1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2012/08/11(土) 04:12:21.80 ID:T8SVpnRDo
彼が気が付くと、そこはもやの中でした。
それをかき分けようとしてみても周りは真っ白なままです。
それに自身の眼で自分自身の存在を確かめられなかったので、
自分が物質として存在しているかどうかすらも定かではありません。
ただ、手らしきものと足らしきものの裏側だけが自分自身の存在を認めてくれています。
自分が何者なのかもわからないまま、彼はひたすら歩くことにしました。
どの方向へ進んでいるか、それすらもわからなかったけど彼はただ歩みを進めます。
そうするより仕方なかったのです。
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2012/08/11(土) 04:12:50.08 ID:T8SVpnRDo
目的もないまま彼は歩き続けました。
その中で彼が気付いたことは時の流れがこの空間の中では続いていない、ということだけでした。
だってお腹もすかなければ眠くなることだってなかったのです。
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2012/08/11(土) 04:13:28.32 ID:T8SVpnRDo
どれだけ歩いたのでしょう。
彼はいったん歩みを止め、その場に座ることにしました。
確かにここでは時の流れは止まっているようでしたが、
彼はいい加減に歩き続けることに飽きを感じてきていました。
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2012/08/11(土) 04:13:56.98 ID:T8SVpnRDo
歩けども歩けども何も見えてはきません。
歩いただけの疲労感を感じることもなく、彼はただただ無感動にあいまいな身体を動かします。
まるでロボットみたいだな、とも思いましたが
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2012/08/11(土) 04:14:22.54 ID:T8SVpnRDo
思いっきり助走をつけて真っ白な向こう側へと飛んでみます。
すると不思議なことに自分にまとわりついていたもやが一気に吹き飛んで、
自分の身体や自分以外の景色を目で確認できるようになったのです。
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2012/08/11(土) 04:15:04.19 ID:T8SVpnRDo
「早く事務所に戻らなきゃ」
プロデューサーは顔を上げて周囲を確認します。
一面緑の野原のなかには、長そうな一本道が続いているだけでした。
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2012/08/11(土) 04:15:31.79 ID:T8SVpnRDo
少し歩くと目の前に森らしきものが現れました。
「事務所の近くにこんな薄暗い森なかった気がするんだけどなぁ」
止まっていても仕方ないのでとりあえずプロデューサーはその近くへと歩いていきます。
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2012/08/11(土) 04:16:10.69 ID:T8SVpnRDo
「つまり、どういうことなのですか?」
「さて、どういうことなのでしょうか。
私がわかっていたのはここが俗世ではないということだけ、です」
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2012/08/11(土) 04:16:51.22 ID:T8SVpnRDo
「ところで」
笑いがひとしきりおさまった後、プロデューサーが言いました。
「はい」
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2012/08/11(土) 04:17:39.46 ID:T8SVpnRDo
女がそう言ったのでプロデューサーは少し鼻を高くして自分の事務所のアイドルに関して話を始めました。
もちろん11人のアイドルのことだけではなくプロデューサーの律子のことや事務員の小鳥のこと、
自分を強引にスカウトしてきた社長のこともひっくるめて、
自身の体験してきたことをできるだけかいつまんで話しました。
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2012/08/11(土) 04:18:12.53 ID:T8SVpnRDo
「ごめんな。
俺以外も記憶がないのかと思ってそれで……」
プロデューサーがそういうと女はようやく口を開きました。
12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2012/08/11(土) 04:18:46.72 ID:T8SVpnRDo
「やっぱり俺のことを知っているのか?」
たまらず女に疑問を投げかけます。
「ええ、とてもよく」
13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2012/08/11(土) 04:19:32.07 ID:T8SVpnRDo
「なら、俺はなんで記憶を無くしたんだ?」
「そういう病気だった、としか…」
「そうか。いやな病気だな。道理で死ぬ直前くらいの記憶がないわけだ」
14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2012/08/11(土) 04:20:28.37 ID:T8SVpnRDo
「全く仕方ないですね」
女はそういうと正座の体勢を崩します。
「長くなるのですが、よろしいでしょうか?」
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2012/08/11(土) 04:21:14.78 ID:T8SVpnRDo
「彼女たちが違和感を覚えたのは、貴方が亡くなる3か月前のことでした。
我那覇響と星井美希を連れて車で移動しているときに貴方は突然、
『もし俺の身体が管だらけになったら、それを一気に引っこ抜いて俺を終わりにしてくれ』
と言い出しだのです」
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2012/08/11(土) 04:21:40.88 ID:T8SVpnRDo
「いやさ、俺が俺でなくなるくらいだったら
俺が育てたアイドルに終わりにしてほしいと思ったんだ」
「……それでも酷い言い方だったと思います。」
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2012/08/11(土) 04:23:06.34 ID:T8SVpnRDo
「本格的に貴方の異変に気付いたのは水瀬伊織です」
プロデューサーの要望通り、女は話を続けます
「伊織か」
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2012/08/11(土) 04:24:16.74 ID:T8SVpnRDo
「でも彼女はそのことを誰にも言いませんでした」
「そうなのか」
「そのせいもあってか、貴方が辞めると聞いたときは皆が驚いていましたよ」
19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2012/08/11(土) 04:25:17.33 ID:T8SVpnRDo
「そこで皆には内緒、という条件で貴方は真実を告げました」
女はプロデューサーにかまわず話し続けます。
彼はじれったくなってとうとう口を挟みました。
20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2012/08/11(土) 04:25:58.41 ID:T8SVpnRDo
「事務所を辞めた後、自宅で過ごしていた時に伊織とやよいが来たんだ」
プロデューサーは思い出すように訥々と語りだしました。
「どうやらそのようだったみたいですね」
21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2012/08/11(土) 04:28:38.58 ID:T8SVpnRDo
「ひとしきり部屋を掃除した後、伊織になぜ事務所を辞めたのか尋ねられたんだ。
そこで俺は二人に真実を話した」
「隠そうとはしなかったのですか?」
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