過去ログ - 奉太郎「軽音楽少女と少年のドミノ」
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1: ◆2cupU1gSNo
2013/06/09(日) 18:24:36.09 ID:Zr8YYylw0
序章 カチューシャとポニーテール
1.六月二十五日
夕暮れ迫る放課後の校舎。
俺は決して軽やかとは言えない足取りで古典部の部室に向かう。
別に部室までの移動時間を無駄だと感じているわけではない。
高校一年の生活を無事……とは言えないかもしれないがとにかく終え、
二年に進級して二ヶ月を経過したせいもあってか、俺はこの移動時間を多少は有効に使えるようになっていた。
なんてことはない。
単に移動中、読んでいる文庫本のあらすじを思い出しているだけのことだ。
だが、それだけで億劫になりがちな移動も多少は悪くないと思える。
多少の差ではあるが、部室までの果てしなく長い道程に考える事が全く無いよりはずっといいだろう。
それに部室の椅子に腰を落ち着けてから、
さてこの本はどんな展開だったか、と頭を捻るのはとてもエネルギー効率が悪い。
ならば、省エネを心掛ける俺にとって、恐らくこれはベストな選択なのだろう。
それでも、俺の足取りが軽やかでないのには当然ながら理由がある。
我が古典部の部長、千反田えるのことだ。
過去一年、数限りなくとまでは言わないが、千反田にはかなりの面倒事を持ち込まれた。
本当に面倒なら無視してしまえばいいじゃないか、
とは里志によく言われるのだが、俺にはそれが最善の策だとは思えない。
一年にも渡る付き合いを経ても、あいつはまだ分かっていないのだ。
あのお嬢様は分からないことを気にし始めると、完全な前後不覚に陥る。
好奇心の獣と化した千反田を放置するなど、想像するだに後のことが恐ろしくなる。
一度火の点いた千反田の好奇心を放置したが最後、
数日後にはまず間違いなく二倍、いや三倍は面倒臭い事案になって、俺の下に舞い戻って来ることだろう。
問題の先送りは決して事態を好転させないのだ。
だとするならば、被害の少ない内にとにかく千反田を納得させる。
それがいつの間にか俺の高校生活の処世術になっていたし、別にそれが嫌だというわけでもない。
千反田も千反田でかなり特殊な例だとは思うが、
千反田以上に面倒な人間を嫌でも相手にすることもいつかはあるだろう。
例えば姉貴とか。
それを思えば、千反田の好奇心に付き合う程度なら特に問題はない……はずだ。
「とは言っても」
古典部の部室。
つまり地学講義室に辿り着いた俺は、横開きのドアに手を掛けてから小さく呟いた。
誰に聞かせるつもりでもない言葉だ。
強いて言えば自分に言い聞かせる言葉か。
千反田の好奇心旺盛な姿には慣れてきた。
たまに億劫になることもあるが、古典部の活動が嫌いなわけでもない。
里志の弁ではないが、学内にプライベートスペースを持てている利点も大きい。
だが、それでも、やはり俺は千反田の姿に戸惑っているのだろう。
今の千反田の姿と素振りと様子に。
だから俺の部室までの足取りは決して軽くなかったし、今現在も部室に入るのに躊躇してしまっているのだ。
いっそ今日は部室に顔を出すのをやめておこうか。
そんな考えが俺の中で頭をもたげてくる。
しかしそれはさっき俺自身が考えていた通り、問題の先送りでしかない。
問題の先送りは後々に巡り巡って俺の前に姿を現す。
それくらいは俺にも分かっているのだ。
一度だけ大きく溜息をつく。
情けない事だが自分で自分が緊張しているのがよく分かった。
だが、ここで考え込んでいても、それこそ問題の先送りにしかならない。
俺は半ば諦念混じりに、軽く手に力を込めてドアをスライドさせる。
西向きの窓から夕陽が見え、その眩しさに俺は目を細める事になった。
その目を細めるという行為に、俺は妙な懐かしさを感じていた。
つい二週間前まで、部室に誰かが来ている時には夕陽を目にする事がほとんどなかったからだ。
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2: ◆2cupU1gSNo
2013/06/09(日) 18:25:18.97 ID:Zr8YYylw0
なぜか?
