水本ゆかり「人形の檻」【ゆかさえ】
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60: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:15:01.24 ID:iX/HvtXE0
……彼女が息苦しそうに目をつぶり、涎の糸を引かせながら唇を離した。
そうしてそのまま崩れるように私の上に倒れかかる。
私たちは激しい運動をした後のように息を荒くして、しばらくベッドの上でぐったりと抱き合った。
61: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:15:42.96 ID:iX/HvtXE0
――その日、私は午前中にフルートのレッスンの予定が入っていた。
しかし結局、あのあと紗枝ちゃんと二人で寮のお風呂に入って、それがまた思いがけず長引いたので、寮を出発したのは予定より三〇分以上も遅れてからだった。
62: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:17:18.76 ID:iX/HvtXE0
「……はい。昨日、本番の撮影でした」
帰りがけ、先生と雑談した際に、例のドラマの話題になった。
63: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:18:11.18 ID:iX/HvtXE0
八
これらの夏の一切が私たちをすっかり新しい生き物へと変えてしまった。
64: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:19:07.18 ID:iX/HvtXE0
この頃、確かに私たちはお互いに夢中になっていた。
しかしそれは必ずしも自堕落で無制限な生活に落ち込んでいたことを意味しているのではない。
むしろ私たちは、この愛を成熟させるためにますます賢明であろうとした。
65: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:19:49.17 ID:iX/HvtXE0
ただひとつ、不安があったとすれば、私たちの秘密を誰かに悟られはしまいかということだった。
私たちは表向きにはいつもと変わらず、気の合う友人同士を演じていた。
あるいは勘の鋭い人ならもしかしたら、私たちの間に時折交わされるさりげない目配せや意識的な距離感から何らかの気配を感じ取ったかもしれない。
66: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:20:29.17 ID:iX/HvtXE0
そして実際、そのアンモラルな冒険はひどく私を興奮させた。
彼女はまるで手品か魔法のように私たちの秘密を神秘のベールに包み、どんなに危険な賭けに出ても肝心の証拠が人々の目に留まることはなかった。
67: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:21:02.73 ID:iX/HvtXE0
特に顕著だったのは、彼女が不機嫌になった時である。
仕事か、お稽古事か、あるいは勉強か、いずれにせよ何か嫌なことがあると彼女は静かに怒りを溜め込み、さりげなく私にその不満をぶつけることがあった。
それは愚痴で済む場合もあれば、時には暴力めいた行為となって襲い掛かる場合もあった。
68: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:21:56.53 ID:iX/HvtXE0
「うちが死んだら、ゆかりはんも一緒に死んでくれる?」
ある夜、ベッドの中で突然、紗枝ちゃんが言い出した。
蒸し暑い夜で、私たちは少しばかり汗をかいた後だった。
69: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:22:32.83 ID:iX/HvtXE0
が、どちらにせよ泣いている彼女に対して私がしてあげられることと言ったら、物言わぬ人形のようにじっとし、彼女の欲しがるままにこの肉体を差し出すくらいなものだった。
けれど私にはそれだけで十分だったのだ。
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