過去ログ - える「折木さんも…ご経験がおありなんですか?」奉太郎「」
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2012/09/16(日) 04:09:52.57 ID:2r6A/1tO0
氷菓アニメ最終回記念
タイトル詐欺注意
突っ込みどころ満載っぽいけどそれでもよければ
SSWiki :
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2012/09/16(日) 04:10:50.34 ID:XtTyK/vDO
うるさいはよ書け
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2012/09/16(日) 04:10:53.43 ID:2r6A/1tO0
『卒業生、退場』
マイクの声に、三年生は一斉に立ち上がった。同時に拍手の音が鳴り響く。先頭の列から順番に、体育館の中央の花道を歩いていく。ある生徒ははにかみ、ある生徒は堂々とした面立ちで、ある生徒は涙ぐみ、ある生徒は笑顔を弾けさせて。
周りとは遅れ気味のテンポで俺は拍手をし、ぼうっと卒業生を眺めていた。卒業生を祝福するつもりが全く無いことはない。ただ三年生に親しい先輩はいないから、これといった感傷が沸いてこないのだ。だから、最小のエネルギーで手を叩く。パチ、パチ、パチ、と手首が疲れない程度に。
そういえば、と俺は昨日のことを思い出す。姉から「お世話になった先輩の門出でしょう、贈り物くらいするのが後輩として当然」と気を回して俺に小包を渡してきた。最も、俺には品物を贈呈するほど世話になった先輩などいない。俺が所属している部活動、古典部には、俺と同じ一年しかいないのだし、部活以外で三年生と知り合う機会などほとんどないのだ。
だがこの後、部活の連中――古典部の友人たちは、口々に文句を、意見を、感想を俺に述べてくるのだろう。俺に知己の先輩がいないと知りながらも、間違いなく。
以下略
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2012/09/16(日) 04:11:44.86 ID:2r6A/1tO0
そんな想像をしていると、数少ない三年生の知り合いを見つけた。男にしては長めの髪、背は高く、頭が切れそうなすっとした眼差し。
去年の五月……か六月だったか、とある一件で顔見知りになった先輩だ。遠垣外将司。壁新聞部の元部長で、なんでも実家は神山市内の中等教育に影響のある名家らしい。まあ、本当に顔を知っているだけで、俺はそれ以上遠垣内について知らないが。
と、そのとき、遠垣内と視線が交錯した。思い過ごしだと思ったが、明らかに彼は俺を見て一瞬眉間に皺を寄せた……ような気がする。これだけの人数、在校生と来賓と保護者を合わせれば千人はくだらない中、俺を偶然見つけるとは、卒業式まで苦い思いをさせてしまったようだ。
すぐに彼の姿は見えなくなったが、なんとなく申し訳なくなった俺は、
先輩、おめでとうございます。あのことは墓まで持っていきますよ。
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2012/09/16(日) 04:12:39.72 ID:2r6A/1tO0
卒業式の後、ホームルームが終わると、俺は古典部の部室に来ていた。特別棟四回、地学準備室である。部室の窓の前まで椅子を持ってきて、窓枠に腕を乗せて眼下に広がる運動場を眺める。運動場では、卒業生と一緒に記念写真を撮っている生徒たちがたくさんいた。中には別れに涙している人もいるようだ。何故かサッカーをしている生徒もいる。サッカー部だろうか、最後の壮行試合、みたいなものか。
欠伸をひとつして、腕時計を見ると、十二時を回ったところだった。今頃古典部の皆は、卒業生に挨拶でもしているだろうか。
聡は、総務委員会と手芸部で、当然世話になった先輩がいるだろうから、古典部に顔を出すのは遅くなるかもしれない。伊原も同じく、漫画研究会で別れの会でもやっているだろう。では、もう一人の部員は――
「こんにちは、折木さん」
と思ったところで、部室のドアが開く音ともに、凛と透き通った声がした。この学校で、俺を「さん」付けで呼ぶ奴は一人しかいない。
以下略
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2012/09/16(日) 04:13:28.67 ID:2r6A/1tO0
千反田える、古典部の部長であり、俺の省エネ主義を揺るがしかけている少女である。
千反田は部室の長机に自分の鞄を置くと、俺の傍までやって来て外を眺めた。
「いいものですね、卒業式って」
「そうだな」
俺は適当に同意し、二度目の欠伸をかみ殺した。千反田を見やると、彼女は微笑を携えて、優しい目をしていた。彼女の長く綺麗な黒髪が、そよ風に揺られていた。まるで母親のような横顔だ、と俺は思った。
