6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/29(水) 23:53:08.83 ID:x68eWxlN0
トーストの最後のひとかけらを噛み砕いて、冷蔵庫からパックのコーヒーを取り出して、コップに注ぐ。
思えばこの家に越してきて今年で三年目。備え付けられていた小さな冷蔵庫は、この三年の間にかなり痛んでいた。
テレビだって元々あったもので、だいぶ古い型だ。おまけに冷蔵庫と負けず劣らず小さい。私たち姉妹の部屋は別々にあるものの、お風呂や洗面所だって狭い。
よくもまあ、こんな古いアパートの一室で満足できたものだと自分を褒めてやりたくなるほどに。
7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/29(水) 23:53:55.55 ID:x68eWxlN0
この性格だけではない。全部において、私はどうしても、普通とは違った。特別でもなかった。ただ、私はおかしいのだ。
だからきっと、お姉ちゃんも私を置いていきたかった。そうに決まっている。
きみわるい、もんなあ。
8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/29(水) 23:55:01.07 ID:x68eWxlN0
私は、おかしいのだ。小さい頃はよく動物と会話していたことを他人に話した。家族にも、話した。
けれど人と違うことを自覚してからはなにも言わなくなった。それでもお姉ちゃんにだけは伝えた。お姉ちゃんならわかってくれると思っていた。
でもある日、私は母親にこっぴどく叱られた。もうやめて、と。見たことない顔で、声で、言われた。その後ろには、お姉ちゃんの怯えた顔があった。
たぶん、私たちの間の距離が遠ざかり始めたのは、その頃からだった。そのことがあっても変わらずに接してくれるお姉ちゃんに、私も変わらず
9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/29(水) 23:55:35.80 ID:x68eWxlN0
こんな感じで続けます
今日は以上、それではまた
10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2012/08/30(木) 00:06:34.94 ID:7Q3UU2wIO
一瞬糞スレかと思ったがなかなか面白い
もっと改行した方が良いのでは?
11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/30(木) 23:09:32.22 ID:i6e9y6l20
◇
妹「……うわ、降りそう」
教室の寂れた窓の桟に手をかけながら見上げた空はどんよりとした曇り空で、今すぐにでも雨粒がぽとぽとと落ちてきそうだった。
12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/30(木) 23:11:00.40 ID:i6e9y6l20
―――――
―――――
うちの学校は、部活動が盛んだった。体育系の部活から文化系の部活まで様々な部活が存在しており、全国大会やインターハイの常連だなんて部も少なくはない。
かと言って絶対になにかに入らなければならないというわけでもなく、私みたいな帰宅部の生徒もそれなりにいた。
13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/30(木) 23:11:56.16 ID:i6e9y6l20
予想だにしなかった出来事に、私は「忙しいので」と断ることはできなかった。
それで図書室の閉まる五時までという約束で、私はカウンター作業に徹することになって。
そんな中、私はどうしても放ってはおけないものを見つけてしまったのだ。
14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/30(木) 23:12:38.62 ID:i6e9y6l20
約束の時間になって、私は重くはない鞄と共に大量の本を抱えて図書室を出た。
先に書庫に寄りだいたいの本を返したあと、何冊かの本をもう一度持ち直して教室へ向かった。最後の教室に入ったときだった。
バタンッ、バタンッ
15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/30(木) 23:13:52.64 ID:i6e9y6l20
目を合わさなければ、声はおぼろげにしか聞こえてこない。
この鳥はなにかを言っているようだった。鳴いていた。私は知らない振りをした。
それでも、だめだった。
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/30(木) 23:14:47.79 ID:i6e9y6l20
今思えば教室にある箒でもよかった。けれどそのときは気持ちが急いていて、折り畳み傘を伸ばし、太い枝を叩くことしかできなかった。
最初は弱く、それではまったく意味がないと悟ってからはだんだんと強く。
ガサガサと騒がしく揺れる葉と、同じようにして揺れ動く小鳥のからだがすいっと挟まれていた枝々から抜け出したのは何分そうして格闘していたかわからなくなる頃だった。
17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/30(木) 23:15:24.65 ID:i6e9y6l20
―――――
―――――
学校を出ると、携帯には一件だけ着信が入っていた。お姉ちゃんだ。そういえば、今日の晩御飯の当番は私だった。
下駄箱で靴を履き替えながら携帯を閉じて、私は躊躇う間もなく昇降口を出た。
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/30(木) 23:15:57.88 ID:i6e9y6l20
犬だ。
一歩踏み出しかけて、頭を振る。今日はこんなことばかりだ、と思う。嫌な予感がした。
せっかく息切れがおさまってきた身体を、私は無理に走らせた。
できるだけ公園の脇でへたりこむようにしている犬を気にしないように通り過ぎて――
19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/30(木) 23:18:06.85 ID:i6e9y6l20
今日は以上
それではまた
>>10
できるだけ読みやすいようにしているつもりですがやはり読みづらいでしょうか
20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/09/02(日) 19:25:16.98 ID:vKHLHb/h0
「は?」と声に出して、思わず固まる。
確かにはっきりと聞こえたその声は明らかに目の前で尻尾と耳を垂れているこの犬のもので。
妹「お恵みって、なに……」
21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/09/02(日) 19:25:44.16 ID:vKHLHb/h0
なんだか、圧倒される。
犬はじりじりと私に近付いてきて、さっきまで垂れ下がっていた耳はぴんとして、その尻尾はふらふらと揺れている。
妹「でも、本当になにも持ってな……って、ちょっと!」
22:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/09/02(日) 19:26:35.03 ID:vKHLHb/h0
妹「あ、やめなさいって!」
がさごそと尻尾を振りながら私の鞄を漁る犬をなんとか止めようと立ち上がるも、既に遅かったらしい。
鞄の狭い口から顔を出した犬は、なにかをくわえていた。中身はきっとぐちゃぐちゃになっているに違いない。
23:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/09/02(日) 19:27:01.57 ID:vKHLHb/h0
私は犬の口からチョコレートを取り返しながら、ふうと息を吐いた。
とりあえず安心する。
妹「これは、あんたにとって悪いもの、だから」
24:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/09/02(日) 19:27:36.07 ID:vKHLHb/h0
犬は私の腕の中から抜け出すと、さっきの数倍しゅんと耳や尻尾を垂らして俯いた。
唾液で少し濡れた銀紙に包まれたチョコレート。これの他には今、なにも持っていない。
普段は自分から動物に関わることは避けていた。けれどあの鳥のように、時々私の中で「助けてあげたい」という厄介な気持ちが動き出す。
動物の声を聞き取ってしまう自分は嫌いだった。それでも、助けが必要なのは人も犬も同じで、この犬を今助けられるのは私だけなのだ。
25:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/09/02(日) 21:43:36.92 ID:vKHLHb/h0
いつもより短いですが今日の更新は以上
26:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2012/09/07(金) 03:42:42.48 ID:fCg2o9JIO
スレタイが悪かったな
また書いてくれよ
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