7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2012/12/25(火) 00:45:23.03 ID:ciVG5wjy0
「それにしても、クリスマスの夜にこうして女ばかり集まってるのも何だかおかしな感じよね。賑やかだけど、どこかさみしいような……」
「ふむ……そうかな? アイドルをやってるっていう実感も沸くし、私は悪い気はしないがね」
なんて事はない雑談が続いた後、ふいに瞳子さんがため息混じりに言った。
確かに、クリスマスだというのに恋愛は御法度、夜遅くまで仕事やレッスン漬けというのは世間的に見れば寂しい部類の人種だろう。
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2012/12/25(火) 00:51:34.37 ID:ciVG5wjy0
「……いいえ、大したことじゃないわ。ただちょっと、アイドルって聞いて夢みたいに思えて」
すぐに顔を上げて苦笑してみせる瞳子さんだが、どことなく不安げな雰囲気は拭えない。
夢。瞳子さんがよく口にする言葉だったが……
以前アイドルをやっていて一度は挫折したという彼女の過去を知っているだけに、彼女の言う“夢”の重みが、私にもいくらかは理解できた。
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2012/12/25(火) 00:55:32.74 ID:ciVG5wjy0
テラスを離れ、そろそろ帰ると言う瞳子さんから鍵を受け取った。
「えっと、レッスンルームの鍵は預けちゃっていいのね?」
「あぁ大丈夫だ。この鍵束に返せばいいんだろう?」
「ちひろさんから借りた時にそこから出してたから、間違いないと思うわ」
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2012/12/25(火) 01:00:42.81 ID:ciVG5wjy0
一応、私の感じたこっ恥ずかしさは無駄では無かったようで、頭に重くのしかかる考えごともひとまずは吹き飛ばせたようだ。
からかったりからかわれたりしつつ、別れの挨拶をして瞳子さんの背中を見送る。
と、階段を下りていく間際に、瞳子さんがふいと振り返った。
「……楓さん、今日の昼間はライブがあったんだって。ホワイトクリスマスをステージに大勢のファンに囲まれて、夢みたいだって、喜んでた」
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2012/12/25(火) 01:06:10.04 ID:ciVG5wjy0
「私、まだまだ頑張る。頑張れるわ。プロデューサー君とも、二度と夢を無くしたりしないって誓ったもの」
「あぁ、その笑顔があれば、まだ見ぬファンもきっと君に振り向いてくれるよ」
私の言葉に笑顔でうなずくと、瞳子さんはばいばいと手を振り、はっきりとした足取りで階段を下りていく。
瞳子さんの足音が遠ざかりあたりが静まり返るまで、私はその場を動かなかった。
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2012/12/25(火) 01:10:12.48 ID:ciVG5wjy0
腕時計を見ればもう十時だ。
特に何も言ってはこないが、ちひろさんも待ちくたびれているに違いない。
あとは確認すべき部屋もほぼないので、急いで済ませて戻るべく、数部屋を見回り廊下を進み――
「次で最後……屋上か。滅多に人が入ることも無いところだが一応は見ておかないと…… ――ん?」
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2012/12/25(火) 01:17:26.94 ID:ciVG5wjy0
音を立てないよう慎重に階段を上って踊り場を折り返すと、予想通り開け放たれた両開きの大扉。さらにちらちら舞う雪が目に入った。
なおも上っていくと、次第に屋上の全容が明らかになり……私はひとまず安堵の息をつくことができた。
誰にも踏まれていないまっさらな雪の絨毯に、一人分の足跡と…… なにやら予想外のひづめのような跡。
足跡の主はこちらに背を向け、携帯電話を持ったその手を気合いの抜けた様子で垂れ下げていた。
14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2012/12/25(火) 01:20:22.18 ID:ciVG5wjy0
「いてて…… どうしたイヴ、本当に何があった?」
「ごめんなさい〜!でも私、もうどうしたらいいか〜!」
全身に浴びた雪も気にせず、倒れ込んだまま私の胸元にぐりぐりと頭を押しつけ泣きわめくイヴ。
私の方も背中を打ったり薄着で雪まみれになったりと結構な惨状ではあったが、彼女の様子と比べれば自分のことなど心配している場合ではない。
15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2012/12/25(火) 01:22:27.32 ID:ciVG5wjy0
まさか瞳子さんもこの展開を見越してサンタ云々を言ったわけではないだろうが……いやはや。
「起こるものだな、偶然というのも……」
「? 今、何か〜?」
「いや、何でもないよ」
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2012/12/25(火) 01:23:54.95 ID:ciVG5wjy0
「しかし、驚いたな。毎年これだけの仕事を真夜中にこなしていたのか?」
聞けば聞くほどサンタの仕事量は凄まじく、素直に感心した。
しかしイヴのほうは話すにも妙に覇気がなく、私の言葉の端々に何か思うことでもあるのか、時折困ったような苦笑を浮かべていた。
そんな中、特に言葉に詰まり、むむむと考え込むように話し出すイヴ。
17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2012/12/25(火) 01:25:24.48 ID:ciVG5wjy0
「プレゼントを盗まれて、プロデューサー君に拾われて、アイドルをやりながらプレゼントを用意していた、と。聞けば聞くほど凄まじいな……」
「これでもすっごく持ち直したんですよ〜?」
「いや、何というか…… まぁ、あんまり辛いことがあるなら、頼ってくれていいからな? 私に出来ることなら手伝うから」
話を聞くにつれ、今まで聞いたこともなかったイヴの悲惨な境遇が怒濤の勢いで明らかになっていくのだが、なにぶん本人がぽわぽわとした口調で何の気なしに語るものだから、激しく反応に困る。
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