕は返事をしなかった。
885:名無しNIPPER[saga]
2017/11/15(水) 23:51:25.50 ID:lNunJpruo
いつのまにか空になったグラスにあさひがワインを注いでくれた。僕はそれに口をつける。
僕は、僕自身が生き延びるために、生きていていいんだと信じたいがために、愛奈を利用した。
886:名無しNIPPER[saga]
2017/11/15(水) 23:52:06.74 ID:lNunJpruo
認めよう。
僕がこんな有様になったのは、おそらく、祖父の姿のせいじゃない。
そこに起因する(と僕が思っていた)僕の憂鬱さえも、本当はそうではない。
887:名無しNIPPER[saga]
2017/11/15(水) 23:53:12.01 ID:lNunJpruo
――ごめん。ちがう。そうじゃなくて、なにか、悩みがあるなら、いつでも……。
――……いつでも、聞くから、って、そう言おうと思ったの。
小夜は、そう言ってくれた。
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