50:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:47:21.70 ID:A45p+aH70
「ええ。気に、しないで」
『勿体無きお言葉。それでは』
プツン、と音がして通信が切れる。愛寡はいまだ平伏したままの店長に携帯端末を握らせると、彼の首筋の薄青色の核に軽く指を触れた。それが白く発光し、そして鮮やかな青に変色する。
51:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:47:57.70 ID:A45p+aH70
愛寡はポカンとしている爪を見て、そして一つため息をついてから微笑んだ。
「ごめ、ね。高いの怖い。迷惑、かけた」
「と、と……とんでも! なです!」
52:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:50:13.46 ID:A45p+aH70
2 反発の狂人
浮かない顔をして壇上の最上段に腰を下ろした師を、爪はぼんやりと見つめていた。
ガラス張りの周囲……二千人以上を収容できる教会の大祭壇の壇上。その上の待機場に彼はいた。実際のところ、このガラスはマジックミラーのような加工が為されていて、祭壇側ではただの白い壁のようにしか見えない。
しかしこの部屋にいる限りは、前面全てを見通すことが出来る便利なものだった。
53:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:51:02.38 ID:A45p+aH70
六畳くらいのカーペットが敷かれた待機場で、爪は不貞腐れたようにそっぽを向いたまま、大きくソファーに胡坐をかいていた。
その正面に、もはや呆れ果てたと言わんばかりに浮屋が背筋を伸ばして座っている。
「……もう一度言うぞ? たわけ者め」
54:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:51:53.10 ID:A45p+aH70
「メルチ(うるせぇな……)」
「やかましい。とにかく、礼拝が終わったらお前は今日一日懲罰房行きじゃ」
「…………メルチュ、アランセ?(うるせぇと言っている。殺すぞ?)」
55:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:52:27.70 ID:A45p+aH70
爪は暫くの間浮屋が出て行った方向を見ていたが、やがて胸ポケットから彼のカードを取り出し、忌々しそうに手の上で弄んだ。
すぐにでも叩き割りたい衝動に駆られたが、あの老人を師が尊重していることを思い起こし、止めておく。
――何というか、愛寡は優しすぎる。
56:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:53:07.48 ID:A45p+aH70
その誰もが、魔法使い。
手に小さな経典を持ち、教会長の話に聞き入っている。
眼下の愛寡が、気づかれないようにかすかに欠伸をしたのを見て、爪はクスリと笑った。
――あの人は……。
57:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:53:42.06 ID:A45p+aH70
――だからこそ。
だからこそ、壊されたくない。
片方の手の平を何度か握って、そして開く。
58:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:54:12.89 ID:A45p+aH70
ただチラッと見られただけで。
あの人の欠伸をする可愛らしい仕草を見れただけで。こんなにも邪気が消えていくような気がする。胸が高鳴る。幸せになる。
大きく深呼吸をして、そして息を止める。
そうだ……落ち着け。
59:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:55:11.54 ID:A45p+aH70
その途端だった。
首筋の黒い球に、突然ビリリと電撃のようなショックが走った。思わず首に手をやり、歯を噛み締める。
(何だ……?)
60:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:55:53.66 ID:A45p+aH70
(何だ……? 何が……)
思わず立ち上がって、礼拝堂の中に目を走らせる。黒い核の痛みは、遂に肉を千切りとる程の激痛に変化し、膝をつく。
血の流れは、頚動脈が傷ついたのではないかと思われるほど激しくなっていた。止まらない。抑えても駄目だ。
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