8: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:21:37.83 ID:KNNRsk+y0
「楓さん……帰りますよって」
「嫌です。こんなに月が綺麗な夜なのに、飲むのが自販機のお酒だなんて。そんなの、寂しすぎます。つまらないです」
9: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:22:38.28 ID:KNNRsk+y0
「……プロデューサーのことです。どうせそんなことを言いながら、コンビニで買ったおにぎりやおつまみなんでしょう?」
「失礼な。今回はちゃんと、駅の売店で買った正真正銘、地方の味だってありますよ」
10: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:24:40.32 ID:KNNRsk+y0
プロデューサーが、この手のかかる駄々っ子のご機嫌を窺うように腕を組む。
すると楓は渋々と……本当に、渋々といった様子でゆっくりその場から立ち上がった。
そんな彼女の態度を見て、ほっと胸を撫で下ろすプロデューサー。
11: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:26:18.56 ID:KNNRsk+y0
そうして右手を突き出したまま、再び楓が、その場にくしゃりとしゃがみ込む。
――……秋の夜長にじりじりと、虫の声を背景に行われた静かな睨み合いの末、先に折れたのはプロデューサーの方だった。
12: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:27:51.60 ID:KNNRsk+y0
「あっ、ま、待ってください!」
まるでスキップでもするような軽やかさで進む彼女の後を、慌てた様子で追いかける。
全身に心地の良い夜風を感じながら、さわさわというススキの音と、虫の声に包まれて歩く二人。
13: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:28:59.71 ID:KNNRsk+y0
二人の立つアスファルトで舗装された道路と、田んぼから続くあぜ道が交差する小さな十字路。
少し開けた広場になっているその場所に、ぽつねんと立つ古びた街灯。
そしてその下にはもう一つ、赤く、丸い提灯の明かり。
14: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:30:41.34 ID:KNNRsk+y0
二人が今いる道路の傍に、民家はただの一軒も見当たらない。
ほんの少し前ならば(丁度、二人でタクシーを降りた辺りだ)、何軒かの住宅が道沿いに並んでいはしたが……。
今、二人の周りにあるのは延々広がる田んぼの他に、道路脇に続くなだらかな斜面をうっそうと覆う雑木林だけ。
15: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:32:05.24 ID:KNNRsk+y0
――……しかし、それでも道の先にある広場には、未だ提灯の丸い明かりが灯ったままだ。
その存在が、夢や現で無いと言うように。
「……怖いんですか、プロデューサー」
16: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:33:11.52 ID:KNNRsk+y0
「きっと近所の人が趣味でやってるとか、そういった隠れ家的なお店なんですよ」
「……だから大丈夫だって言うんですか?」
17: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:35:20.71 ID:KNNRsk+y0
「このまま道を引き返し、回り道しようものなら今晩の晩酌はお預けです。で
も、屋台を素通りして宿に戻っても、待っているのは缶のお酒と肴代わりのお菓子だけ」
中指をゆっくりとたたみながら話す彼女の両目には、「絶対に飲む」という、強い決意が見て取れた。
18: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:37:12.70 ID:KNNRsk+y0
「……本当に、チラッと覗くだけですからね」
「ふふっ、勿論ですとも」
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