1:名無しNIPPER[saga]
2017/03/27(月) 22:10:28.07 ID:4Rea9gbvo
風邪をこじらせて臥せっているはずの彼女は、
プロデューサーだけにそのメッセージを送った。
速水奏のプロデューサーは、とにかく馬鹿正直だと、もっぱら評判だった。
細やかな気配りができない代わりに、裏表のない快活な人物だ。
奏のほうもそれをよく知っているからこそ、短い言葉で済ませた。
「アイドルを辞めます」
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2:名無しNIPPER[saga]
2017/03/27(月) 22:11:31.40 ID:4Rea9gbvo
「なぜ」
時間をおいてプロデューサーの返事が来る。
「とにかく」
3:名無しNIPPER[saga]
2017/03/27(月) 22:12:33.75 ID:4Rea9gbvo
「どうして」
冷たく湿った指先では、うまく文章が打てない。
結局、自分のしようとしていることの結果は同じなのだから、
4:名無しNIPPER[saga]
2017/03/27(月) 22:13:28.89 ID:4Rea9gbvo
「速水、部屋に居るのか」
そして、プロデューサーは、奏の期待通りに戸を叩いてくれた。
「鍵なら」
5:名無しNIPPER[saga]
2017/03/27(月) 22:14:27.42 ID:4Rea9gbvo
「声が出せないのか?」
頭から被った布団の中の暗闇、奏の目に涙が滲んだ。
微かな震えに気づいて、プロデューサーは戸惑った。
6:名無しNIPPER[saga]
2017/03/27(月) 22:15:17.27 ID:4Rea9gbvo
プロデューサーは塊の傍へ屈みこんだ。そして、布団をそっと撫でた。
「いやっ、やめて……」
奏はかなり強く抵抗した。が、プロデューサーは無理やりに布団を剥がした。
7:名無しNIPPER[saga]
2017/03/27(月) 22:15:58.05 ID:4Rea9gbvo
「たまげたな」
プロデューサーが呆気にとられていると、そのカエルは顔を覆って泣きに泣いた。
「私、なにか悪いことしたかしら。どうしてこんなことが起こるのよ、ねえ、プロデューサー……」
8:名無しNIPPER[saga]
2017/03/27(月) 22:16:58.55 ID:4Rea9gbvo
「俺、爬虫類は好きだぜ」
プロデューサーはペタリとカエルの肩に手を置いた。
「慰めになんか、ならないわよ……!」
9:名無しNIPPER[saga]
2017/03/27(月) 22:18:06.06 ID:4Rea9gbvo
二人は床へ直に座って、カップ麺を啜った。
プロデューサーは不思議な気分だった。
奏は顔だけでなく、体までがカエルそのものだった。
頭髪どころか体毛もなく、わずかに湿った皮膚が筋肉の動きに伸び縮みしている。
10:名無しNIPPER[saga]
2017/03/27(月) 22:19:03.61 ID:4Rea9gbvo
「味、変わらないか」
「ン……いつもよりおいしいくらい」
「そうか」
11:名無しNIPPER[saga]
2017/03/27(月) 22:19:58.96 ID:4Rea9gbvo
「どうしたらいいのよ。一生このままだったらどうしよう、アイドルなんて無理。
外へだって一生出られない。どうしよう、ねえ、プロデューサー」
「とにかく、食ってから泣けよ。悪かったよ、俺も」
12:名無しNIPPER[saga]
2017/03/27(月) 22:20:35.31 ID:4Rea9gbvo
腹を満たして、なんとなく映画など観始めると、その状況に慣れてきたらしい。
プロデューサーと奏は肩を並べて、テレビ画面に見入っていた。
俳優の顔がアップになって、奏はポツリと呟いた。
「もう、私はダメね」
13:名無しNIPPER[saga]
2017/03/27(月) 22:21:13.75 ID:4Rea9gbvo
「今日は泣いてばかりだな」
「いつも、独りで泣くからね」
彼女はパカっと口を開け、微笑した。
14:名無しNIPPER[sage]
2017/03/27(月) 22:21:44.19 ID:7usV35SZO
なんやこれ
なんやかこれ!?
15:名無しNIPPER[saga]
2017/03/27(月) 22:22:18.87 ID:4Rea9gbvo
奏の好きな映画を2本観終わってから、風呂に入った。
順番はプロデューサーが先で、石鹸などと一緒に置いてあるカミソリに、少しだけ影のような心配事が湧いた。
けれど、彼は奏を信じることにした。
「熱いお湯は、やめておいたほうがいいかもな」
16:名無しNIPPER[saga]
2017/03/27(月) 22:23:00.18 ID:4Rea9gbvo
彼の心は奏との出会いにまで遡った。
出会ってすぐ、キスをせがまれた。
年頃の娘さんが……、馬鹿正直に言って聞かせて、奏はきょとんとしていた。
二度、三度と繰り返して、ぷーっと吹き出した彼女に、ようやく彼は気づいた。
17:名無しNIPPER[saga]
2017/03/27(月) 22:23:41.06 ID:4Rea9gbvo
「プロデューサー、上がったよ」
奏の口は、あの日と違う。けれど、プロデューサーには同じのような気もした。
「寝よう」
18:名無しNIPPER[saga]
2017/03/27(月) 22:24:16.60 ID:4Rea9gbvo
「なあ、奏」
「なによ」
「一緒に暮らさないか」
19:名無しNIPPER[saga]
2017/03/27(月) 22:24:47.42 ID:4Rea9gbvo
「どうして」
「カエルだもの。私は醜くなったから」
「綺麗なときだって、そう変わらんぜ」
20:名無しNIPPER[saga]
2017/03/27(月) 22:25:48.62 ID:4Rea9gbvo
彼は彼女を抱き寄せて、湿った口にキスをした。
触れた瞬間から、お互いに目を閉じて、透明な言葉が音もなくすり抜けていくのをじっと聴いていた。
そうして、魔法は解けた。
21:名無しNIPPER[saga]
2017/03/27(月) 22:26:23.77 ID:4Rea9gbvo
「帰る」
「カエル?」
「帰宅します」
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