過去ログ - 高森藍子「誰かを笑顔にできるなら」
↓ 1- 覧 板 20
1: ◆6X9N3xfEM.[sage saga]
2016/07/24(日) 17:00:40.13 ID:wiTHyHYmO
※デレマス
ちょっと早いけど、藍子ちゃんハッピーバースデー!
SSWiki : ss.vip2ch.com
2: ◆6X9N3xfEM.[sage saga]
2016/07/24(日) 17:02:14.63 ID:wiTHyHYmO
プシュ!!
爽快な音が響き渡る。
袋の中で揺られてきた缶の開け口から黄金色の泡が噴き出す。
3: ◆6X9N3xfEM.[sage saga]
2016/07/24(日) 17:03:26.86 ID:wiTHyHYmO
去年のこの時期、俺は特に目的も希望もなくプラプラと就活から逃げ回っているだけの大学生だった。
広告代理店に勤務しているゼミのOBの勧めで小さな芸能事務所の面接を受けたのは九割以上の好奇心からだった。
それがどういうわけか最終面接まで進み、ついには内定をもらってしまった。
4: ◆6X9N3xfEM.[sage saga]
2016/07/24(日) 17:05:16.76 ID:wiTHyHYmO
就職してしばらくの間は研修として先輩のプロデューサーについてまわり仕事を覚えていた。
雑誌の取材、テレビ局、写真撮影、握手会、ライブステージ…
初めて触れる生の芸能界のきらびやかさに俺は毎日が新鮮な驚きの連続だった。
5: ◆6X9N3xfEM.[sage saga]
2016/07/24(日) 17:07:22.81 ID:wiTHyHYmO
研修期間が終わると途端に暇になった。
この春からアイドル候補生が所属する予定だったのが家庭の都合で取りやめになったらしい。
すでに所属しているアイドルには担当のプロデューサーがついている。
6: ◆6X9N3xfEM.[sage saga]
2016/07/24(日) 17:08:39.20 ID:wiTHyHYmO
たまに先輩の都合がつかないときに代理でアイドルたちの現場に付き添ったり送り迎えをしたりする。
芸能人といえばテレビで愛想を振りまいていても、実際会ってみると自己中心的で我がままな性格なんて勝手に決めつけていたがそんなこともなかった。
ウチの事務所の教育がいいのか、もともと性格のいい子を選んでいるのか、多少の個性はあるものの付き合い易い人たちばかりだった。
7: ◆6X9N3xfEM.[sage saga]
2016/07/24(日) 17:10:15.95 ID:wiTHyHYmO
担当するアイドルがいないなら、スカウトすればいいじゃないか。
そんな事を言う人がいたら渋谷でも原宿でもいい、実際に街角に立ってみてほしい。
どこからこんなに沸いてくるのかと思うくらい大勢の人が歩いているが、これはと思う相手に巡りあう確率というのは非常に低い。
8: ◆6X9N3xfEM.[sage saga]
2016/07/24(日) 17:11:12.80 ID:wiTHyHYmO
スカウトの仕方が分からないなら先輩に聞いてみるという手もある。
しかし俺はほとんどそれをしなかった。
断っておくがうちの会社は「仕事は見て覚えろ」だの「テクニックは盗むもの」だのと言った前時代的な風潮に支配されているわけではない。
9: ◆6X9N3xfEM.[sage saga]
2016/07/24(日) 17:12:39.84 ID:wiTHyHYmO
外に出てのスカウトがダメなら事務所で書類整理とでも思うのだが、ウチの会社にはやたらと有能なアシスタントがいる。
どこで売っているのか疑問に思うような明るい緑色の制服を着た彼女は、俺が一枚書類を完成させる間にその五倍は処理している。
彼女は電話を掛けながらパソコンのキーボードを叩き、手元のファイルから目的の書類を探すくらいのことは平気でやってのけている。
10: ◆6X9N3xfEM.[sage saga]
2016/07/24(日) 17:14:27.79 ID:wiTHyHYmO
いつ頃からだろうか、俺はスカウトをしてくると言って事務所を出て、街で時間をつぶすことに慣れてしまった。
断っておくが俺にだって最低限のプライドというか節度というものはある。
