1:名無しNIPPER[sage]
2019/08/17(土) 00:07:20.53 ID:04op77oe0
・閲覧注意です
・ひとによっては気分の悪くなる描写があります
2:名無しNIPPER[sage]
2019/08/17(土) 00:09:04.73 ID:04op77oe0
「ありすは何でも知ってるなぁ」
プロデューサーは、ありすによく言う。
ありすからすれば、プロデューサーがものをよく知らない。しかも極度のめんどくさがりだ。
3:名無しNIPPER[sage]
2019/08/17(土) 00:09:38.42 ID:04op77oe0
「北棟ついでの話なんだけど」
「なんですか」
「明後日、プロダクションで水が出しっ放しになってるところがあるんだけどさ。
4:名無しNIPPER[sage]
2019/08/17(土) 00:16:37.39 ID:04op77oe0
明後日、ありすはレッスンの終わりにシャワールームへ向かっていた。
レッスンルームには冷房が効いているとは言え、ダンスをすればあっという間に汗だくになる。服もべとべととするし、汗くさくなるのも嫌だ。すぐにシャワーを浴びたい。
シャワールームの入り口で、ありすは異様な音を聴いた。
5:名無しNIPPER[sage]
2019/08/17(土) 00:17:22.82 ID:04op77oe0
泡の潰れる音が大きく耳朶を叩いて、不快感が胸につっかえる。
シャワールームは白いタイル張りになっているが、水浸しになっているせいで、タイルの目が見えない。そして、音の正体はおそらくはシャワーから溢れ出した大量の水が、排水溝に殺到し、吸い込まれる音だった。
細かな水の飛沫が顔に当たる。それだけのことなのに身体中の体温が冷めわたって、鳥肌が立つ。
6:名無しNIPPER[sage]
2019/08/17(土) 00:17:55.97 ID:04op77oe0
ありすはヘッドを取って蛇口を捻った。堰を切ったように水が飛び出して壁を叩く。少し熱いお湯が出るまで調節しようとしたが、なぜか生温い温度にしかならない。
しょうがなくそのまま浴びることにした。
中途半端な温度がまとわりついて、汗を流しているはずなのにさっぱりとしない。
7:名無しNIPPER[sage]
2019/08/17(土) 00:18:29.85 ID:04op77oe0
8:名無しNIPPER[sage]
2019/08/17(土) 00:19:34.61 ID:04op77oe0
ありすは個室から飛び出して、シャワールームから逃げ出そうとした。
だが思ったように歩けない。それどころか、タイルに膝をついてしまった。完全に腰が抜けている。
ありすは、そこでまた自分の脚を見た。なにもない。
息をのんで、先ほどまでいた個室のほうに視線を向ける。
9:名無しNIPPER[sage]
2019/08/17(土) 00:20:11.31 ID:04op77oe0
落ち着け、落ち着け。
そう自分に言い聞かせて心臓は意志を無視してのた打ちわり、手足は震えて竦む。
ありすは叫んだ。今度はひとを呼ぶために。
10:名無しNIPPER[sage]
2019/08/17(土) 00:21:12.39 ID:04op77oe0
ありすは何かに祈った。特定の宗教を持っていないから、何かあたたかくて力強い存在に。
何かが肩を叩いた。顔を上げてはいけない、と思った。
自分は入り口の方を向いている。だが、“後ろから”叩かれた。
11:名無しNIPPER[sage]
2019/08/17(土) 00:21:52.06 ID:04op77oe0
死ぬって、こんな感じなのかな。
ありすは目を開けてみた。開けたが、真っ暗だった。
そして、ゆっくりと身体がどこかへ引きずられていく。
12:名無しNIPPER[sage]
2019/08/17(土) 00:22:20.61 ID:04op77oe0
それは、嫌だ。
13:名無しNIPPER[sage]
2019/08/17(土) 00:22:46.21 ID:04op77oe0
だい、じょうぶ……」
今度は、誰かが答えた。
14:名無しNIPPER[sage]
2019/08/17(土) 00:23:39.62 ID:04op77oe0
空気の匂いが変わった。そして視界が急に明るくなる。シャワールームの外の、更衣室にいた。
「あれは……!」
15:名無しNIPPER[sage]
2019/08/17(土) 00:24:21.01 ID:04op77oe0
「幽霊、じゃない……。
うん。そうだね……あれは……」
記憶、と小梅は言った。
16:名無しNIPPER[sage]
2019/08/17(土) 00:24:56.57 ID:04op77oe0
「もしかしたら……す、すごく最近なのかも」
小梅の推測に、ありすはまだ身体中がこごえた。
17:名無しNIPPER[sage]
2019/08/17(土) 00:25:35.87 ID:04op77oe0
後日、とある通知がプロダクション中を震え上がらせた。
1週間前、プロダクションの女性社員が飛び降り自殺を図ったのだ。
それだけではない。
18:名無しNIPPER[sage]
2019/08/17(土) 00:29:09.76 ID:04op77oe0
「亡くなられた方って、どんなひとだったんですか」
会議室で解散になった後、ありすはプロデューサーのデスクに行き、そう尋ねた。灰皿の上で煙草がまだ煙をくゆらさせている。
「どうしてそんなことが気になるんだよ」
19:名無しNIPPER[sage]
2019/08/17(土) 00:29:43.19 ID:04op77oe0
「……私も」
「うん?」
「花を。私もお供えしてもいいでしょうか」
20:名無しNIPPER[sage]
2019/08/17(土) 00:30:45.42 ID:04op77oe0
花束を手にもって、プロデューサーとありすは屋上にいた。夏の日差しがこうこうと照りつけて、空気がじっとり湿っている。
ありすは初めて屋上へ上がった。
普段は施錠がされていて、アイドルが入ることはできない。
21:名無しNIPPER[sage]
2019/08/17(土) 00:31:53.75 ID:04op77oe0
「屋上へ行くために、私達鍵を借りましたよね」
「借りたな」
「もし……もし、亡くなった方が屋上へ上がっていたなら。
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