過去ログ - 「壊したがり」
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7:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:26:00.78 ID:3OYwXlIW0
縋るような目で私を見上げるこの男は、織野工という。
高校二年生とは思えない童顔に、やたらと鬱陶しい前髪。
運動とは縁がなさそうな細身の身体は白く、見ようによっては女性的に捉えられるかもしれない。
 私が高校二年生の頃、校内で冬休みの話題が盛んになってきたとき、彼は脈絡もなく、唐突にこの総勢一名の美術部に入部してきた。
 動機はあなたのような絵を描けるようになりたいとか、展示されていた絵に惚れ込みました、とかだったような気がする。
以下略



8:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:29:57.65 ID:3OYwXlIW0
けれど、それは随分ともったいない。
壊す為にはまず作ることが重要だ。彼と最高の関係を築き上げたときこそ、遠慮なく全力で壊すことができるというものである。

「織野はまず、私に教わるという習慣を壊すところからスタートするべきだよ」

以下略



9:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:32:57.31 ID:3OYwXlIW0
「うーんとね……そこの窓から、ちょちょいっと」

 江ノ島が指差す窓に視線を移すと、確かに女子生徒が一人通れるくらいの隙間があった。
 ただ問題はそこではない。この美術室は校舎三階に位置するのだから、ちょっと飛び跳ねたぐらいでは窓枠に手をかけることすらできない。

以下略



10:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:34:59.53 ID:3OYwXlIW0
「……毎度のことだが、こういう危険なことをするのはやめなさい」

 一応本心からの言葉だ。まあ、彼女が怪我をしようが知ったことではないが、責任問題に問われたらかなわないからな。

「いやです!さっきも先輩、後ろからたっくんに抱き着こうとしてたじゃないですか!」
以下略



11:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:37:00.37 ID:3OYwXlIW0
3
 急な梅雨入りに対応できなかったのか、織野が珍しく体調を崩して早退したらしい。
 つまり、今この時に限り美術室は私の部屋も同然であり、新たな来訪者が現れなければ、こうして静かに外の雨音に耳を傾けることができるということである。
 生徒が授業中に使用するスチール製の椅子に腰かけながら、窓の外に視線を移す。
 天気は一向に回復する気配がなく、かといってこれ以上雨脚が強まる様子も見受けられない。
以下略



12:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:38:43.14 ID:3OYwXlIW0
「ああ……君も知ってて来たのだろう」

 花のように微笑みながら、江ノ島は答える。

「はい。たまには自主的に部活するのもいいかなあ、と思いまして」
以下略



13:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:40:46.32 ID:3OYwXlIW0
「……雑談ぐらいなら付き合おう」
「雑は嫌です、密でお願いします」

 雑ではなく密に、か。
 密といえば、親しい。
以下略



14:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:43:01.95 ID:3OYwXlIW0
「ここまで言ってもとぼけるなんて……先輩って、凄く真面目な優等生って感じなのに、意外と意地悪ですね」
「君たちが勝手に優等生だと期待して、祭り上げているだけだ。好き勝手期待しておいて、期待に答えなければ失望するなんて、はっきり言っていい迷惑だよ」
「でもしっかり期待に答えてるあたり、本当はまんざらでもなかったりするんじゃないですか」
「だとしても、それを自覚したいとは思わんね」
「…………」
以下略



15:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:46:16.08 ID:3OYwXlIW0
 私の発言を聞いて、江ノ島はふうと息を吐きながら全身の緊張を緩め、再びゆっくりと腰を下した。

「なら良かったです。恐々院先輩と争っても、正直、あたしじゃどうにもならないって思ってましたから」
「どうして?女性的魅力という点において、私では君に逆立ちしたって敵わないと思うが」

以下略



16:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:48:30.16 ID:3OYwXlIW0
4
 江ノ島の告白宣言を聞いてしまってから、私の生活は一変した。

 無論、良い方ではなく悪い方に、である。

以下略



17:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:51:47.75 ID:3OYwXlIW0
5
 期末試験の準備で校内に残る生徒もまばらなってきていた六月二十四日の放課後、今後の部活動について相談があるという口実で、織野を校舎の屋上まで連れ出した。
 外は既に夕焼け色に染まっていて、普段は活気のあるグラウンドも、奇妙なくらい静まり返っている。

「壊子さん、相談なら美術室でも良かったんじゃないですか」
以下略



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