10:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:34:59.53 ID:3OYwXlIW0
「……毎度のことだが、こういう危険なことをするのはやめなさい」
一応本心からの言葉だ。まあ、彼女が怪我をしようが知ったことではないが、責任問題に問われたらかなわないからな。
「いやです!さっきも先輩、後ろからたっくんに抱き着こうとしてたじゃないですか!」
11:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:37:00.37 ID:3OYwXlIW0
3
急な梅雨入りに対応できなかったのか、織野が珍しく体調を崩して早退したらしい。
つまり、今この時に限り美術室は私の部屋も同然であり、新たな来訪者が現れなければ、こうして静かに外の雨音に耳を傾けることができるということである。
生徒が授業中に使用するスチール製の椅子に腰かけながら、窓の外に視線を移す。
天気は一向に回復する気配がなく、かといってこれ以上雨脚が強まる様子も見受けられない。
12:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:38:43.14 ID:3OYwXlIW0
「ああ……君も知ってて来たのだろう」
花のように微笑みながら、江ノ島は答える。
「はい。たまには自主的に部活するのもいいかなあ、と思いまして」
13:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:40:46.32 ID:3OYwXlIW0
「……雑談ぐらいなら付き合おう」
「雑は嫌です、密でお願いします」
雑ではなく密に、か。
密といえば、親しい。
14:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:43:01.95 ID:3OYwXlIW0
「ここまで言ってもとぼけるなんて……先輩って、凄く真面目な優等生って感じなのに、意外と意地悪ですね」
「君たちが勝手に優等生だと期待して、祭り上げているだけだ。好き勝手期待しておいて、期待に答えなければ失望するなんて、はっきり言っていい迷惑だよ」
「でもしっかり期待に答えてるあたり、本当はまんざらでもなかったりするんじゃないですか」
「だとしても、それを自覚したいとは思わんね」
「…………」
15:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:46:16.08 ID:3OYwXlIW0
私の発言を聞いて、江ノ島はふうと息を吐きながら全身の緊張を緩め、再びゆっくりと腰を下した。
「なら良かったです。恐々院先輩と争っても、正直、あたしじゃどうにもならないって思ってましたから」
「どうして?女性的魅力という点において、私では君に逆立ちしたって敵わないと思うが」
16:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:48:30.16 ID:3OYwXlIW0
4
江ノ島の告白宣言を聞いてしまってから、私の生活は一変した。
無論、良い方ではなく悪い方に、である。
17:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:51:47.75 ID:3OYwXlIW0
5
期末試験の準備で校内に残る生徒もまばらなってきていた六月二十四日の放課後、今後の部活動について相談があるという口実で、織野を校舎の屋上まで連れ出した。
外は既に夕焼け色に染まっていて、普段は活気のあるグラウンドも、奇妙なくらい静まり返っている。
「壊子さん、相談なら美術室でも良かったんじゃないですか」
18:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:54:14.45 ID:3OYwXlIW0
決死の覚悟を抱いて臨んだというのに、一番肝心なところで待ったをかけられた。
これでどうでもいいことを宣い始めでもしてみろ、舌を引っこ抜いてやる。
「壊子さん、これってつまり……そういうことですよね」
「君の考えている通りだ。あとは煮るなり焼くなり好きにしろ……覚悟はできてる」
19:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:56:56.77 ID:3OYwXlIW0
織野が描いてきた絵に宿る並々ならぬ迫力の根源は、彼の想いそのものだった。
「壊子さん……もし迷惑でないのなら、今より近い場所で僕と一緒に絵を描きませんか。壊子さんに手伝ってもらえれば、きっと、凄く素敵な絵が描けると思うんです」
お互いの意思を汲み取るよう見つめ合った後、織野の真剣な眼差しから逃れるよう、くるりと回って背を向ける。
20:名無しNIPPER
2017/01/08(日) 16:00:43.53 ID:3OYwXlIW0
練習として去年の夏頃に書いたもの
供養として投下しました
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