不幸病にかかった。余命半年、初めて好きな人ができた。
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1:プロタゴラス
2019/02/04(月) 22:32:59.98 ID:LXX+6+Jq0
油蝉が、窓の外の大きな桜の木で鳴いている。医者がカルテと僕の顔を何度か往復させると、静かにその病名を伝えた。

「不幸病」

不幸であることだけではない。人生に無気力で、何も目的もなく、幸せというものを感じることができなかった。


2:プロタゴラス
2019/02/04(月) 22:36:09.11 ID:LXX+6+Jq0
「そう落ち込むことはありません。幸せに感じれないのは、心が病にかかっているからです」

僕は医者のその言葉を、ただ黙って聞いていた。

「……ですが、この病には今、真っ当な治療法が確立されていません。となると、やはり対処療法ということになります」
以下略 AAS



3:プロタゴラス
2019/02/04(月) 22:41:28.00 ID:LXX+6+Jq0
半年



馬鹿らしい、と思った。実に馬鹿らしい。
以下略 AAS



4:プロタゴラス
2019/02/04(月) 22:48:51.83 ID:LXX+6+Jq0
支払いを終えたら、まっすぐ、僕は学校へと向かった。到着するまでには、僕がこの病気にかかったことがすぐに知れ渡るだろう。

不幸病は、実に恐ろしい病気だ。
人の心が、うまく物事を整理できなくなって、そしてある日、それが突然自らへの攻撃へ変貌する。幸せを認識できなくなり、覆い隠せないほどの絶望感とともに、膨らむ。そして、必ず自殺をする。

以下略 AAS



5:プロタゴラス
2019/02/04(月) 22:53:19.37 ID:LXX+6+Jq0
社会は、仮初めの幸せに染まった。
無論、犯罪者の取り締まりが強化されたことも大きい。しかし何より、不幸になった人間たちを「幸福」にして社会復帰させることで、全てはうまくいっているように見えていたのである。

誰もが幸せだと感じ、幸せであることを望む世界。理想郷が実現した、とまで言われるようになっていた。

以下略 AAS



6:プロタゴラス
2019/02/04(月) 23:01:40.89 ID:LXX+6+Jq0
玄関で立ち止まり、時計を見た。12時を少し過ぎていた。インターフォン越しに、学校に到着したことを告げる。

「2-8 北見 誠治。今着きました」

扉がカチリ、と音を立ててゆっくりと開く。靴を脱ぎ、校舎の中へ入る。下駄箱の中は相変わらず汚い。他の人のところは綺麗だが、僕には、自分の靴箱だけが汚く見えた。不幸病の典型的な疾患の一つだ。上履きを履き、教室へと向かう。
以下略 AAS



7:プロタゴラス
2019/02/04(月) 23:11:10.05 ID:LXX+6+Jq0
それからの話は、割愛しよう。機会があればまた書こう。僕の日常は、たしかに「不幸病」という言葉によって全て説明がつくようになったが、それ以外に面白いことは何もなかった。ただ、病気になって、死が近づいてくる、実感のないカウントダウンだった。


一ヶ月も経つと、夏休み一週間前のソワソワとした空気が学校を覆っている。

以下略 AAS



8:プロタゴラス
2019/02/04(月) 23:27:04.24 ID:LXX+6+Jq0
都市部から車で3時間ほどの場所だ。
大きな湖と、矢野山という、標高1000メートルくらいの山に囲まれた、村落。

そこが僕の生まれ故郷だった。

以下略 AAS



9:プロタゴラス
2019/02/04(月) 23:34:36.00 ID:LXX+6+Jq0
行くあてが無いわけでは無かった。
小学校時代の知り合いの家に挨拶に行くことだって考えた。だが、こんな暑い中、長い距離歩く気にはならない。最終的に、家から徒歩20分くらいの場所にある図書館で時間を潰すことにした。日はまだまだ高く、幸いにも、それだけの時間を潰せるだけの本がそこにあったからだ。

小さい時から、あまり外の世界に関心を持たない性格だった。それこそ、「不幸病」なんて言葉ができる前なら、あまり取りざたされないような、その辺にある石ころみたいな人間だった。なにかをしたり、されたりすることに関心がなかった。当然、そんな性格の人間にまともな友達なんてできるはずもなかった。

以下略 AAS



10:プロタゴラス
2019/02/04(月) 23:44:05.41 ID:LXX+6+Jq0
どれくらい経っただろう。天窓から差していた日の光はすっかり沈んでいた。結局、2冊目の7割くらいのところで、僕は切り上げた。

