過去ログ - 渋谷凛「水風船のように」
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1:名無しNIPPER[saga]
2017/03/17(金) 12:21:25.68 ID:1HyDqIB70
奏と凛が夏祭りにいく話

速水奏「ゆらゆら揺れて、夢のようで」(ex14.vip2ch.com)と関連が深いです。

・奏が一人暮らしを始めた

・凛がよく遊びにいってる

・奏が18歳、凛が16歳になってる7月終わりの話

上の三点

地の文です

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2:名無しNIPPER[saga]
2017/03/17(金) 12:22:39.68 ID:1HyDqIB70

 桜はとっくに散った。

 ツツジが咲いたと思ったら、アジサイが信号機みたいに咲き始めた。

以下略



3:名無しNIPPER[saga]
2017/03/17(金) 12:23:27.43 ID:1HyDqIB70

 憂鬱な定期テストを潜り抜けたら、大きな入道雲が梅雨前線を蹴っ飛ばして、気がつけば夏だった。

 ジクジクと鳴き始めた蝉の声、風鈴、プール帰りの小学生。

以下略



4:名無しNIPPER[saga]
2017/03/17(金) 12:24:20.68 ID:1HyDqIB70

 私が奏の家に泊まるようになったのは、確か去年の冬だった。

 大きなライブが終わって、私の中で一区切りがついてしまいそうになった頃。

以下略



5:名無しNIPPER[saga]
2017/03/17(金) 12:25:33.77 ID:1HyDqIB70

 どうして奏だったんだろう? 

 私自身よくわかっていなかったけれど、初めて泊まった日に「寒かったでしょ?」と差し出されたホットチョコレートの味は覚えている。甘くて、暖まって、とても落ち着く味だった。

以下略



6:名無しNIPPER[saga]
2017/03/17(金) 12:27:07.30 ID:1HyDqIB70

 私はソファーの上で足をバタつかせていた。
 クッションを抱えて、ファッション誌を開いていた。

 なにも言わないのをいいことに、私は奏の部屋に物を増やした。
以下略



7:名無しNIPPER[saga]
2017/03/17(金) 12:29:58.52 ID:1HyDqIB70



 赤と白の提灯が街灯代わりにぶら下がっていた。

以下略



8:名無しNIPPER[saga]
2017/03/17(金) 12:31:32.99 ID:1HyDqIB70

 奏は人混みに当てられたと言って、

 早々にベンチに腰を下ろした。私は一人買い出しにでも行こうかと思った。

以下略



9:名無しNIPPER[saga]
2017/03/17(金) 12:32:40.98 ID:1HyDqIB70

 去年までの私だったら、わけもなくたこ焼きやチョコバナナでお腹をいっぱいにしていたものだったけれど、「今年はそんなに食べられないよね」と独り言ちた。

 ソースの焼ける匂いに負けて、1パックだけ。

以下略



10:名無しNIPPER[saga]
2017/03/17(金) 12:34:23.40 ID:1HyDqIB70
「何度でも来てくれ! いくらでもおまけするぜ」

「考えておくね……」

 ただそれだけだったのに、ざわざわの中に噂する声が聞こえだして、お祭りに行くのも大変になってしまったんだな、と実感した。
以下略



11:名無しNIPPER[saga]
2017/03/17(金) 12:35:44.78 ID:1HyDqIB70

「焼きそば。食べる? 多すぎて食べきれないよ」

「なら、一口頂戴?」

以下略



12:名無しNIPPER[saga]
2017/03/17(金) 12:36:51.86 ID:1HyDqIB70

 帰る前にこれだけと、彼女は大きな綿あめを買った。

 左手でふわふわをちぎって、小さな口でそれを食む。

以下略



13:名無しNIPPER[saga]
2017/03/17(金) 12:38:07.95 ID:1HyDqIB70

「みんなどうして向こうに行くのかしら。なにかあるの?」

「花火があるんだ」と私は答えた。

以下略



14:名無しNIPPER[saga]
2017/03/17(金) 12:38:59.26 ID:1HyDqIB70

「観に行こうよ、花火。そこの川から綺麗に見えるんだ」

 ほら、と右手を出せば、そろりと左手が差し出される。掴むと、びっくりするくらい小さかった。

以下略



15:名無しNIPPER[saga]
2017/03/17(金) 12:40:16.09 ID:1HyDqIB70



 思っていたよりも、河川敷で花火を待つ人は少なかった。

以下略



16:名無しNIPPER[saga]
2017/03/17(金) 12:41:05.78 ID:1HyDqIB70

「真っ暗でしょ? なにも見えない。目が慣れたらなにか見えるようになるかと思ってたのよ」

「なにも見えないよ。多分これからも」

以下略



17:名無しNIPPER[saga]
2017/03/17(金) 12:42:38.63 ID:1HyDqIB70
 奏はもう小さくなった綿あめをひとつちぎって、口に入れる。

 美味しいのね、と言って、最後のひとかけらをちぎる。

 左手の人差し指と親指で摘んだふわふわを、今度は私の口に押し付けた。「……甘いね」
以下略



18:名無しNIPPER[saga]
2017/03/17(金) 12:43:50.28 ID:1HyDqIB70

 わざとらしいくらいに物の無かったあの部屋も、笑い方も、その涼しげな表情も。

 彼女の嘘はいつだって優しくて、それでも、自分の一番柔らかいところを守る仮面なんだろう。
 誰でも受け入れるその嘘は、奏が誰も受け入れていないことの証明のように思えた。
以下略



19:名無しNIPPER[saga]
2017/03/17(金) 12:46:15.60 ID:1HyDqIB70

 今から綺麗なものを観ようよ。

 私はそう言った。もうすぐ八時半、お祭りは初めてと奏は言っていた。

以下略



20:名無しNIPPER[saga]
2017/03/17(金) 12:47:16.23 ID:1HyDqIB70

「……ねえ、どうかしたの? 凛がそんなに」

 奏と目が合う。
 レンズ越しの目が小さく揺れている。
以下略



21:名無しNIPPER[saga]
2017/03/17(金) 12:48:50.39 ID:1HyDqIB70

 真っ黒だった空に、大きな色が飛び散った。
 まるで水風船が弾けたようだと思った。

 その後一拍おいて、ドン、と音が響く。
以下略



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