6: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 17:57:17.36 ID:O4qi00qi0
2.気持ちを掬って
バターンっと騒々しくドアは開かれ、バタバタと俺のデスクに駆け寄ってきた彼女は、バシーンっと書類をデスクに叩きつけた。
的場梨沙、激怒。なんてタイトルみたいな一文が浮かぶぐらいには怒り心頭な感じだった。鼻息の荒い梨沙の後ろには、息を荒くした輿水さん。どうやら一緒に走ってきたらしい。
7: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 17:58:53.47 ID:O4qi00qi0
「それで、いったいなにをしたらここまで怒らせられるんです?」
梨沙はガルルとこちらを威嚇していて話にならない。輿水さんは困惑した様子で訊ねてきた。
「いやー、どうだろうね、なにか気に食わなかったのかな」
8: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:00:38.11 ID:O4qi00qi0
謝っても梨沙はそっぽを向いて取り合ってくれない。どうしたものかと思索していると、輿水さんは仕方ないですねと呟いた。冷や汗が背中を伝う錯覚を覚える。
「その書類ですよね? 見せてください。第三者としてボクが判断しますから」
膠着した話にそろそろ疲れてきたらしい。輿水さんは呆れたようにいって書類を指差した。恐れていた展開だ。しかも梨沙まで、そうね幸子に判断してもらいましょ、と乗り気ときている。
9: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:02:36.19 ID:O4qi00qi0
梨沙は大仰にため息を吐いた。怒りを通り越して呆れたらしい。こうなってくるとどっちが大人かわからなくなってくる。
「なんでこうも極端なのよ。全部合わせてちょうどいいぐらいだわ」
「本当に面目ない。俺もまさかここまでのものができあがるとは思わなかったんだよ。もちろん、決定じゃないから安心してくれ」
10: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:04:16.93 ID:O4qi00qi0
輿水さんのバンジージャンプチャレンジが終わって、しっかりアイドルらしい活動になったのは衣装騒動から二ヶ月後。梨沙の衣装のデザインが決定した頃だった。
デスクにやってきた梨沙は明るく言う。
「アンタもやるときはやるのね。幸子、喜んでたわよ」
11: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:06:06.03 ID:O4qi00qi0
3.世界レベルと個人レベル
つまるところ、ぼくと彼女に大した違いはない。
意識が外に向いているか、内に向いているかの違いだけだ。外にはぼくも含まれるし、内には彼女も含まれる。結局、意識している範囲の違いで、それでも、目指すべき先は同一なのだから差異なんて些細な問題だ。
12: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:08:15.37 ID:O4qi00qi0
テレビ局での打ち合わせを終えてプロダクションへ戻る頃には、日は完全に落ちていて、定時もとっくに過ぎていた。
夏もそろそろ終わりだというのに、暑さはまだまだ居座ろうとしている。ロビーに入るとクーラーの涼しさが心地よかったが、汗のせいですぐに肌寒く感じた。
この仕事は業種柄、勤務時間にムラがあって、会社はまだまだ営業中。良し悪しの判断は捨て置こう。考えても、辞める気はないので意味はないのだ。
13: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:09:53.06 ID:O4qi00qi0
「うわぁ、行きたくねー」
いっそ幻覚のほうがましだ。しかし、この状況を無視もできない。困惑した様子の後輩にだって謝らないと。
ため息を吐いてから、ぼくは部屋に足を踏み入れる。ぼくに気づいた後輩に目で悪いねと伝えると、安堵の色を浮かべて自分のデスクに戻っていった。ヘレンさんの前で立ち止まる。
14: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:11:15.58 ID:O4qi00qi0
意味不明だけど、なんとなく納得させられてしまう。
世界レベルは伊達ではないらしい。
「で、なにやってんですか。レッスンはもう終わってるでしょう」
15: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:12:55.68 ID:O4qi00qi0
きっと思いつきではなくて、初めからぼくを誘うつもりだったのだろう。
ヘレンさんの服装は白い無地のブラウスと、タイトなジーンズに濃い紫色のショルダーバッグ。普段と比べると地味と言えるし、換言すれば目立たない格好だった。
スーツの男と歩いても自然な格好。ヘレンさんは意外と気遣いのできる大人なのです。
16: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:14:32.55 ID:O4qi00qi0
「塩二つ!」
「だそうです、お願いします」
カウンターに通されて、並んで座る。ヘレンさんは水の入ったコップを持ちながら、愉快そうに笑った。
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