過去ログ - 2月の昼下がりに橘ありすと話すことについて
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◆K5gei8GTyk
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2017/02/07(火) 19:18:40.54 ID:0cqd1nr10
モバマスssです
地の文有り 書き溜め有り
ある有名な作家のファンで、彼の文体を模写しようとしてこれが生まれました
クオリティは高くはないやもしれませんが、お楽しみいただけますと幸いです
SSWiki :
ss.vip2ch.com
2
:
◆K5gei8GTyk
[saga]
2017/02/07(火) 19:20:22.56 ID:0cqd1nr10
この物語はフィクションであり、誰にも捧げられるべきではない。
3
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◆K5gei8GTyk
[saga]
2017/02/07(火) 19:21:16.09 ID:0cqd1nr10
二十七だった僕が三十二になる頃には、十二だった彼女も十七になった。
その五年の中に、ドラマと称して差し支えのないような出来事は幾つもあるような気はするけれど、本当のところはよくわからない。
ドラマとは、完結したものにしか冠することのできない称号のようなものだから。
僕と彼女がどういう形であれ、その関係性が終わりを迎えなければ、ラべリングはできないのだ。
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◆K5gei8GTyk
[saga]
2017/02/07(火) 19:22:17.80 ID:0cqd1nr10
彼女についてなにか説明することがあるとすれば、その心根の高潔さだろうか。
冬の夕暮れに響くコルネットのように、彼女は清らかなアイドルだった。
年齢相応の可愛げがあり、聡明さがあり、正しさがある。
僕の主観を越した言葉なんかより、実際に彼女を見た方がよっぽど早い。
以下略
5
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◆K5gei8GTyk
[saga]
2017/02/07(火) 19:25:30.47 ID:0cqd1nr10
議論に区切りがついたのは、翌日の午前九時頃のことだった。
前日の午後八時には終業していたから、単純に計算してもそれから半日以上話し込んでいたことになる。
集中力とその持続力にはそこそこの自信があった僕でも、これはさすがにこたえた。
建設的な事柄についての議論を、それも、濃霧の中をトレッキングするように遅々とした速度で。
というのも、新たなライブ案について、我々は夜を通して頭を捻っていたのだ。
以下略
6
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◆K5gei8GTyk
[saga]
2017/02/07(火) 19:29:27.81 ID:0cqd1nr10
結成したユニットは活動を休止して三年を過ぎた今でも未だに人気が根強く、過去に販売したアルバムの売れ行きも申し分はなかった。
だが、どこか決定的な局面において、磨きが足りないように感じられた。
垢抜けていなかったわけじゃない、だけど表現の奥行きが浅かった部分はあったように思う。
観る者の心象をそのまま映し返すような、単純で純粋な輝きが足りなかったのかもしれない。
以下略
7
:
◆K5gei8GTyk
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2017/02/07(火) 19:34:38.15 ID:0cqd1nr10
パソコンの電源を落として、僕はなににも先行してまずシャワー室に向かった。
熱いシャワーは、凝り固まった身体に沁みた。潤い以上のなにかが満ちるのを、僕は感じていた。
身体中に纏わりついた汚れのような疲労感をある程度拭うと、やがて耐えがたい空腹が僕の思考を、ローマの騎兵のように着実に占有していった。
最後に口にしたのは、昨日の晩にテイクアウトで頼んだぺパロニとブラックオリーヴのピザだった。
以下略
8
:
◆K5gei8GTyk
[saga]
2017/02/07(火) 19:38:09.94 ID:0cqd1nr10
大抵の場合、僕は眠りから覚める時、さざ波のような柔らかな浮上感を覚える。
壁に掛けられた時計を見遣ると、三時間ほど眠りこけていたらしい。寝覚めの感覚は、決して悪いものではなかった。
人の気配を感じて周囲を見回すと、革張りのソファに彼女が腰かけているのが見えた。どうやらペーパーバッグを読み耽っているらしい。
どうしてまたこんな日に事務所にいるのだろう。こんなに静かで、バッハのシャコンヌなんかがうってつけの日に。
以下略
9
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◆K5gei8GTyk
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2017/02/07(火) 19:42:26.24 ID:0cqd1nr10
「橘です」
こちらに目もくれず、短い言葉だけが返ってくる。
彼女はあまり親しくない人間に名前を呼ばれるのを好まない。
そんな時は、いつもさっきのように返す。まるでそれが決まりごとであるかのように。
以下略
10
:
◆K5gei8GTyk
[saga]
2017/02/07(火) 19:46:30.43 ID:0cqd1nr10