本を元の場所に返す作業は、我ながらすっかり慣れていた。昔、ここの司書になりたいと思っていた時があるくらいだ。どの棚にどの本があるのか、大体の検討はついていた。

これを繰り返す日々。
以下略 AAS



11:プロタゴラス
2019/02/04(月) 23:46:47.38 ID:LXX+6+Jq0
誰の声だろう、と頭の中を巡らせるが心当たりがない。その声は女性らしかったのだが、僕が女性と話すということはほとんど無かったからだった。逆にいうと、話したことのある女子たちのどの声とも、その声は違って聞こえていたのである。

顔を見せたくなかったが、僕はとうとう諦めてそちらを振り返り、声の主を見た。

ワンピース姿の、本を抱えた一人の少女。首からフィルムカメラと思しきものをぶら下げている。
以下略 AAS



12:プロタゴラス
2019/02/05(火) 22:36:22.53 ID:KZmdLK6f0
図書館近くの公園に、僕らは腰を下ろした。山の向こうに沈んだ夕日が、そのシルエットを湖に照らしているのがよくわかる。移動販売の屋台でアイスを買い、その場に腰を下ろして頬張った。

「帰ってくるなら、教えてくれればよかったのに」

どうやって教えるというのだろう。僕はここから引っ越す時、誰とも連絡先を交換しなかった。小学校時代の連絡網を見ればわかったのだろうが、それをして、もし誰も出なかったり、あるいはとっくに引越しをしていて、全くの赤の他人がそれに出た時のことを想像すると、僕は怖くなってできなかったのだ。
以下略 AAS



13:プロタゴラス
2019/02/05(火) 22:41:17.39 ID:KZmdLK6f0
「急に帰ることになったから、時間がなかったんだ」
「そっか……まぁ、しょうがないよね。みんな忙しいし」

小さな嘘をついたの僕をあざ笑うかのように、夏の大三角がゆっくりと姿を現した。

以下略 AAS



14:プロタゴラス
2019/02/05(火) 22:42:45.28 ID:KZmdLK6f0
生まれつき運動が苦手だった僕は、小学校の遠足でここに来て遊んだ時も、滑り台の下にある小さなトンネルのような場所で、本を読んでいた。
その時によく話しかけてきたのが、由美だ。彼女は僕と似たような境遇というわけではなかったが、本が好きだという点で似ていた。

当たり前の幸せを疑ったり、空の色を疑ってみたりすることが好きだという、特殊な人種の僕に、まさか似た友達がいたなんて信じられなかった。

以下略 AAS



15:プロタゴラス
2019/02/05(火) 22:54:18.76 ID:KZmdLK6f0
「忘れてはいないよ。でも、今の今までは忘れていたみたいだ」

嘘も真実もくちにしないように、僕は濁すような言葉を選んでそういった。

「……変わんないね」
以下略 AAS



16:プロタゴラス
2019/02/05(火) 23:00:51.31 ID:KZmdLK6f0

「被写体とカメラマンって、時に恋仲になることもあるでしょ?」

彼女がよくいっていたセリフだ。

以下略 AAS



17:プロタゴラス
2019/02/05(火) 23:01:22.61 ID:KZmdLK6f0
彼女は突然立ち上がり、僕の腰の上に、向かい合うようにしてまたがった。誇示するように腰を動かし、いやでも意識がそこに集中する。体は倒れ、手の先に先ほどまで握っていたアイスは、地面にべとりと落ちていた。

白いワンピースの下に、わずかに下着のラインが見える。吐息はとても近い。麦わら帽子を首から下げながら、由美は僕を、もたれるように押し倒した。

「興奮してるの?」
以下略 AAS



18:プロタゴラス
2019/02/05(火) 23:02:15.08 ID:KZmdLK6f0

「このまま食べちゃおうかな」
汗が、暗くなったことで自動的についた街灯の光に照らされ、キラリと輝いた。

「もししちゃったら、どうなるのかな?」
以下略 AAS



19:プロタゴラス
2019/02/05(火) 23:08:10.96 ID:KZmdLK6f0
興味がない。

その言葉で、彼女はふと動くのをやめた。馬乗りになったまま、僕の顔の写真を一枚撮った。僕は地面に落ちたアイスをじっと眺めていた。由美がようやく立ち上がると、溜まっていた血が腰のあたりから一気に流れ出すのがわかった。

「ごめんね、変なことして」
以下略 AAS



20:プロタゴラス
2019/02/05(火) 23:09:05.21 ID:KZmdLK6f0
「誠治、もしかして、死ぬの?」

死ぬの? というその質問の真意を掴み取るまでに、僕はかなりの時間を要した。唐突で、自然な口調。悪意も善意もない。無機なプラスチックみたいなワードだけが、空虚に浮かんでいる。

「何でそんなことを?」
以下略 AAS



21:プロタゴラス
2019/02/05(火) 23:13:28.42 ID:KZmdLK6f0
ガバあるので訂正。

由美は幼馴染であり、小学校からのクラスメイト。


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