過去ログ - 「壊したがり」
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3:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:15:18.53 ID:3OYwXlIW0
 値段の割には十分な刺激と快感を得られたのだから、一応成功ということにしておきたい。
 いや、そうでなくちゃ色々と困る。
 屈み込んだ状態で割れた破片をゆっくりと一つずつ回収しながら、湯呑みが割れた瞬間を脳内で繰り返し再生していると、奇妙な笑みがこぼれてくる。

 ああ──やはり大事にしていた分、壊れたときの喜びもひとしおだ。
以下略



4:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:17:54.43 ID:3OYwXlIW0
 今もまだ、この湯呑みを使っていた頃の記憶が残っている。それを反芻していると、深い喪失感と悲しみが胸を打つ。
 でも、この感情が堪らなく愛おしいのだ。
 自分が変人だということは重々理解している。頭のおかしい狂人だと罵られても、おかしくはない。
 だとしても、これでいい。
 誰も知らない私だけの秘密。
以下略



5:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:20:55.19 ID:3OYwXlIW0
2
「壊子さん、ちょっといいですか」

 問題が山積みとなり開催さえ危ぶまれていた文化祭も無事に終了し、八月上旬に予定されているコンクールに向けて静物デッサンの練習をしていた六月十日の放課後、校内の美術室で水の入ったカットグラスをデッサンしている織野が、声をかけてきた。

以下略



6:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:22:59.12 ID:3OYwXlIW0
「そ、そんなことありませんよ!まだまだ教わることはいっぱいあります!」
「例えば?」

 うーんと腕を組みながら悩む織野の姿は、絵を描くときと同じぐらい真剣そのものだ。

以下略



7:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:26:00.78 ID:3OYwXlIW0
縋るような目で私を見上げるこの男は、織野工という。
高校二年生とは思えない童顔に、やたらと鬱陶しい前髪。
運動とは縁がなさそうな細身の身体は白く、見ようによっては女性的に捉えられるかもしれない。
 私が高校二年生の頃、校内で冬休みの話題が盛んになってきたとき、彼は脈絡もなく、唐突にこの総勢一名の美術部に入部してきた。
 動機はあなたのような絵を描けるようになりたいとか、展示されていた絵に惚れ込みました、とかだったような気がする。
以下略



8:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:29:57.65 ID:3OYwXlIW0
けれど、それは随分ともったいない。
壊す為にはまず作ることが重要だ。彼と最高の関係を築き上げたときこそ、遠慮なく全力で壊すことができるというものである。

「織野はまず、私に教わるという習慣を壊すところからスタートするべきだよ」

以下略



9:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:32:57.31 ID:3OYwXlIW0
「うーんとね……そこの窓から、ちょちょいっと」

 江ノ島が指差す窓に視線を移すと、確かに女子生徒が一人通れるくらいの隙間があった。
 ただ問題はそこではない。この美術室は校舎三階に位置するのだから、ちょっと飛び跳ねたぐらいでは窓枠に手をかけることすらできない。

以下略



10:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:34:59.53 ID:3OYwXlIW0
「……毎度のことだが、こういう危険なことをするのはやめなさい」

 一応本心からの言葉だ。まあ、彼女が怪我をしようが知ったことではないが、責任問題に問われたらかなわないからな。

「いやです!さっきも先輩、後ろからたっくんに抱き着こうとしてたじゃないですか!」
以下略



11:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:37:00.37 ID:3OYwXlIW0
3
 急な梅雨入りに対応できなかったのか、織野が珍しく体調を崩して早退したらしい。
 つまり、今この時に限り美術室は私の部屋も同然であり、新たな来訪者が現れなければ、こうして静かに外の雨音に耳を傾けることができるということである。
 生徒が授業中に使用するスチール製の椅子に腰かけながら、窓の外に視線を移す。
 天気は一向に回復する気配がなく、かといってこれ以上雨脚が強まる様子も見受けられない。
以下略



12:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:38:43.14 ID:3OYwXlIW0
「ああ……君も知ってて来たのだろう」

 花のように微笑みながら、江ノ島は答える。

「はい。たまには自主的に部活するのもいいかなあ、と思いまして」
以下略



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