「今日は土曜日だと思っていたんですが」
「ああ。僕もそう思う」
彼女が投げた簡潔なクエスチョンは、言外になぜ僕が休日なのに事務所で寝こけていたのかという、もう一つの疑問をくるんでいた。
以下略
11
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◆K5gei8GTyk
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2017/02/07(火) 19:49:34.89 ID:0cqd1nr10
「プロデューサーは、仕事ですか」
「いいや、友人とやり取りをしていた」
嘘じゃない。彼らとは実際にプライヴェートでも交友を持つほど仲が良い。
以下略
12
:
◆K5gei8GTyk
[saga]
2017/02/07(火) 19:52:33.87 ID:0cqd1nr10
「旅行の計画?」
「立てるだろう、ありすも。ここじゃないどこかへ旅に出かけるなら」
僕がそう問いかけると、少し考え込む表情になってから、真面目にも彼女は頷いた。
以下略
13
:
◆K5gei8GTyk
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2017/02/07(火) 19:54:42.56 ID:0cqd1nr10
「では、お楽しみのところ申し訳ありませんが」と彼女は言って、ソファから立ち上がる。
「今日のことを、プロデューサーは覚えていますか」
はて。
以下略
14
:
◆K5gei8GTyk
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2017/02/07(火) 19:57:51.83 ID:0cqd1nr10
「ありすには今日という日に心当たりがあるのかい」
「あるから、ここにいるんです」
少しだけつまらなさそうに彼女が返事をよこす。
以下略
15
:
◆K5gei8GTyk
[saga]
2017/02/07(火) 20:01:33.29 ID:0cqd1nr10
「これは?」
「一応、誕生日のプレゼントです」
彼女の黒檀の髪がまるで、春の風に色をつけたようにしなやかに揺れる。
以下略
16
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◆K5gei8GTyk
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2017/02/07(火) 20:05:02.18 ID:0cqd1nr10
「別に誕生日に関して聡くある必要性がないからさ」
「……私の誕生日は忘れたことがないくせに」
「担当しているアイドルの誕生日を忘れるようじゃ、プロデューサーは務まらないからね」
以下略
17
:
◆K5gei8GTyk
[saga]
2017/02/07(火) 20:08:17.78 ID:0cqd1nr10
丁寧な包装を取り去ると、包まれていたのはカランダッシュのボールペンだった。
シンプルで無駄のないボディに、精緻な装飾が施されていて、思わず感嘆の息が漏れてしまう。
実際に手に取って見るのは初めてだった。まるで感情を持っているかのように、それは意味ありげに輝きを放っている。
「カランダッシュか」と僕は言った。
以下略
18
:
◆K5gei8GTyk
[saga]
2017/02/07(火) 20:13:43.31 ID:0cqd1nr10
冬の夕暮れに響くコルネットのように、彼女は清らかなアイドルだ。
いつの彼女にも年齢相応の可愛げがあり、聡明さがあり、正しさがあった。
それらは彼女にとって紛れもなく美点だといえるし、もちろん欠点もその中にある。
でも、そんななにもかもを含めて、僕は彼女のことを敬愛している。
以下略
19
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◆K5gei8GTyk
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2017/02/07(火) 20:15:59.02 ID:0cqd1nr10
「……あの、少しだけ心配です」
「なにが」
「仕事のしすぎで、プロデューサーが身体を壊してしまわないか」
以下略
20
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◆K5gei8GTyk
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2017/02/07(火) 20:26:29.10 ID:0cqd1nr10
「普段は飄々としているプロデューサーが、仕事に熱心な人なのは知っています」
「でも、そのせいで体調を崩されたら、元も子もないと思います」
「たまにはゆっくりされることを、推奨します」
以下略
21
:
◆K5gei8GTyk
[saga]
2017/02/07(火) 20:27:27.33 ID:0cqd1nr10
彼女は彼女で、僕のことを頭の片隅には置いてくれているのだな、と思った。
まるで丘陵に立っているような気分になった。ささやかで、清々しい。
生きていると、生活を続けていると、指紋のように自然に、それでいて防ぎようのない形で、倦怠感のようなものが身体に貼り付く。
それは、退屈なロードムービーを観賞したり、自分好みの味付けの料理を口にすることで、拭き取ることができるのだけれど。
以下略
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