勤務時間中はパチンコ屋やマンガ喫茶など見られて言い訳のできない場所には入らないことにしている。
11: ◆6X9N3xfEM.[sage saga]
2016/07/24(日) 17:16:19.23 ID:wiTHyHYmO
今日もまあ二時間近くは街角で粘ってみた。
何人か綺麗な女の子に声もかけた。
出来るだけの努力はしたのだ、結果が出ないのは時の運というやつだ。
12: ◆6X9N3xfEM.[sage saga]
2016/07/24(日) 17:18:18.31 ID:wiTHyHYmO
「こんにちは」
ふいに声をかけられた。
花柄のワンピースを着た少女がこちらを見て微笑んでいる。
13: ◆6X9N3xfEM.[sage saga]
2016/07/24(日) 17:20:13.69 ID:wiTHyHYmO
向こうから声をかけてきたんだ。俺は覚えにないが前に会ったことがあるに違いない。
見た目は派手ではないが、なかなか可愛い。
スカウトで声をかけた覚えもないし、この年代の子で知り合いの可能性があるとすれば学生時代の友人の妹とか…
14: ◆6X9N3xfEM.[sage saga]
2016/07/24(日) 17:21:46.70 ID:wiTHyHYmO
「ふう、今日はポカポカでいいお天気なんですけど、日差しが強くて…動くとちょっと暑くなっちゃいますね」
「ああ、そうだね」
そう言う彼女の首筋にうっすらと汗が浮かんでいるのが見えた。
15: ◆6X9N3xfEM.[sage saga]
2016/07/24(日) 17:23:38.66 ID:wiTHyHYmO
「あ、それってもしかして」
しまった。
彼女に見とれていたのを悟られないように誤魔化したつもりだったが、ついさっき隠した缶ビールを手に取っていた。
16: ◆6X9N3xfEM.[sage saga]
2016/07/24(日) 17:24:48.98 ID:wiTHyHYmO
つくづく日本語というのは難しい言語だと感じる。
もし彼女の口から出た言葉を文字に起こし、国語のテストのようにどういう気持ちでこの発言をしたでしょうか、という設問をこしらえたら答えはきっとこうなるだろう。
『いい若い者が仕事をサボってブラブラして明るいうちから酒を人前で飲むなんて恥ずかしくないのか』
17: ◆6X9N3xfEM.[sage saga]
2016/07/24(日) 17:26:24.23 ID:wiTHyHYmO
「ああ、お店で買ってからここまで運ぶのにちょっとぬるくなってるけど…こうやって広々とした場所で飲むといつもと違って美味く感じるね」
「あ、分かります。普段食べているようなものでも外で食べると何故か美味しく感じるんですよね。そういえばこの間、家族とピクニックに行ったんですけど…」
彼女はポケットアルバム取り出すとこちらに見せてくる。
18: ◆6X9N3xfEM.[sage saga]
2016/07/24(日) 17:28:09.46 ID:wiTHyHYmO
ガサガサ
不意に後ろで音がした。
見るといつのまにか現れた黒い猫がコンビニの袋に頭を突っ込んでいる。
19: ◆6X9N3xfEM.[sage saga]
2016/07/24(日) 17:29:43.87 ID:wiTHyHYmO
パシャリ
音がした方を見ると、少女がいつの間にか取り出したカメラを手にしていた。
「あ、ちょっと」
20: ◆6X9N3xfEM.[sage saga]
2016/07/24(日) 17:30:53.56 ID:wiTHyHYmO
「ああ、もうこんな時間か」
彼女との会話と猫との格闘に夢中になっていた俺の腕時計の針は予想よりも先に進んでいた。
「あ、ごめんなさい。ついおしゃべりに夢中になっちゃって、お仕事の方は大丈夫ですか」
21: ◆6X9N3xfEM.[sage saga]
2016/07/24(日) 17:32:34.10 ID:wiTHyHYmO
「えーと、これは…アイドル事務所のプロデューサーさん、ですか」
担当アイドルが居なくてもプロデューサーを名乗っていいのだろうか。
多少の罪悪感を覚えながらも彼女に見栄を張りたい欲が勝り大きくうなずいてしまった。
40Res/31.89 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。