過去ログ - 【モバマスSS】香水 あるプロデューサーの物語
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81:名無しNIPPER[saga]
2016/04/04(月) 20:29:05.78 ID:0cF8uTc50



 慶は左手にウイスキーボトルを持ち、グラスを持った右手で、志希の部屋のドアをノックした。部屋の主がいようがいまいが、返事は無いと知っているので勝手に入る。
 志希は作業台に向かって、何かこまごまと作業をしていた。慶は近くの机の上にボトルとグラスを置き、椅子を引き寄せて座った。
以下略



82:名無しNIPPER[saga]
2016/04/04(月) 20:30:08.52 ID:0cF8uTc50
「で、今はどんな研究をしてるんだ? サテュリオンの改良か?」

 志希は、牛脂のような塊をヘラで抉り、均等に切った何かの欠片にこすり付けている。

「サテュリオンは効果ばっちりみたいだけど、あたしとしては満足してないんだよねー」
以下略



83:名無しNIPPER[saga]
2016/04/04(月) 20:30:50.36 ID:0cF8uTc50
 アンフルラージュとは、脂に香りを移す技術だったか。冷浸法と温浸法の二つがあり、グルヌイユが行ったのは前者のはずだ。

「美少女の香りでも蒐集するつもりか? やめてくれよ。サテュリオンの製造過程で、既に違法薬物にまで手を出しているんだから、さすがに人間の死体まで用意できないって」

「別に死体じゃなくても構わないんだけどね。芸能プロダクションに努めてるキミなら、何とかならないかな?」
以下略



84:名無しNIPPER[saga]
2016/04/04(月) 20:32:31.34 ID:0cF8uTc50
 慶は改めて、部屋の中を見渡した。雑然と物が散らばっているように見えるが、欲しいものが手に届く位置にあるということを、慶は知っていた。
 壁際は殆ど棚で占められており、ラベル付きの壜が所狭しと並んでいる。
 オレンジ、レモン、ローズマリーなどの植物の香油は勿論のこと、鍵付きの棚には麝香、龍涎香、海狸香、霊猫香など、希少な素材が収納されている。
 また、壁に残った僅かなスペースには、ヴァトー作「ユピテルとアンティオペ」の小さなレプリカが掛けられていた。この絵は、「香水」を装丁する際に表紙としてよく使用されているので、志希が飾ったものだろう
 部屋の中央部には幾つかの作業台が並んでおり、それぞれの上に大小さまざまなビーカーやフラスコ、乳鉢、漏斗、小型蒸留器などの器具が置かれている。
以下略



85:名無しNIPPER[saga]
2016/04/04(月) 20:33:12.13 ID:0cF8uTc50
「……あのさあ、アイドルって楽しいの?」

 志希は手を止めて、いきなりそんなことを言い出した。

「さあな、俺はアイドルをやったことないから、楽しいかどうかわからない。けど、アイドルは皆、楽しそうに活動してるよ。もちろん仕事だから、楽しいことだけじゃないけどな」
以下略



86:名無しNIPPER[saga]
2016/04/04(月) 20:34:04.38 ID:0cF8uTc50
「あ、そういえばさ、最近このマンションに不審者が出るらしいよ」

 志希と会話していると、急に話題が変わるのはいつものことである。

「昨日ラウンジで、優雅な奥様方がそんな話してた」
以下略



87:名無しNIPPER[saga]
2016/04/04(月) 20:35:15.08 ID:0cF8uTc50
 慶はふと、壁に掛かっている時計を見上げた。もうすぐ日付が変わる。
 十二時を過ぎると、シンデレラの魔法は解ける。そんなことを考えていると、急に漠然とした不安が沸き上がってきた。
 心臓の鼓動が早くなり、足元に奈落が開くような錯覚を覚えた。

「どうしたの? 何か怖いことでも想像した?」
以下略



88:名無しNIPPER[saga]
2016/04/04(月) 20:36:23.55 ID:0cF8uTc50
「どうしたのかなー? よしよし、いいこでちゅねー。怖い夢を見るなら、お姉ちゃんが添い寝してあげようかー?」

 志希が、小馬鹿にするように嗤った。しかし、慶が何かを怖がることなどそう無いので、彼女なりに気を遣ってくれたのだろう。

「いらん。ほら、研究とやらが残ってるんだろ。俺のことなんかどうでもいいから、続きしとけ」
以下略



89:名無しNIPPER[saga]
2016/04/05(火) 19:31:55.24 ID:yG+egbPm0




 もう日付が変わろうとしている時間なのに、346プロダクションの役員室は、煌々と明かりがついている。
以下略



90:名無しNIPPER[saga]
2016/04/05(火) 19:32:46.41 ID:yG+egbPm0
「まず一つに、西門慶は担当しているアイドルを、自分のマンションに連れ込んでいるようですね。何をしているかは、言うまでもありません」

 男の報告を聞いたとき、美城常務の虹彩に瞋恚の炎が燃え上がった。

「やはり、西門慶が担当アイドルに手を出しているという噂は本当だったのだな……他には無いのか?」
以下略



91:名無しNIPPER[saga]
2016/04/05(火) 19:33:20.18 ID:yG+egbPm0
「……ありがとう。君にはいつも助けられているな」

「いえいえ、美城常務の御為ならば、この程度のことは造作もありません。しかし……」

 そこで男は言葉を切った。その沈黙には、何かを期待するような気配が感じられる。
以下略



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