72:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 17:02:34.96 ID:A45p+aH70
――これは、確かに。
生体アンドロイドの体だ。その合成化学組織の味。有毒だ。
「ちっ……」
73:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 17:03:04.75 ID:A45p+aH70
(いっけねぇ……)
別に、その女達に対しての感情など何も湧かなかった。だが、爪の心にあったのは、今しがた誰とも分からない侵入者を叩き殺したことでも、命令を無視して勝手に行動していたことに対して教会から処分が下るだろうということに対する懸念でさえなかった。
脳裏に、ぎこちなく微笑んでいた華奢な師のことが浮かび上がる。
74:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 17:03:58.82 ID:A45p+aH70
パン、という軽い音がして。
その、頭が粉みじんになって吹き飛んだ。
文字通り、固形物であるはずの人間の体が、霧状の肉片と血液、そして骨の断片になって爆散したのだ。
支えるものがなくなってしまった首筋から、噴水のように数リットルの鮮血がぶちまけられる。それを真正面から浴び、また爪はベロリと上唇を舐めた。
75:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 17:04:28.60 ID:A45p+aH70
彼女達に向かって、右手を伸ばす。そしてふわっ、と揺らした途端、フロアの一角それ自体が、見えないビル破砕機で吹き飛ばされたかのように後方に弾け飛んだ。勢いはただ崩れただけに収まらず、実に十メートル以上もの四方空間を隣のビルまで抉り飛ばし、それは轟音と煙、そして火花を散らして倒壊し、眼下の地面へと崩れ落ちていく。
――楽しい。
――ああ、楽しい。
76:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 17:05:03.72 ID:A45p+aH70
一人殺るのも、百人殺るのも同じさ。
どうせこいつら、ほっといてもまた増えるし。
いいんだ、きっといいんだ。
むしろ沢山殺した方が、師匠は驚いてしまって怒っている場合じゃなくなるかもしれない。
さっき殺した魔法使いに全部罪を擦り付けて。
77:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 17:05:34.50 ID:A45p+aH70
さぁやろう。
そうしよう。
早くやろう。
早くやろうよ。
78:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 17:06:05.10 ID:A45p+aH70
*
白目を剥いて痙攣している相手を呆れた顔で見下ろし、黒コートの大男は息をついた。そしてポケットから右手を出し、自分の顔から飛び出したコードをカリカリと指先で掻く。
凄まじい惨状だった。
ここで止めなければ、まず間違いなくこいつはここ一帯を、この謎の力……魔法でぶち壊してしまっていただろう。それが確信できるほどの破壊痕だ。
79:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 17:06:37.20 ID:A45p+aH70
瓦礫の隙間や光の死角などに潜り込んで、他の影と同化したのだ。
軽く首の骨を鳴らし、また息をついた大男の目に、まだ無事だった方の階段から小さな白い影が駆け上ってくるのが見えた。
それは、すらりと長い足と尻尾を持った一匹の猫だった。鼻がツンと上を向いていて、立派なヒゲが長すぎるほど外に広がっている。赤い瞳だった。アルビノなのかもしれない。
その猫の頭には、やはり白いモルモットがピンク色の指でしがみついていた。こちらの目も赤い。モルモットの方は子供の握り拳ほどの大きさで、どちらかというとトビネズミのようにも見える。肌色の足と尻尾が覗いているが、それらを覆うように、長く細かい毛が毛玉のように生えている。
それら二匹の動物には、色素欠乏というアルビノ症状以外にもう一つの共通点があった。
80:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 17:07:10.00 ID:A45p+aH70
「一体全体何がどうなってこうなったの? さっぱり分かんない。私分かんない」
やけにくっきりとした、しかし囁き声のように小さな滑らかな女性の声が周囲に響いた。
「……」
81:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 17:07:38.93 ID:A45p+aH70
「埃っぽいわ、ここ。埃っぽい」
「うん、埃っぽい。実に埃っぽい」
「……ヤカマしいゾ。静かニシロお前ラ」
82:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 17:08:07.76 ID:A45p+aH70
「そいつ食わせて。ねぇ食わせて」
「うん、食わせて。まぁ、核が二つもある! デリシャス! そうきっと多分!」
「うん、きっと多分!」
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