1:名無しNIPPER[saga]
2016/08/17(水) 20:25:25.81 ID:cSUEPfQ20
「……ねぇ、みんな、遅くない?」
放課後。午後5時。
開けっ放しの古びた窓からは、風は入ってこない。
代わりに、運動部の掛け声や吹奏楽部の演奏の音が冴え冴えと響いてくる。
それに混じって、ハワイアンな雰囲気の弦楽器の音。
詳しいことは知らないが、うちの高校にはプレクトラムアンサンブル部、という部活があるらしい。
弦楽器の音の正体。
この高校に通い始めて一年が過ぎたが、プレクトラムアンサンブルなるものがどんな楽器か見たことはない。
「……うん、たしかに」
俺はサイズの合わない机に肩肘をついて、ちらりと目を横にやりそう答えた。
女子。夏服。暑いので胸元をパタパタと扇ぐ。……見えそうで見えない。無念。
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2:名無しNIPPER[sage]
2016/08/17(水) 20:26:40.10 ID:aat8zZtr0
期待
3:名無しNIPPER[saga]
2016/08/17(水) 20:27:06.06 ID:cSUEPfQ20
返事が来たのに安心したのか、イチは頬をにへっ、と緩めて、窓枠にもたれかかった。
イチ。
初めて話した時(高校に入って初めに話したのはイチかもしれない)、イチゴオレを飲んでいたので、そう呼ぼうとしたら、
4:名無しNIPPER[saga]
2016/08/17(水) 20:28:33.31 ID:cSUEPfQ20
「……なんもないなぁ」
イチがつまらなさそうに項垂れる。今日は風が吹かないので、長いポニーテールも、心なしか萎れているように見えた。
5:名無しNIPPER[saga]
2016/08/17(水) 20:30:02.12 ID:cSUEPfQ20
「羨ましいの?」
「そりゃ少しは……」
6:名無しNIPPER[saga]
2016/08/17(水) 20:31:30.51 ID:cSUEPfQ20
窓から風が入る。部室は風通しが悪いので、イチはありがたそうに両手を広げて、少ない風を受け止めた。
「俺に風がこないんですけど」
7:名無しNIPPER[saga]
2016/08/17(水) 20:32:59.94 ID:cSUEPfQ20
……やはり、見えそうで見えない。
角度の問題で、俺の位置からはギリギリ制服の胸元を覗くことができない。
ここで立ち上がれば完璧なのだろうが、あいにく、俺にはその程度の度胸もなかった。
8:名無しNIPPER[saga]
2016/08/17(水) 20:34:10.21 ID:cSUEPfQ20
「遅かったね、何してたの?」
「校内に迷い込んでしまったカナブンを窓の外に出していました」
9:名無しNIPPER[saga]
2016/08/17(水) 20:35:39.78 ID:cSUEPfQ20
「そうですか」
少しつまらなさそうにカバンから水筒を取り出すと、ナナコは湯気が立つお茶を一口飲んだ。
10:名無しNIPPER[saga]
2016/08/17(水) 20:36:48.50 ID:cSUEPfQ20
趣味なんてみんなバラバラだし、クラスも違う。共通の友達は部活のメンバーくらい。
そもそもこの部活には、ここにいる三人と、あと三人しかいない。
窓からささやかな風が流れてくる。初夏の緑の匂い。
11:名無しNIPPER[saga]
2016/08/17(水) 20:39:33.27 ID:cSUEPfQ20
「『右は正直村?』?」
「違う」
12:名無しNIPPER[saga]
2016/08/17(水) 20:41:03.24 ID:cSUEPfQ20
窓の外に目をやると、まだ日は高いようだった。最近は日が沈むのも遅くなってきている。もうすぐ夏だ。
「……あ、いま何時?」
不意に、イチが口を開く。
13:名無しNIPPER[saga]
2016/08/17(水) 20:42:24.17 ID:cSUEPfQ20
しかし、部長の居場所と言っても、どこにいるのか検討もつかない。
イチもナナコも部長も、基本会う時は部室。三人とも文系棟だから、俺とは教室も遠いし。
俺と同じ理系棟には、理数科のチヨがいる。
14:名無しNIPPER[saga]
2016/08/17(水) 20:43:39.12 ID:cSUEPfQ20
渡り廊下に続く扉を開けると、ひんやりとした鉄の感触が手のひらに伝わってくる。
扉を開けると、顔に風が吹いてきて、少し目を細めた。
ここ、三階の渡り廊下は、青空天井となっている。つまりは天井がない。
15:名無しNIPPER[saga]
2016/08/17(水) 20:45:15.38 ID:cSUEPfQ20
「こなたは喉が渇きました」
「そりゃ、こんな風の強いところにいたらね」
16:名無しNIPPER[saga]
2016/08/17(水) 20:46:41.39 ID:cSUEPfQ20
理数科の教室には、こなたの言う通り、チヨがいた。
チヨはこちらに気がつくと、「あ……」と呟いて、驚いたように固まった。教室には、チヨ以外誰もいない。
チヨも、イチやナナコと同じく、同じ部活で、さっきも言ったように、二年生の理数科クラス。
17:名無しNIPPER[saga]
2016/08/17(水) 20:48:42.73 ID:cSUEPfQ20
「そうそう、部長見てない?」
「部長?」
「うん、なんか鍵は開いてんのに部室にいなくてさ」
18:名無しNIPPER[saga]
2016/08/17(水) 20:49:35.10 ID:cSUEPfQ20
「チヨが知らないってことは、部長は完全に行方知らずか……」
「ご、ごめんね……?」
いやだから謝ることじゃないって。
19:名無しNIPPER[saga]
2016/08/17(水) 20:50:48.43 ID:cSUEPfQ20
渡り廊下を通った時には、こなたはいなかった。もう帰ったのだろうか。
文系棟に続く扉を開けると、屋内の方がちょっぴり涼しくて驚いた。
空調は付いていないのに。
20:名無しNIPPER[saga]
2016/08/17(水) 20:51:59.98 ID:cSUEPfQ20
「何かする、って、部活で?」
「そそ、ウチも一応部活動だし、たまには活動しないと、って」
一応、って……。
21:名無しNIPPER[saga]
2016/08/17(水) 20:53:04.69 ID:cSUEPfQ20
「ただいまー!」
部長が建てつけの悪い扉を勢いよく開く。何故だか、この人は毎回、扉を全開にする。
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