1:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga sage]
2012/02/08(水) 16:01:45.01 ID:A45p+aH70
魔法少女系、オリジナルの長編小説です。
残虐表現などを多く含みます。R18指定程度と思っていただければ幸いです。
第二章になります。
第一章(前スレ)はこちらです。
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2:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:04:08.16 ID:A45p+aH70
第一話、第二話を投稿させていただきますm(_ _)m
「黒い一族編」は第三話からなので、最初のうちは、前スレからお読みいただいたほうが楽しんでいただけるかもしれません。
救いのない悲しいお話、どうかお付き合いいただければ嬉しいです。
3:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:09:37.72 ID:A45p+aH70
1 サバルカンダ
風が舞う、澄んだ空気が広がる場所だった。
小高い丘。一本の巨大な木が、何処までも続く長い……広い芝生の上に立っている。
樹齢何千年だろうか。
4:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:10:42.37 ID:A45p+aH70
葉の隙間からこぼれる、金色の光。彩られて虹色に輝くそこで、彼女は自分の膝に頭を乗せて眠っている男性を見下ろした。
愛寡は、美しい女性だった。
年の頃は、十七、八頃。まさに今が盛りという、少し大人びた魅力を内包している。燃えるような赤褐色の髪。所々ウウェーブがかかったそれは、色と対照的に流れる清流をイメージさせるものだった。
ワンピースタイプの白い服の上からも分かるとおりに、彼女はかなり成熟した体型をしていた。童顔と相まって、アンバランスな魅力を孕んでいる。
長い髪は腰の辺りで一つにまとめられている。それは右側の顔面を口元まで覆い隠していた。
5:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:11:26.39 ID:A45p+aH70
しかし……。
彼女が孕む温かさは、少し離れた場所にいる愛寡にもはっきり分かっていた。
自分達がいる緑と青、そして色とりどりの美しい空間。それを球形に囲む一キロほどの周りは、真っ白な……雪と氷に覆われた世界だった。
温かい。
本当に。
6:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:12:00.51 ID:A45p+aH70
「何だ……こいつらも来てたのか」
「ええ」
囁くように言葉を交わし、愛寡は疲れたように笑ってみせた。
7:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:12:39.41 ID:A45p+aH70
いつもそうだ。
この人は、いつも無邪気な顔で。
私のことを認めてくれる。
ここにいてもいいよと、何もしないでも認めてくれる。
この人は。
8:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:13:36.03 ID:A45p+aH70
「何がだ?」
「いい、のです」
「……」
9:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:14:18.14 ID:A45p+aH70
――あなたはそう
――いつもそう
――笑って許してくれる
――怒らない。認めてくれる
――それが、どれだけ私を傷つけているか
10:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:14:47.50 ID:A45p+aH70
「さて……こいつらを起こさなきゃいけねぇな」
「え……?」
愛寡の顔から、笑顔が消えた。
11:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:15:20.77 ID:A45p+aH70
――この人は
――この人は
――それさえも許してくれないというの?
――その、ひとひらの慈悲さえくれないの?
――一体いつまで
12:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:15:54.23 ID:A45p+aH70
「待って……」
すがるように呟いて、愛寡は……立ちあがろうとした彼の首に手をかけた。
「……待って……」
13:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:16:24.23 ID:A45p+aH70
寝息が、聞こえる。
白青髪の少女と、黒髪の少女。
二人の姉は……愛寡と彼の会話にも起きる気配を見せなかった。
どれだけ長いこと、彼の首を絞めていただろうか。
どんなに絞めても。
14:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:17:00.21 ID:A45p+aH70
太陽が沈んで行き、そして空に満天の星がきらめき始める。どこまでも……何処までも続く電灯のように。漆黒の空間のどこまでも遠くに、ビーズ玉よりも小さな、小さな星達がきらめき始める。
愛寡は、彼の首を絞める手を緩めていなかった。もはや渾身と言ってもいいほど、全体重をかけて締め付けていた。
彼の唇や顔は土気色に変色し、目は閉じられ、既に息はない。
二人の姉は、ピクリとも動いていない。
いつの間にか寝息は聞こえなくなっていた。
15:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:18:38.54 ID:A45p+aH70
体中が冷え切り、指先が真紫になった頃。
やっと愛寡は彼から手を離した。
そしてうずたかく体に積もった雪を払おうともせず、吹雪の中で肩を落とした。
――どうして許してくれるの?
16:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:19:08.58 ID:A45p+aH70
カサリ、という音がして。物言わぬ死体と化した彼の口が動いた。殆どミイラ。骨と皮のその口から、握り拳大の、手の平のような足をした黒光りする背中を見せた昆虫が這い出してくる。
それは次から次へと……何処にそんなに隠れていたのかというくらい、雪崩のようにミイラ死体の口から溢れ出てきた。
それは、二人の姉の死体からも同様だった。
蟲……蟲。
黒い……おぞましいそれは、愛寡の足を噛み、腕を噛み。耳に足を突っ込み……口から体の中に入ろうと足を動かし。
17:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:19:39.91 ID:A45p+aH70
それは……地平線の果てまでどこまでも続く黒蟲の洪水だった。地面がどこまでも……どこまでもそのおぞましい昆虫に埋め尽くされている。
それが、まるで降りに放り込まれた餌に群がるように愛寡に向かって雪崩を為して押し寄せてきているのだ。
怖さも、何もなかった。
体の皮を蟲の鉤爪のような口で食い破られながら、愛寡はただ、ぼんやりと足元……先ほどまで首を絞めていた彼がいた場所に向けていた。蟲……蟲。どこまでも蠢くそれに覆い隠されて、もはや見えない。
18:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:20:17.79 ID:A45p+aH70
――どれだけ私を傷つけているかも知らず
――あなたは、その下で微笑んでいるの?
――あなたは、それでも私に
――ここにいろと言うのですか?
――どうして
19:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:22:01.20 ID:A45p+aH70
*
ぼんやりと、外を見ていた。
ああ……今日も一日が始まる。
今日も……始まってしまう。
20:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:22:45.68 ID:A45p+aH70
普通は横に広がるのが定石だ。つまり一つドームを建造して、そこの人口が飽和状態になれば別の場所にもう一つ建造する。
しかし……ここ、サバルカンダのドームは、その定石をとこなる建築法をしていた。つまり、横ではなく下……縦に伸びているのだ。
一階層が最も巨大で、その直径はゆうに五十キロは越える。そしてそのドームの下に、直径三十キロほどの二階層。
全体で五階層までがある。
ドームの中心にはバベルタワーと呼ばれる、三百メートル頂点に達するほどの長い、メインシャフトが存在していた。そこが全ての階層の統括機であり、空調管理などは全てタワーが行っている。
21:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:23:25.11 ID:A45p+aH70
木や芝生……花壇などがいたるところに設けられており、天井のスクリーンには暖かい光を投げ落とす人工太陽が投影されている。
この時代、植物はかなりの貴重物だ。それどころか、一つ育て方を間違えばあっさりとお釈迦になってしまう贅沢な嗜好品。
しかしそれが……このサバルカンダの最上階には、掃いて捨てるほど存在している。
愛寡はその光景を憂鬱に見つめながら、自室のドアがノックされたのを聞き、振り返った。
小ぢんまりとした部屋だった。
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