以下略
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2012/09/16(日) 04:14:17.02 ID:2r6A/1tO0
千反田は口元に手を当てた。何かを思い出そうとしている仕草に見える。
「折木さん、先ほど、遠垣内さんに挨拶した時のことなんですが」
俺は曖昧に「ああ」と相槌を打った。
「折木さんって、遠垣内さんと親しかったんですか?」
「いや、特に」
以下略
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2012/09/16(日) 04:14:57.96 ID:2r6A/1tO0
「でしたら!」
千反田の大きな目が、輝いている。
「どうして、折木さんとあまり接点のない遠垣内さんが、折木さんによろしくと言ったのか、」
俺は舌打ちをしたい気分だった。もしかしたら、遠垣内はこうなることを見越して、千反田に言伝を寄越したのではないだろうか。
「私、気になります!」
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2012/09/16(日) 04:16:32.02 ID:2r6A/1tO0
俺はどうしたものか、と額に手を当てて考えた。
おそらく、遠垣内の「よろしく」とは釘を指すという意味に違いない。自分が卒業した後で、あのことを他人に――千反田に話すな、ということだろう。
事の顛末は去年の春、古典部の文集「氷菓」のバックナンバーを探しているときまで遡る。姉貴の受け売りで文集は「部室の薬品金庫の中」と事前に知っていた俺は、二年前、姉貴が卒業する前まで古典部の部室だった、生物準備室に文集があると踏んだのだった。現在は壁新聞部の部室となっていた生物準備室で、俺は壁新聞部の部長である遠垣内と知り合った。
そのとき、生物準備室を見渡しても薬品金庫らしきものは見当たらなかった。そして、遠垣内は何故か部室を物色されるのを極端に嫌がった。薬品金庫の中に、煙草とライターを隠していたからだ。彼は部室で煙草を吸っていたのだ。
俺はそれをネタに半ば遠垣内を脅して、文集を引っ張り出させた、とこういうわけである。
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2012/09/16(日) 04:17:19.51 ID:2r6A/1tO0
何でも、千反田と遠垣内は、家同士の繋がりがあるらしい。千反田の家は、神山市では有名な豪農で、名家の縁で年末に顔合わせをするのだそうだ。
つまり、名家の御曹司である遠垣内は、豪農の令嬢である千反田に喫煙の事実を知られるわけにはいかないのだ。体裁的に悪いのだろう。
まあもっとも、伊原には口は堅いかと念押しして、遠垣内のことを話したあの時、その場に千反田もいたのだ。しかし、千反田は見つかった文集に心奪われていて、全く会話を聞いていなかった。だから、知らないままならその方がいいだろうと思っていたのだ。
俺は嘆息して、窓際から机まで椅子を戻す。さて、どう言い訳したものか。
千反田はというと、俺の推論が開始されるとでも思っているのか、わくわくした笑顔で、俺の隣に腰掛けた。
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2012/09/16(日) 04:18:13.56 ID:2r6A/1tO0
「どうかしましたか、折木さん?」
微笑む千反田を横目に見やり、俺は出掛かっていたため息を飲み込んだ。俺は自分でもよく分からない感情に振り回されている。
俺はおそらく、今の千反田に、知られたくないのだ。あの時、俺がどうやって、遠垣内から文集を手に入れたのか。
たとえ、遠垣内の喫煙を知ったとしても、千反田はそれだけで人格を否定するような奴ではない。俺が脅迫じみたことをしたと知っても、彼女は俺を責めはしないだろう。
俺は、自分の後ろ暗い側面を、千反田に見られるのが怖くなってしまっている。彼女はとても感じやすく、故に自分を責めてしまうから。
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2012/09/16(日) 04:21:04.24 ID:XtTyK/vDO
ぱんつ脱いだ
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2012/09/16(日) 04:21:05.69 ID:2r6A/1tO0
◇ ◇ ◇
「……以上だ」
話し終えると、俺は視線だけを動かして千反田を見、そして不思議に思った。てっきり、落ち込んだ顔をすると思ったからだ。彼女は口元に指を当てて、首を傾げている。俺の説明が悪かったか?
