過去ログ - 戦艦水鬼「光溢れる水面に、わたしも」
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1:名無しNIPPER[saga]
2015/03/24(火) 13:46:53.28 ID:qsbs6+9v0

 完敗。
 完敗である。

 いや、違う。
 我々は今まさに完敗へ向かって突き進んでいる最中なのだ。

 戦艦水鬼は自らの体に、艤装に、視線を落とした。自軍の負けを半ば理解していても体は動く。敵前逃亡などあってはならないと勇ましく持論を叫んでいたのは誰だったか。
 記憶の隅、埃を被って千切れかけている思い出が、薄ぼんやりとだが浮かび上がる。そして確たる何かを得られぬまま、また水底へと沈んでいくのだ。

 まるでわたしたちのようではないか、と彼女は思った。
 そうして自嘲気味に笑う。どういう意味だか。まったく、どうやらすっかり気が振れてしまったようだ。
 いや、あるいは、最初から……。

 自らを突き進ませるものの正体はわからない。自らの正体すらもわからないのだから、別段不思議ではなかった。

 遠く、水平戦場に見える敵影。その数十二。空母棲姫が撃沈させられたとの報が入ってから、およそ3時間。羅針盤に導かれてやってきた、忌々しい艦娘たち。
 彼女たちを見るにつけ、自らのうちにこみ上げてくる感情の存在を、当然戦艦水鬼は知っていた。その名前も。


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2:名無しNIPPER[saga]
2015/03/24(火) 13:47:36.45 ID:qsbs6+9v0

 羨望。

 この焦がれるような思いは、でなければ、恐らく恋なのかもしれない。

以下略



3:名無しNIPPER[saga]
2015/03/24(火) 13:48:12.87 ID:qsbs6+9v0

 十二隻の内訳――戦艦が二、航戦が一、正規空母が一、航巡が一、軽巡が二、重巡が一、雷巡が一、駆逐が三。数の多寡は即ち戦力の多寡。そして差でもある。
 いや、やめようと戦艦水鬼は首を横に振った。戦いは頭でするのではないと彼女は思っていた。
 それになにより。

以下略



4:名無しNIPPER[saga]
2015/03/24(火) 13:48:49.54 ID:qsbs6+9v0

 更に続く。甲標的による雷撃――戦艦水鬼への直撃弾を戦艦棲姫が庇った。炸薬が派手に炸裂し、艤装の一部をもぎ取っていく。それでも小破に至ることはない。硬い装甲と高い火力が、彼女ら戦艦の持ち味である。
 そして、遺憾なく発揮されるのは、十分に近づいてから。

 あっはぁ、と艶かしい声が出たのを、彼女はどこか他人事のように聞いていた。
以下略



5:名無しNIPPER[saga]
2015/03/24(火) 13:49:23.08 ID:qsbs6+9v0

 反動で水面が激しく波打ち、海鳥たちを気絶させた。当然敵影もただでは済まない。間一髪で致命傷こそ避けたのだろうが、修験道服は体と艤装をまとめて吹き飛ばしながら倒れこむ。大破ではない。中破だ。

 敵艦隊からの応射――外れる。お返しだ、と戦艦棲姫が呟くのを戦艦水鬼は聞き逃さない。同じ気持ちなのだ、と彼女は思った。昂ぶって昂ぶって仕方がないのだ。

以下略



6:名無しNIPPER[saga]
2015/03/24(火) 13:49:57.93 ID:qsbs6+9v0

 それが憐憫であるとすればまだ戦艦水鬼にも理解はできた。だが、番傘の抱いている感情は、恐らくそうではない。想像でしかないにせよ確信できた。なぜなら、彼女は負の感情とともに生きてきたから。
 恨みだとか、妬みだとか、嫉みだとか。
 そう言うよくない感情はよく知っているつもりだから。

以下略



7:名無しNIPPER[saga]
2015/03/24(火) 13:50:33.66 ID:qsbs6+9v0

 艤装を一撫で。うぉおおおんという雄たけびをあげ、怪物が二体、番傘へ突っ込んでいく。
 沈めよう。沈めなければならない。それこそが彼女の本懐で、深海棲艦の本能。

 更に歩を進めようとしたところへ弾着観測射撃。彼女の頭上に浮かぶ、煩わしい瑞雲十二型。巨大な艤装を背負っているくせに目に涙なぞ浮かべて、実にいけ好かない。ちぐはぐだ。
以下略



