過去ログ - 水本ゆかり「清澄」
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1:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:22:03.20 ID:snFV7Fpq0

・(地の文ありは)初投稿です。

・段落ごとに一行開け、段落内でも文が長そうなら改行しています。
かえって読みにかったら申し訳ありません。

・全58レスの予定。

・ゆかりちゃん誕生日おめでとうございます。


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2:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:22:43.99 ID:snFV7Fpq0

 レッスンのお休みを待って、私はひとりでスタジオにこもることにしました。
私にとって最も馴染み深い方法を試してみることにしたのです。

 両手の指で挟んだ、心地良い銀の重み。
以下略



3:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:23:24.10 ID:snFV7Fpq0

 胸まで満たす、ふくよかな木管の響き。

 自らの吐息が空間を音楽に染め上げていく感覚。

以下略



4:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:23:58.35 ID:snFV7Fpq0

 心地のよい空白――

 準備は整いました。試したいのは、ここから。
ひとつ呼吸を置いて、私は始めました。
以下略



5:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:24:32.12 ID:snFV7Fpq0

 息、舌、指。

 私の体が紡ぎ出す、二百年以上も昔に記されたメロディ。

以下略



6:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:25:05.65 ID:snFV7Fpq0

 短い楽章を吹き終え、私は肩を震わせました。
しんと静まった部屋の気圧が奇妙に胸を掻き乱し、寒気を覚えるほどでした。

 不安に息が詰まりそうでした。
以下略



7:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:25:39.08 ID:snFV7Fpq0

「邪魔してごめん、いま、大丈夫?」

 私は瞬きして、静かに彼を見つめました。

以下略



8:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:26:13.61 ID:snFV7Fpq0

「……どっ」

「え?」

以下略



9:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:26:47.36 ID:snFV7Fpq0

          1

 チューバが歌うような品のある長い低音が私のおへその下の辺りをくすぐっていました。

以下略



10:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:27:26.48 ID:snFV7Fpq0

 人の多いこの街。あふれるような、この街――
窓の向こうを流れていくその姿を眺め、私は目を細めました。
夜を裂くきらめきは、スモーク張りを通しても眩しいのです。

以下略



11:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:28:00.02 ID:snFV7Fpq0

 ため息を吐くと、出て行った空気の分だけ体が沈みました。
クッションの効いたシート。何となく撫でていたくなる、手触りのいい生地。

 この上で体を丸めて、猫のように眠りに就けたら気持ちがいいでしょうね。
以下略



12:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:28:33.46 ID:snFV7Fpq0

「疲れたよね、お疲れさま」

 私は少し頬を熱くしました。
見透かされたように思ったのです。
以下略



13:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:29:08.41 ID:snFV7Fpq0

 上品なダークグレイのスーツに包まれた細い体。
締まったというよりこけた頬と、濃い隈の隠せない目元。
街灯の明かりが差し込まないと、車内の陰に溶けてしまいそうな人でした。
しかし彼こそ、私をかぼちゃの馬車に導いた、立派なプロデューサーなのです。
以下略



14:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:29:41.85 ID:snFV7Fpq0

 初々しい感じ。

 私は胸の内で繰り返しました。ほめられているのでしょうか?
しかし浮かんだ疑問は置いて、よかった、と私は口にしました。
以下略



15:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:30:15.37 ID:snFV7Fpq0

 今日のお仕事はCDの販促でした。
レコード屋さんのスペースをお借りして、来てくださったお客さんと握手したり、ご購入いただいたCDにサインをしたり――
これまでの人生、立ち寄ったお店で偶然出くわすと、遠巻きに見ていたような出来事。
机を挟んだ反対側から、私はそこに参加したのです。
以下略



16:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:30:48.81 ID:snFV7Fpq0

「焦るなよ〜?」

「ええ?」

以下略



17:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:31:22.32 ID:snFV7Fpq0

「ほら、まだ始まったばっかだから。最初はこんなもんだよ。アンテナ張ってて、アイドルめっちゃ好きです好き過ぎますーみたいな、ありがたいお客さんしか来ないから。これからだよ、ゆかりちゃんのロードは」

「ロード?」

以下略



18:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:31:55.66 ID:snFV7Fpq0

「そう、です、ね」

 しかしそんな思いと裏腹に、私の口は、自然と言葉を紡いでいました。

以下略



19:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:32:45.74 ID:snFV7Fpq0

 あの一瞬。

 先のことを考えた、あの一瞬の内に、私は何かを取りこぼしてしまった。
そんな気がしてならなかったのです。
以下略



20:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:33:19.64 ID:snFV7Fpq0

         2

 朝は早く起きる。

以下略



21:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:33:53.88 ID:snFV7Fpq0

 放課後は事務所に足を運ぶ。
プロデューサーさんに挨拶して、スケジュールの確認や簡単な打ち合わせを済ませたら、社内の練習室でレッスンを受ける。

 ダンス、歌、表現力。
以下略



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