606:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:15:01.41 ID:tPA7g4lio
◇
曖昧な意識のまま、わたしはふと気付けば、暗闇の中にいた。
607:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:16:16.23 ID:tPA7g4lio
雨の匂い。肌に触れる濡れた質感。痛みであることを忘れそうになるほどの強い痛み。
全身の感覚が鋭敏になっている気がした。
でも、むしろ逆だったのだろう。鈍麻していたのだ。鋭いのは痛覚だけだった。
608:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:17:29.97 ID:tPA7g4lio
まだ景色は暗闇だ。
なぜだろう。視界を覆っているものは、いったいなんなのだろう。
暗闇の中で、誰かの声が聞こえた気がした。
609:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:19:00.16 ID:tPA7g4lio
開けろ、とわたしは思った。
開けるんだ。そうすることでしか始まらない。
それは少し、怖いことでもあった。
610:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:21:28.29 ID:tPA7g4lio
遠くの空は月の明かりで微かに光をまとっているのに、近くに居たその人は、ほとんど真っ黒に見えた。
でも、それが誰なのか、わたしにはすぐに分かった。
だって彼は、わたしの名前を、今にも泣き出しそうな声で呼んでいたのだ。
611:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:22:37.51 ID:tPA7g4lio
言葉も出せない様子で頷くと、彼はそのまま身体を動かし、わたしの腕を引きずって、水流から引き離そうとした。
わたしはそれに従って、自分の身体をどうにか持ち上げる。水に濡れた衣服が重く、雨は痛いほど強い。
身体を動かすたびに手足に痛みが走った。打ったのか切ったのか擦ったのか、分からない。
612:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:23:30.74 ID:tPA7g4lio
◇
生き延びることができたのは、ほとんど奇跡のようなものだった。
613:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:25:13.08 ID:tPA7g4lio
あの嵐の夜、わたしは両親と激しい言い争いをした……らしい。
どんな言い争いだったのかは覚えていない。
とにかく、その出来事で打ちのめされたわたしは、家を飛び出した。
614:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:26:27.84 ID:tPA7g4lio
ツキに助けられたあと、わたしは再び意識を失った。
彼はわたしを背負って近隣の民家に向かい、電話を借りて救急車を呼んだ。
時刻は夜の九時を過ぎていたらしいので、民家の住人からすれば迷惑な話だっただろう。
615:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:28:18.15 ID:tPA7g4lio
◇
当たり前のことだけど、わたしはいろんな人に叱られた。
ツキもいろんな人に叱られていた。ちょっと悪いことをしたかな、と思う。
616:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/25(火) 07:29:05.16 ID:tPA7g4lio
わたしを叱ったのは主にツキの両親で、叱らなかったのはわたしの両親だけだった。
ツキの両親は、わたしとツキの行為に対して大声を上げて怒った。
633Res/436.26 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。