39: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2020/05/04(月) 17:52:05.31 ID:p0TmPlc30
蒸し暑い日の夕方、一人の女性が路地を歩く。
彼女の名前は「一ノ瀬志希」。そう呼ばれていた。
つまらなそうな顔で曇天を見上げてスンスンと鼻を鳴らし、
雨の匂いを感じた彼女はどこかの喫茶店にでも避難しようと考えていた。
ポケットに手を突っ込み、ぼーっと歩いていた時。
40: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2020/05/04(月) 17:52:51.08 ID:p0TmPlc30
「いい子だね〜」
フレデリカは無表情で髪を拭く志希を見る。
「名前はなんていうの?」
41: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2020/05/04(月) 17:53:36.15 ID:p0TmPlc30
運ばれてきたパンケーキにナイフを入れる。
歪な形にカットしたその一片を口の中に入れる。
それまで面白くなさそうに仏頂面を浮かべていた志希だったが、
そのパンケーキの美味しさに思わず顔を綻ばせた。
42: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2020/05/04(月) 17:54:28.06 ID:p0TmPlc30
「レディー、エーン、キャーット!」
どこに用意してあったのか、小さな照明がフレデリカを照らす。
志希に向かって笑いかけると、マイクを持って口上を述べた。
43: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2020/05/04(月) 17:55:47.54 ID:p0TmPlc30
「ぐっ・・・うっ、はっ・・・あ」
志希は壁によりかかり、歯を食いしばる。
脚を震わせ、噴き出す血を押さえながら立ち上がった。
男は驚き目を見開く。
44: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2020/05/04(月) 17:56:47.90 ID:p0TmPlc30
「だけど、本来存在しないはずのあたしが生まれて、世界が動いた」
「如何にしてこの世を去ったのか、分からなくなったんだ」
志希は真っ赤に染まった掌を見つめる。
45: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2020/05/04(月) 17:58:02.68 ID:p0TmPlc30
海で遊び疲れた二人がチェックインしたビジネスホテル。
体調を崩したフレデリカは、ベッドの中で悪夢を見ていた。
「はぁっはぁっはぁっ・・・」
46: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2020/05/04(月) 17:58:40.55 ID:p0TmPlc30
「シキちゃんさ、昔の話してくれたよね」
「したねー。作り話だけど」
「そう、作り話の昔の話」
47: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2020/05/04(月) 17:59:20.66 ID:p0TmPlc30
「アタシね、最近ずっと同じ夢を見るんだ」
「夢の中で、夜の廃墟で一人きり」
「でも夜は怖くないの。怖いのは…」
48: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2020/05/04(月) 18:00:02.77 ID:p0TmPlc30
ペットボトルの蓋を震える手で弄ると、静かに口を開く。
「今見た夢なんだけどね」
そう言うと彼女はハッとして首を振る。
49: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2020/05/04(月) 18:01:12.01 ID:p0TmPlc30
雨の降る音が静かな部屋に響く。
志希は目を瞑り少し考える。
「ん〜」
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