新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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20: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:27:15.71 ID:5kzXp0UHO

慧理子は美波が続ける言葉を予想し、吐き捨てるように遮った。美波が言葉を失うなか、慧理子は言葉を継いだ。


慧理子「兄さんが医者になろうとしてるいるのは、自分の評価のためよ。それだけなの」
以下略 AAS



21: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:28:10.70 ID:5kzXp0UHO

美波が上京してから、海斗の姿を見たことはなかった。彼のことはすっかり忘れていたくらいだ。妹が海斗の名前を口にした途端、美波のなかで子どもの頃の記憶が、鮮やかな輪郭をともなって蘇ってきた。記憶のなかの季節は夏で、圭と海斗が虫とりにいく様子を二階の自分の部屋から眺めていた。麦わら帽子をかぶり、虫とり用の網とカゴを持った海斗のあとを、弟がついていっている。風を呼び込もうと開けた窓から、笑いあいはしゃいでいるふたりの声が聞こえてきて、部屋に遊びに来ていた友達に呼び戻されるまで、ずっと聞き入っていたことが思い出された。

その海斗のことが、いまなぜか問題になっていた。

以下略 AAS



22: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:30:43.67 ID:5kzXp0UHO

病院から出ると、青黒い分厚い雲が太陽を完全に隠してしまっていた。集合した雲はひとつの生き物のようで、上空を吹き荒ぶ強風に運ばれる様子は、まるで空を蛇行する蛇のようだった。風の唸りは、鈍く光る蛇の運動によって引き起こされているかのようで、その振動が地上に降り注ぐと病院の窓を一つ残らず揺さぶった。ガタガタっとうるさい音が病院全体から響いている。明日の天気が不安になるような空模様だった。

埼玉の家に戻ってくると、玄関にスニーカーが爪先を揃えて扉の方に向け、置かれていた。美波がリビングへ行くと、まだマフラーを巻いたままの圭が、IHヒーターの上にヤカンを置き、コーヒーを淹れるために加熱をしているところだった。厚めのカーディガンの分だけ着膨れした学生服の袖から、寒さで青白くなった手のひらを出し、ヤカンからの放熱を受け止め、手のひらを温めている。

以下略 AAS



23: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:31:59.28 ID:5kzXp0UHO

ブラックのまま手渡されたコーヒーの味にいよいよ舌がうんざりしてきた美波はソファから立ち上がり、キッチンに砂糖とミルクを探しに行った。弟が座っているキッチンの椅子の背に、すでに首から解いたマフラーがかけられている。弟のカップのコーヒーは黒い液体のままだった。ぬるくなって湯気もたたない黒いコーヒーとは対照的に、圭の手のひらはカップの温度が移ったのか、しっとりとしたピンク色に染まっている。

単語カードを繰る音と、コーヒーをかき混ぜるスプーンがカップに当たるカチャカチャ音が交互に、そして十回に一回くらいの割合で同時に鳴った。カップの中身が乳白色で中和されきった。美波がカップから弟に視線をやると、手元の単語カードは残すところあと数枚というところだった。

以下略 AAS



24: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:33:25.26 ID:5kzXp0UHO

圭の二度目の返答を聞いた美波は、唐突に理解した。弟は、わたしの求めるものを求めていない。

圭はコーヒーを飲み終わると、カップを手に持ったままの美波の横に立ち、空になったカップを水で濯いだ。流しで水を切り、食器乾燥機に洗ったコーヒーカップを置くと、椅子にかけてあったマフラーと床のバッグを手に持ち、二階の部屋へと消えていった。

以下略 AAS



25: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:34:39.52 ID:5kzXp0UHO

圭は姉のことを嫌っているわけでも、非難しているわけでもない。美波が圭と結び直したいと願っている関係性に、単に関心がないだけだった。弟は、家族の枠組は守られているのだから、なにも不満に思うことはない、とでも考えているようだった。呼びかけられれば、応える。それだけ。子どものころの思い出の品物がふたたび目の前に帰ってきたとして、それをなつかしむことはあっても、それをふたたび子どものころのように使うことはあるのだろうか。その品物が存在することだけに満足して、またどこか押入れにでもしまい、現在の生活に戻るのが、大方の人間のすることだろう。

弟は、現在の生活に過去の面影がなくても平気なのだ。

以下略 AAS



26: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:36:05.15 ID:5kzXp0UHO

そんなふうに読めるのは、あまりにも個人的な事情に引きつけて詩を読んだせいだ。しばらくしてから美波はそのように思い直し、止まっていた手を動かして詩の続きを読んだ。また美波の手が止まった。ブレイクの詩によって動揺の次にもたらされたのは、恐怖だった。詩の後半で、先の言葉を側で聞いていた司祭が少年を引っ立て、両親の懇願もむなしく、涙に咽ぶ少年を火刑に処してしまう。


《そして少年を聖なる場所で焼き殺した、/そこは多くの者がこれまで焼き殺された場所。/両親が泣き叫んでもむだであった。/こんなことがアルビヨンの岸辺で今でも行われているのか。》
以下略 AAS



27: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:37:11.72 ID:5kzXp0UHO

ーー七月二十三日・美城プロダクション・CPルーム

美波はソファに身を沈めて、深く息を吸い、気持ちを切り替えようとする。

以下略 AAS



28: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:38:23.12 ID:5kzXp0UHO

記憶野と想像野にどっちつかずのまま架け橋のように横たわる火刑のイメージ。それはやがてもうひとつ変化を遂げた。黒く焦げた肉体が千切れて一部となり、その一部がまた千切れ、粒子の段階まで分解される。周囲に漂いはじめた粒子は、風もないのに運動を見せはじめ、洪水のように押し寄せてきては視界いっぱい黒に染め上げる。ここ一ヶ月、美波が夢を見るときはこのようなノンレム睡眠と見分けがつかない、深海のような暗黒の光景ばかりが夢に出てきた。なにも見えないのに、これは夢だとわかるのは奇妙だな、と美波は朝起きるたびに思った。

夢を見た日にアナスタシアと会うことになると、夢と彼女の対照に美波はそのたびごとに驚いた。透き通った結晶体のような容姿をしたこの少女はけっこう子どもっぽいところがあり、昨夜電話で話したときも美波とおしゃべりできるからという単純明快な理由を隠すこともなく、声を弾ませていた。リビングのテーブルに置きっ放しにしていたスマートフォンをさきに夕食を済ませ自分の部屋に戻ろうとする圭が持ち上げ、美波に手渡した。画面にははじめて見る番号が表示されていた。通話ボタンをタッチし、スマートフォンを耳にあてる。スピーカーから聞こえてきたのは親しい馴染みの声だった。

以下略 AAS



29: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:39:41.55 ID:5kzXp0UHO

アナスタシア「ミナミ……?」

美波「ううん、なんでもない。新しいスマホはどう?」

以下略 AAS



30: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:41:13.07 ID:5kzXp0UHO

アナスタシア「ミナミ、気持ち……落ちつきました?」


まるで美波の様子が見えているかのようにアナスタシアは言った。
以下略 AAS



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