2: ◆/BueNLs5lw[saga]
2016/07/27(水) 08:37:06.83 ID:Li1QhE+X0
――――ここは日淀村(ひよどむら)。中国地方にある小さな集落だ。数える程しかいない人口のこの村で、悲劇は起きた。
この村にいた子どもたちは、次々と病で死んでしまったのである。
生き残った大人たちは、この村にもともとあった風土病のせいだとみな口をそろえて言った。
過去にも、江戸から明治時代にかけて夏場の気温が異常に高くなった時期にもこの病が村の子ども達を襲ったらしい。
私は、黒い紐で束ねられた古い資料を枕の下に差し込んだ。
3: ◆/BueNLs5lw[saga]
2016/07/27(水) 09:01:18.96 ID:Li1QhE+X0
診療所に一つしかない病室の窓から見ていた風景に飽きてきたところだったので、嬉しかった。
母を仰ぎ見ると、笑いかけてくれた。
「陽の光を浴びたら、すぐに元気になるからね」
4: ◆/BueNLs5lw[saga]
2016/07/27(水) 09:12:55.55 ID:Li1QhE+X0
「ナツ……?」
聞かされた名前を無意識に呟いた。
状況が飲み込めない。
ナツと呼ばれても全く反応を示さない少女。
5: ◆/BueNLs5lw[saga]
2016/07/27(水) 09:21:11.57 ID:Li1QhE+X0
「母さん」
父が母に何か合図する。
母は頷いて、私から離れた。
6: ◆/BueNLs5lw[saga]
2016/07/27(水) 09:30:37.98 ID:Li1QhE+X0
「ナツ、身長高いね」
私は立ち上がろうと、車いすから足を降ろした。
「よっと」
7: ◆/BueNLs5lw[saga]
2016/07/27(水) 10:04:02.04 ID:Li1QhE+X0
「そうですか」
ナツが呟くかたわらで、私は先ほど読んでいた資料を思い出す。
あれは、診療所の倉庫にあったもので、ヒマだったのでこっそりと拝借したものだ。
子どものいなくなった村に、よそから身寄りのない子どもを引き取って村を存続させたとも書いてあった。
8: ◆/BueNLs5lw[saga]
2016/07/27(水) 10:28:27.97 ID:Li1QhE+X0
診療所の前の道路は、太い木の根がアスファルトを突き破っていた。
生い茂る大木の木の葉が、二人の上に影をつくる。
なんとかまたいで、ナツにしがみつくように歩いた。
目覚めてからすぐにリハビリをしたおかげか、支えがあれば歩くのにそこまで支障はない。
桟橋にはすぐに着いた。大きな池に設置されたそれは、今や誰も使っていないのが一目で分かる程古びてボロボロになっていた。
9: ◆/BueNLs5lw[saga]
2016/07/27(水) 10:48:46.60 ID:Li1QhE+X0
子どもが次々に死んでしまう奇病がついこの間まで流行っていたのに、どうして村に来れたのだろう。
もともといた所から離れて寂しくないのか。
一人は寂しくないのか。
私は、もしかしたら、一人でも大丈夫だという確信をナツに見出そうとしているのかもしれない。
10: ◆/BueNLs5lw[saga]
2016/07/27(水) 11:18:38.47 ID:Li1QhE+X0
「こんなことを聞いても、なんの慰めにもならないでしょうに」
ナツは鼻で笑った。
「それとも、自分よりも可哀相な人間を見ると落ち着きますか?」
11: ◆/BueNLs5lw[saga]
2016/07/27(水) 11:36:38.98 ID:Li1QhE+X0
その後、何も言い返すことができず、また診療所に戻った。
そもそも、自分の常識が通じない相手なのかもしれない。
傷つくというか、カルチャーショックに近い。
「ナツ、家を案内しよう。ミソラは、しばらくは診療所生活が続くから、ナツはそれまでに家のことを覚えていこう」
12: ◆/BueNLs5lw[saga]
2016/07/27(水) 11:42:50.61 ID:Li1QhE+X0
それから、1週間程が過ぎた。
私は漸く自分の足で走れるくらいにまで回復していた。
ガリガリだった体も肉付いてきて、逆に太りすぎていないかと気になるくらいだった。
「今日まで、リハビリをさぼらずに頑張った成果ですね。頑張りましたね」
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