「あの、折木さん」
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2012/09/16(日) 04:22:07.01 ID:2r6A/1tO0
「もう一年近く前のことだから……と言っても納得しないんだろうな」
「納得できないわけではありませんが、どうも引っかかって……」
千反田は他人の感情に敏感だ。過敏といっても良い。そうまで言うなら、何か他に理由があるのかもしれない。
「ふむ……」
俺は自分の頭の中で、その理由を探ってみたが、さっぱり出てこなかった。思い当たる節は、やはり煙草の一件だけに思える。
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2012/09/16(日) 04:23:02.50 ID:2r6A/1tO0
>>12
すまん、パンツ脱ぐような話じゃないんだ…
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2012/09/16(日) 04:23:48.34 ID:2r6A/1tO0
「そうだな、まず、文集のときの一件以外に理由があると仮定しよう」
「はい」
「一、俺が実は昔から遠垣内と知り合いだった」
自分で言って、俺はそんな馬鹿な、と胸で吐き捨てた。千反田はきょとんとしている。
「小学校が一緒だったんですか?」
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2012/09/16(日) 04:24:30.53 ID:2r6A/1tO0
「二、俺が自覚の無いまま、実は俺が遠垣内に感謝されるようなことをした」
「したんですか?」
「いや、自覚が無いから分からない」
「折木さん……真面目にやってますか?」
「ああ、真面目だぞ」
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2012/09/16(日) 04:25:15.59 ID:2r6A/1tO0
お前のことだ、俺が推測したことをそのまま伝えるんじゃないかと思った。「折木さんが言ってたんです」と付け加えてな」
その通りなのか、千反田は恥ずかしそうに顔を俯けた。
「まあ、そういった経緯があって、俺に感謝したって不思議じゃないだろう」
「で、でもですよ? それは折木さんが自覚していらっしゃるじゃないですか!」
「遠垣内が、『折木奉太郎が自覚していない』と思っていれば、この説は成り立つだろう」
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2012/09/16(日) 04:26:33.28 ID:2r6A/1tO0
「ですが!」
千反田はまだ得心がいかないのか、ずいっと俺に詰め寄ってきた。近い。
「文化祭で壁新聞部の評判が急上昇したというのは、折木さんの想像です。論理的ではありません!」
「お、憶測なんだから、想像する以外ないだろう」
「でもでも、違うと思うんです!」
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2012/09/16(日) 04:27:21.49 ID:2r6A/1tO0
「三、三だ。俺がこれからも遠垣内とよろしくする関係にある」
「そうなんですかっ?」
だから、近いと言っている。いや、口には出していない。段々、刑事に詰問される容疑者の気分になってきた。
「いや、そんなつもりは今のところない。あ、今その気になったぞ。うん、そうだ、お世話になった先輩だ、年賀状のやり取りぐらいするかもしれんぞ」
「嘘はいけません! だって折木さん、私とだって年賀状のやり取りをしていないじゃないですか!」
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2012/09/16(日) 04:29:20.97 ID:2r6A/1tO0
「大体、別段意味なんてなかったかもしれないじゃないか。千反田のついでというだけかもしれん」
「ですが……それだけで、遠垣内さんが、あんな表情を……」
俺はそのときの遠垣内の顔を見たわけではないから、何故千反田がこんなにも引っかかっているのか分からない。仮に俺がその場にいたとしても、遠慮、懐かしみ、と千反田は感じたらしいが、俺はそれすら分からなかっただろう。
時間にして、三分ほどだろうか、沈黙が続いた。その間に俺はウィスキーボンボンを三つほど平らげ、彼女を宥める方法を、もう一度捻り出そうとしていた。
そして、一つの結論に至り、俺は、ちくりと胸の奥が痛んだ。
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