8:名無しNIPPER[saga]
2015/03/24(火) 13:51:09.45 ID:qsbs6+9v0

 うらやましい。
 うらやましい。
 うらやましい。

以下略



9:名無しNIPPER[saga]
2015/03/24(火) 13:52:01.18 ID:qsbs6+9v0

 艤装が再度唸りを上げた。うらやましい。この羨望の感情をいかにして晴らしてくれよう。砲弾を撃ち、拳を振り上げ、もう一度もの言わぬ鉄屑へと戻すことによってしか為しえない。

 もう一度? そこで彼女は確かに自分の思考へ疑問を通わせた。

以下略



10:名無しNIPPER[saga]
2015/03/24(火) 13:52:36.27 ID:qsbs6+9v0

 酸素魚雷、及び艦首魚雷の猛攻を全てその一身で――あるいは二身で受け止めて、戦艦棲姫の艤装がゆっくりと崩れていく。赤い油を垂れ流し、ぶちり、ぶちりと自重に耐えられなくなった肉片が剥がれ落ちながら。
 なぜ、と問う間もなく、駆逐艦の魚雷が大破の戦艦棲姫を襲った。ちょうど真下で炸裂したその魚雷は、戦艦棲姫本体の下半身と、右腕から肩にかけてをまっさらにして、同時に命の灯火も吹き消す。

 残った戦艦棲姫が旗艦を大破まで追い込むが、既に彼女もまた残った駆逐艦、及び軽巡と重巡に囲まれている。二発の魚雷を受け、艤装と本体が断絶、それぞれが四断されて沈んでいった。
以下略



11:名無しNIPPER[saga]
2015/03/24(火) 13:54:15.43 ID:qsbs6+9v0

 20inch砲を重巡に向けた。あちらもこちらへ砲身を向けている。
 殆ど同時に発射された砲弾は、重巡を一発で大破に追い込む。が、反面、彼女の艤装の右側半分も機能停止に追い込まれた。頭を潰され、ぐずぐずに溶解していく。
 それでも彼女は戦いをやめない。当然のことではある。たとえ艤装がまるきり役に叩かなくなっても、決してやめないだろう。

以下略



12:名無しNIPPER[saga]
2015/03/24(火) 13:55:08.19 ID:qsbs6+9v0

 だが、戦いを続ける限りは、敵の姿を見ていることができる。
 それが戦艦水鬼にとって唯一無二の救いだったといってもよい。

 あまりにもうらやましい艦娘の姿。
以下略



13:名無しNIPPER[saga]
2015/03/24(火) 13:55:39.11 ID:qsbs6+9v0

 そんな姿を、やはり変わらず、彼女はうらやましいと思う。

 美しいと思う。

以下略



14:名無しNIPPER[saga]
2015/03/24(火) 13:56:18.35 ID:qsbs6+9v0



 提督、おめでとうございます!
 我が聯合艦隊は反撃を開始、トラック諸島において敵機動部隊主力を補足、これの撃滅に成功しました!
以下略



15:名無しNIPPER[saga]
2015/03/24(火) 13:57:29.66 ID:qsbs6+9v0
リハビリ。
読了ありがとうございました。


16: ◆ztUi9521Nc[saga]
2015/03/24(火) 14:09:33.09 ID:+gGMdw2P0

フッ… l!
  |l| i|li ,      __ _  ニ_,,..,,,,_
 l|!・ω・ :l. __ ̄ ̄ ̄    / ・ω・≡
  !i   ;li    ̄ ̄ ̄    キ     三
以下略



17:名無しNIPPER[sage]
2015/03/24(火) 16:55:28.49 ID:bNRdFnaV0

読んでるだけで高翌揚してくる素晴らしい戦闘描写
深海側の視点から描いてる部分もこのssを無機質な一戦闘ではなく情念を感じさせる物に昇華していて良い感じ
最後の>>14も心憎いですね、大変面白かったです


18:名無しNIPPER[sage]
2015/03/24(火) 18:30:54.50 ID:WgA88/TAO
いっつも酉付けっぱなしだなハルバード


19:名無しNIPPER[sage]
2015/03/24(火) 20:10:39.41 ID:Gq7eUSTso
ある一方からみたって感じかな
最後のが物悲しく感じた、乙


20:名無しNIPPER[sage]
2015/03/25(水) 05:06:22.79 ID:BtQMnFE0o
ええな



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