2:名無しNIPPER[saga]
2019/10/13(日) 16:13:11.99 ID:Bh2qsw+10
あたしが男の子だったら…ううん、でもそれじゃきっとプロデューサーに会えなかったかな?
3:名無しNIPPER[saga]
2019/10/13(日) 16:16:20.56 ID:Bh2qsw+10
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勤め人と学生と老人でできた雑踏、時刻は夕暮れ。
いつもよりずっと早い時間帯の退社は、臨時ミーティングという見えすいた方便が可能にしたものだ。まあ、そのお題目で呼びつけられたのは事実だし、モチベーション管理という意味では仕事の一環と言えなくもないーーもちろんそんな寂しいことを言うつもりはない。
4:名無しNIPPER[saga]
2019/10/13(日) 16:17:36.95 ID:Bh2qsw+10
まあ、意図は理解できた。
ついでにオモテのことなど頭の片隅にもないと踏んだ俺の思い過ごしも謝ろう。
しかし開けっ放しとは感心しない。未だオートロックもないアパート住まいでその不用心は流石に無防備がすぎる。きょうび一般の女の子だってそんなことしないだろうし。
ノブを引くと本当にドアが開く。ため息混じりに足を踏み入れる。と、
5:名無しNIPPER[saga]
2019/10/13(日) 16:18:59.52 ID:Bh2qsw+10
「さぁーしまってこー! まだまだ7回! 勝負は最後までわからなぁぁぁい!! プロデューサーお仕事お疲れさまーっ!」
「応援のついでか」
まあまだマシか。攻撃中だったらそれすら混ぜてもらえなかったかもしれない。
「ついでなんかじゃないってー! あ、お出迎えできなかったのはゴメンね? さっきはちょーど一世一代の山、ば……」
その和室の真ん中に胡座で陣取るアイドル姫川友紀は、数分前の記憶に海よりも深い色の目をする。
6:名無しNIPPER[saga]
2019/10/13(日) 16:21:09.17 ID:Bh2qsw+10
「……クーラー、点けてないのな」
戸を開けた瞬間に冷気が流れ込んでくるのを期待していたが、出迎えは外気の同等の扇風機の熱風と、友紀の応援で茹で上がった空気だった。友紀が布団がわりに使いがちなねこっぴーのぬいぐるみクッションも、うだった様に四肢を広げている。
まあ、予想はついていた。なにしろ、アパートの外までキャッツ贔屓の声援は筒抜けだったから。
しかし当の友紀は汗だくのまま、俺の落胆などどこ吹く風だ。
「だってー、その方が野球っぽいじゃん?」
7:名無しNIPPER[saga]
2019/10/13(日) 16:23:06.08 ID:Bh2qsw+10
礼も反論も置き去りにされた俺はつられるように画面を見る。現在7回のオモテ相手チームの攻撃はツーアウトでランナーなし、5対4とキャッツが一点差を追いかけている状態だ。まあキャッツの得点力であと3回攻撃があると考えたらそのリードはないに等しく、時折映る相手チーム監督の表情は険しいままだし、逆にキャッツの選手やスタンドの客にもまだ焦りは感じられない。
それは友紀も同じで、一球一球に一喜一憂してはいるがさほど差し迫った様子もなくビールとつまみを往復している。
「…………」
俺もビールに口をつけながら、横目で友紀を窺う。
よく動く童顔のパーツに、日焼け寸前の健康的な肌のいろ。Tシャツの上に羽織った贔屓の法被は小柄な身体の腰の辺りまであり、その下半身もホットパンツから汗ばんだ素足が無造作に飛び出して、座ったままジタバタと忙しそうにしている。
8:名無しNIPPER[saga]
2019/10/13(日) 16:24:49.56 ID:Bh2qsw+10
ふうん、と返事しながら、それでも俺はストッパーにならねばと肝に銘じる。酔っ払った友紀に野球が合わさると歯止めが効かない。いくらご近所に善人が多いと言っても、親しき仲にも礼儀あり。最低限のマナーというものはあってしかるべきなのだ。
「あぁー!! いけいけいけ回れ回れ回れぇぇ!!」
「はいはいはいはい、いよぉぉぉしっ!! 値千金いただきましたーっ!!!」
9:名無しNIPPER[saga]
2019/10/13(日) 16:25:58.68 ID:Bh2qsw+10
拳を掲げていた俺の胸元に抱きついてきた。いくら小柄で軽いとはいえ、突撃されれば流石に慌てる。畳に片手をついて持ちこたえるが、そんな俺の努力をあざ笑うようにーーもとい、けらけら笑いながら、真っ赤な顔と汗だくの肢体を押し付けてくる。
「ほら熱い暑い」
「えへへー」
顔は近く、胸は当たり、腕を絡みつかせて、熱が一気にあがる。汗臭さも酒臭さも、自分もその一部だからか気にならない。むしろ、寝かせていた獣欲を揺さぶるスパイスでさえある。
「んー! ねーねー、」
10:名無しNIPPER[saga]
2019/10/13(日) 16:34:21.74 ID:Bh2qsw+10
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「この日のために瓶ビール買っといたんだよねー! いやーよかったー!」
友紀の声がかすかに反響する、浴室特有のクリーム色の壁。ユニットタイプではないが一人暮らしのサイズだから、俺と友紀が入るとだいぶ窮屈で、タイル部分に二人居るなら立つしかない。
11:名無しNIPPER[saga]
2019/10/13(日) 16:36:39.84 ID:Bh2qsw+10
「えっへっへー! でしょでしょー?! このお仕事で初めてビールかけして、それはそれで楽しかったけど、んー、やっぱりアイドルとしてのファールゾーンってあるから、いっかいタブーなしボークなしでやってみたかったんだよねー!」
ああ、そういうこともあったな。確かにドレスだったりシャンパンだったり、いわゆるテレビで観るような地獄絵図には流石にさせていなかった、
「ビールかけもだけど、思えば今まで色々あったね。もしアイドルになってなかったら……プロデューサーに出会ってなかったら、したくてもできなかったこと、できるとも思えなかったこと、いっぱいいっぱいありすぎて。全部、プロデューサーのおかげで、させてもらえたんだ。それは、プロデューサーっていう最高の女房役がいてくれたから頑張れたっていうのも、もちろんあるよ」
突如の告白に戸惑う。泣上戸ではないはずの友紀だが、そのしみじみとした口調におされ、思わず居住まいを正してしまう。
「友紀……」
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