水本ゆかり「人形の檻」【ゆかさえ】
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136: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:51:39.67 ID:iX/HvtXE0

……あれから、紗枝ちゃんとはまともに会っていない。

最初のうちは通知が鳴り止まないほどひっきりなしに連絡してきた彼女も、年が明けた頃からようやく落ち着いてきて、お正月に「会いたい」とメールが来たのを最後に、その後のやりとりはなかった。

以下略 AAS



137: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:52:19.63 ID:iX/HvtXE0

そうして二ヶ月近く経って、少しずつ私の生活から紗枝ちゃんの存在が薄れてきた今でも、私の頭には彼女との幸福だった思い出がこびりついて離れなかった。

あの頃に戻れたら、と泣いて後悔した夜もある。
別れの傷痕に苦しんでいたのは彼女だけではない。
以下略 AAS



138: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:53:06.14 ID:iX/HvtXE0

この日の夜、お母さまから電話がかかってきた。
今週末、私の演奏会を見るためにわざわざ青森から来てくださることになっていて、その確認の連絡だった。

「……うん。じゃあその時間に、駅に迎えに行くね。一応、電話もしてね……ふふっ、迷子になりそうだなんて、前も一度いらしたことあったじゃない。……え? 私が? そんなことあるかなあ。だって、あの駅は何回も使ったことあるよ……ああ、地下鉄……そういえば、そんなことあったかも。……うん、……はい。じゃあ、また……はい。おやすみなさい」
以下略 AAS



139: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:53:33.50 ID:iX/HvtXE0

彼女もびくりと身体を強張らせて立ち止まった。

そして一瞬、呆けたように私を見上げると、すぐにきまり悪そうに目を背け、そのまま黙ってしまった。

以下略 AAS



140: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:54:13.90 ID:iX/HvtXE0

――紗枝ちゃんに避けられている。

私はすぐに理解して、さあっと血の気が引いた。

以下略 AAS



141: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:55:27.84 ID:iX/HvtXE0

脱衣所で見る彼女の裸は、やはり以前よりもずっと痩せこけているように思われた。
彼女は、私なんぞまるで無視してそのまま浴室へ入って行くと、視線を遮るようにぴしゃりと戸を閉めてしまった。
それから私もようやく服を脱ぎ始めて、そしてふいに自分の惨めさに涙を零しかけた。

以下略 AAS



142: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:56:29.38 ID:iX/HvtXE0

私は濡れた身体のまま立ち尽くし、選択と決断を迫られていた。

もしかしたら再び大きな過ちを犯すことになるかもしれないこの愚かな希望が、熱湯と湯気と彼女の美しい裸姿に、そしてそこに懐かしく疼きだした情とによって、私を最後の審判にかけようとしている……。

以下略 AAS



143: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:57:11.07 ID:iX/HvtXE0

すると突然、私は彼女に伝えるべきことがあるはずだと思い出した。

その閃きは、後に振り返ってみれば、彼女をただ困惑させただけの、私の自己満足に過ぎないものだった。

以下略 AAS



144: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:58:34.91 ID:iX/HvtXE0

言葉とは裏腹に、その瞳に嫌悪の感情はなかった。
彼女はただ純粋な困惑から、私にそんな疑問を投げかけたらしかった。
私の真意を読み解こうとして、彼女はおそらく自分でも意識していないくらいの真剣な目つきを私に注いでいた。

以下略 AAS



145: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:59:53.87 ID:iX/HvtXE0

やがて彼女は何も言わずに湯から上がった。

私はそこでようやく我に返り、彼女の背中に向けて言った。

以下略 AAS



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