それはこの地学講義室が古典部の部室だからに他ならない。
古典部と称されながら、古典らしい古典がこの部室で読まれた覚えはないが、とにもかくにも古典部だ。
里志は推理小説を嗜むし、伊原に至っては一年の頃まで漫画研究会だった。
千反田も幅広いジャンルの本を読んでいるようだし、俺も読書は決して嫌いじゃない。
3: ◆2cupU1gSNo
2013/06/09(日) 18:28:36.49 ID:Zr8YYylw0
「そんなに髪を短くしてたのか?」
4: ◆2cupU1gSNo
2013/06/09(日) 18:29:14.37 ID:Zr8YYylw0
「それよりちょっと休ませてくれないか?
掃除が長引いたから肩が痛くてな。
伊原たちが来るまでゆっくりさせてくれ」
5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/06/09(日) 18:30:07.39 ID:w2VN9QAn0
今日兄のせいでアレになったことで有名な氷菓さんじゃないすか
6: ◆2cupU1gSNo
2013/06/09(日) 18:31:12.97 ID:Zr8YYylw0
中の人ネタになります。
ゆっくりな展開になりますが、よろしくお願いします。
7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/09(日) 20:55:32.54 ID:6tjTGCf20
ネタバレになるかもしれないが、残りの4人の中の人も氷菓に出ている。
それも取り入れるのか?
8: ◆2cupU1gSNo
2013/06/16(日) 17:53:23.60 ID:4CLfavx30
2.六月十三日
9: ◆2cupU1gSNo
2013/06/16(日) 17:54:15.30 ID:4CLfavx30
「千反田さん、どうかしたのかい?」
10: ◆2cupU1gSNo
2013/06/16(日) 17:55:13.30 ID:4CLfavx30
>>7
失礼しました。
えるだけの中の人ネタになります。
11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/16(日) 21:35:08.32 ID:aYe+MWz70
乙
律の中にはえるがいるのかしらんこの場合
12: ◆2cupU1gSNo
2013/06/19(水) 19:47:02.54 ID:h4wqzmLN0
「あ、いや、えっと……」
13: ◆2cupU1gSNo
2013/06/19(水) 19:47:44.86 ID:h4wqzmLN0
「元気そうだったね、千反田さん」
14: ◆2cupU1gSNo
2013/06/19(水) 19:49:24.41 ID:h4wqzmLN0
俺と里志は顔を合わせて沈黙して、しかし何も口には出さなかった。
二人で定位置の椅子に座り、鞄の中に片付けた文庫本を手に取った。
帰宅にはまだ早い時間だ。
千反田が戻って来る可能性だってまだ残されている。
そうである以上、俺たちはまだ部室に残っているべきなのだ。
15: ◆2cupU1gSNo
2013/06/19(水) 19:50:15.81 ID:h4wqzmLN0
今回はここまでです。
のんびりよろしくお願いします。
16: ◆2cupU1gSNo
2013/06/27(木) 20:05:29.74 ID:Z5CFCVew0
「何だろうね」
17: ◆2cupU1gSNo
2013/06/27(木) 20:06:11.81 ID:Z5CFCVew0
「ないな」
18: ◆2cupU1gSNo
2013/06/27(木) 20:06:54.52 ID:Z5CFCVew0
「『ゲーム』に公平性がないからだ」
19: ◆2cupU1gSNo
2013/06/27(木) 20:07:51.12 ID:Z5CFCVew0
「別に俺に『車輪の下』が似合おうが似合うまいがどうでもいい。
だがそうだな。
もしかすると『車輪の下』の内容がこの『ゲーム』に関係してるかもしれない。
20: ◆2cupU1gSNo
2013/06/27(木) 20:08:54.84 ID:Z5CFCVew0
「悪くない考えだな。
だが車輪と言ってもたくさんあるぞ。
生徒の自転車、教員の自動車、その下を全て調べるわけにもいかない。
21: ◆2cupU1gSNo
2013/06/27(木) 20:09:23.69 ID:Z5CFCVew0
今回はここまでです。
またよろしくお願いします。
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