水本ゆかり「人形の檻」【ゆかさえ】
��
↓ ��
1- ��
覧 ��
板 ��
20
166: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:06:59.41 ID:iX/HvtXE0
私たちは緩やかな敗北を喫していた。
十二月になり、次のライブの目途がまったく立っていないことが分かると、私もとうとう認めざるをえなくなった。
167: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:07:54.79 ID:iX/HvtXE0
……後になって振り返れば、この時の私は、求めていたものを寸でのところで取り逃したと思い込み、自暴自棄な心に縛られていただけだったのかもしれない。
目先の結果に捉われ、判断力を失った私が、もしこの時、本当に一歩を踏み出していたらと思うと、ぞっとする。
168: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:09:53.54 ID:iX/HvtXE0
この、出来すぎた偶然のようなチャンスを、果たして幸運の一言で片付けてしまっていいのだろうか?
私は驚きと喜び、それからこの数週間悩み続けた切実な苦しみを思って、つい、プロデューサーさんの前でぽろぽろと涙を流してしまった。
プロデューサーさんはそんな私を慰めながら、また彼自身、報われたことの感動から涙を堪えている様子だった。
169: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:10:31.57 ID:iX/HvtXE0
……しかし一方で私は冷静だった。
私と紗枝ちゃんの関係はすでに終わったものだと、もはやかつてのように純粋に愛し合える日は来ないのだということを、頭でははっきりと理解していた。
170: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:11:27.92 ID:iX/HvtXE0
十七
夜、九時ごろだった。
171: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:12:23.86 ID:iX/HvtXE0
私は困惑していた。
それこそ夢を見ているような気分だった。
こんなにも唐突に、何の前触れもなくやってきた彼女との再会をどう受け止めればいいか分からなかった。
172: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:13:28.34 ID:iX/HvtXE0
彼女はひどく弱っていた。
その長い黒髪は単に雨に濡れただけではない奇妙なべたつきがあった。
落ち窪んだような目元、よく見れば青ざめている唇、そしてこの高熱……羽織っているジャンパーを脱がすと、その下はシャツ一枚という薄着だった。
173: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:14:11.51 ID:iX/HvtXE0
紗枝ちゃんがふと目を覚ました。
まだ少し朦朧としているらしい濁った視線を宙に向けて、それからようやく、横にいる私を認識したようだった。
174: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:14:53.03 ID:iX/HvtXE0
しばらく経つと、彼女の顔色も少し良くなった。
私は体温計を彼女の腋に差しながら、このあと近くのコンビニまで買出しに行って来ようかしらなどと考えていた。
175: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:15:26.07 ID:iX/HvtXE0
熱を計ると、三十八度あった。
この時期だと、インフルエンザという可能性もある。
病院に行こう、そう言うと、彼女はふるふると首を振って、「保険証、持ってへん」と答えた。
192Res/249.13 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20