2: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2016/12/07(水) 21:00:38.36 ID:Q/KsUm3o0
俺の人生は幸子のためにある。
輿水幸子というアイドルを育むことこそが俺の生きがいであり、命そのものだ。
全人類が輿水幸子に溺れ、その渦の中心で俺は彼女を足下から見上げる。
そんな未来を夢想して日々を生きている。プロデューサーとしての本懐だ。
3: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2016/12/07(水) 21:02:39.65 ID:Q/KsUm3o0
課長との打ち合わせを終え、小会議室を出る。
打ち合わせの内容は、幸子の初シングルの販促について。
デビュー当初は、輿水幸子という名前を消費者に覚えさせなければ話にならない。
事務所所属のアイドルがパーソナリティを務めるラジオへの出演、地方のショッピングモールを回るミニライブツアー。
4: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2016/12/07(水) 21:06:41.06 ID:Q/KsUm3o0
「どうした? 何かあったのか!?」
『助けて! 助けてくださいプロデューサーさんっ! 早くしないとボク――』
「落ち着け幸子。まずは状況を教えてくれ。幸子はまだ、執務室にいるんだな?」
5: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2016/12/07(水) 21:08:52.38 ID:Q/KsUm3o0
死んでいなかった。生きている。
視界に移るのは白い天井。それと豆電球。
全身に重み、頭の後ろには柔らかなざらざらとした感触を覚える。
俺は布団と毛布をかけられ、ベッドに横たわっていた。
6: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2016/12/07(水) 21:11:09.57 ID:Q/KsUm3o0
階段ですっ転んで天国行きなんていう間抜けな事態にはなっていないようで、まずは胸を撫で下ろした。
しかし、とはいえ一週間だ。
何が何やらわからないが、幸子にも事務所にも迷惑をかけているだろうし、まずは連絡を入れなければな。
電話帳から幸子の連絡先を選択し、スマホを耳元へやる。
7: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2016/12/07(水) 21:13:18.63 ID:Q/KsUm3o0
『プロデューサーさん? どうしました?』
ああ、耳慣れた幸子の声が嬉しい。
「心配かけたな、幸子。いま目覚めたところだ。まずはお前に報告しなきゃと思って」
8: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2016/12/07(水) 21:16:36.46 ID:Q/KsUm3o0
ソロライブというのは、まさか、地方のショッピングモールを回る、例のリリースツアーのことを指しているのか?
いやさすがの幸子もそこまで自惚れてはいないだろう。
首を捻りながらも、確かに遅刻はまずいと思い、シャワーを浴び、バスタオルを腰に巻き付け歯を磨く。
9: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2016/12/07(水) 21:18:31.51 ID:Q/KsUm3o0
ライブは盛況のうちに幕を閉じた。
幸子の歌う曲は俺の知らないものばかりだったが、終始、俺の目からは涙が溢れて止まらなかった。
ライブが終わって、あのポスターのように光り輝く表情で楽屋へと戻ってくると、幸子は開口一番「次はドームですね!」などと宣った。
気が早いと返してやると「フフーン、このボクですからねえ、来年の今頃には叶ってるはずです」と頼もしいことを言ってくれる。プロデューサー冥利に尽きる。
10: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2016/12/07(水) 21:25:48.47 ID:Q/KsUm3o0
自宅のベッドへ横になると、いつの間にやら俺は眠ってしまっていたようだった。
雀の鳴き声がかすかに聞こえ、起き上がると、カーテンの隙間から朝日が差している。
部屋の中を見回すと、雑多に散らかったスーツや酒瓶。こじんまりとした液晶テレビに、こたつと座椅子。
11: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2016/12/07(水) 21:28:31.73 ID:Q/KsUm3o0
自分の体を見るとどうやらこちらも裸らしい。
恐る恐るベッドを降り、誰の部屋だか知らないが勝手にシャワーを借りて、床に落ちていたスーツに着替えた。
さすがにトランクスや靴下なんかは、新しいものをタンスから拝借した。
幸子はシャワーの音で目を覚ましてしまったらしく、寝ぼけ眼であくびをしている。
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