1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/03/12(火) 20:35:21.19 ID:fz9LGbgw0
『さようなら』
その時の私に出会うと、みんなそう言うの。
昔は、私は今よりずっとわがままだったのよ?
わがままって言うのは、自分の意見だけを押し通すってことなの。わかる?
自分は水瀬財閥の娘で、大事にされている…そういう事は、小さい頃から知ってた。
だから気に入らない事があれば、虎の威を借りて、何でもその場で押し通してた。
小さいころから、思ってた。
どうしてそんなことを言うんだろう、って、そう思った。
でも、わかった。ああ、どうしてだったのか…って。
私は、他の人とは確かに境遇が違う。
何も不自由なんてなく育ってきた。本当に、何も。
でも、そのとき私が抱えていた、他人には一生かかっても持ち得ない大量の自由は
少しだけ大人になって、全て不自由へと変化した。どうしてか、って?決まってるじゃない。
苦楽を乗り越えてきた人間と、楽しか選ばなかった人間がいて。
いずれ、苦も選ばなければならなくなったそのときに、どちらが強いのか。
…すぐにわかるわよね。
どちらが強いかなんて、一目瞭然…いいえ、比べるまでもない。
そして、私は自分の無力さを実感した。
私は何も持ってはいなかった…そこで、ようやくわかった。
『自分の』部屋、『自分の』服、『自分の』家、何もかも。
それらは全て正しく言うなら、『自分の家の親から貸し与えられた』ものだった、って。
それに気付いたとき、私は泣いた。涙の一滴すら、流れなくなってしまうくらいに。
だって、そうでしょう?全てを得た気になっていたのに、何も持っていなかったのだから。
自分はなんて無様な人間なのだろう、そう思って、新堂の胸で泣いた。
私は思ったことを全て話して、恥じて、誓った。何もかも、自分の善悪を全て1つにして吐き出した。
『きっといい子になる、時間はかかるかもしれない…けれど、きっと…だから、見ていてほしい』って。
新堂は複雑そうに、目元に皺を寄せながら…少しだけ、涙を流しながら言った。
私は驚いた。どうして、そんな顔をするのだろう、って。
そして…彼も、こう言ったの。
『さようなら』って。
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2013/03/12(火) 20:36:44.63 ID:fz9LGbgw0
その日から、新堂は言葉通り私の前に姿を見せなくなった。
これも自分が招いたことなのだから、しょうがないわよね。
でも、そのおかげで私は自分を知ることができた。
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2013/03/12(火) 20:37:24.93 ID:fz9LGbgw0
私には兄がいる…ふたり。普段はお兄さま、って呼んでるの。
パパとママみたいに、すごく頭がよくて、格好良くて、尊敬してるから。
『一族の最高傑作』だなんて言われてるのよ?すごいわよね。私には、ただそういうしか出来ない。
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2013/03/12(火) 20:37:44.12 ID:ehIHw6ux0
期待の支援
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2013/03/12(火) 20:38:26.24 ID:fz9LGbgw0
ああ、話が逸れちゃった。
続けるけど、私はお兄さまたちを参考にすることにした。
素晴らしい才能を持っていながら、一切それを鼻にかけたりしないの。
真面目なだけじゃなく、遊ぶ事も知ってる。見識がとっても広いの。
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2013/03/12(火) 20:38:58.79 ID:fz9LGbgw0
お兄さまと同じ立場になるという事が分からなかった。
お兄さまと私を比較して、自分のあらさがしをして落ち込む、ただそれだけだった。
先が見えないので、改めて自分の置かれた立場というものを再確認してみることにした。
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2013/03/12(火) 20:39:44.28 ID:fz9LGbgw0
親っていうのは、子供が出来たら嬉しいものなのよ。
中にはいい顔をしない人も居る…けれど、私の所は違った。
私が生まれて、ある程度物心がついた時点から…私は光で眩しい社交会へと足を踏み入れていたらしい。
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2013/03/12(火) 20:40:33.70 ID:fz9LGbgw0
歳を重ねるごとに増える社交界。そのときもまだお兄さまの立場への足がかりすら見えなかった。
そして、また繰り返すの。『はい、もちろん、覚えています』
私のしていることは、機械とやっていることと代わりはなかった。
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2013/03/12(火) 20:41:05.44 ID:fz9LGbgw0
私の家では、あまり娯楽があるわけではなかった。
私の娯楽…つまり、楽しみは…買い物をするくらいだったかしら。
欲しいと言えば買ってもらえたし、買ってこさせた。
でも、小さな私が思いつく欲しいものは、すぐに尽きた。
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2013/03/12(火) 20:43:42.62 ID:fz9LGbgw0
話を戻すけれど、猫そのものになった私は、まさに気分のままに社交会を出た。
パパはいつまでも話の途中だったし、使用人もせわしなく働いていた。
そこまでずっと猫をかぶって『水瀬財閥のいい娘』を演じてきた私を心配するものはいなかった。
11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2013/03/12(火) 20:45:26.33 ID:fz9LGbgw0
そして店員さんがやってきた。歳をとっているけれど、笑顔のきれいな品のあるおばあさんだった。
ちょっとふっくらしていて、着ている花がらのエプロンは、とってもよく似合っていた。
『ご注文は、お決まりですか』
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2013/03/12(火) 20:46:26.82 ID:fz9LGbgw0
『お待たせいたしました、サンドイッチと、オレンジジュースです』
差し出されたサンドイッチには、本来の量ではないだろう具がたっぷりとつまっていた。
おばあさんは大きなくりくりとした目を少しだけ細めて、こう言った。
13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2013/03/12(火) 20:47:39.94 ID:fz9LGbgw0
『ねえ、お嬢さん。お嬢さんは、どこから来たの』
『ああ…ごめんなさい。とっても綺麗なお洋服を着ているから、つい、気になって』
きっと内心では心配して言ってくださったのでしょう。こんな夜に。
14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2013/03/12(火) 20:48:23.01 ID:fz9LGbgw0
目を奪われていた事に気付いた。
たくさんの人の前で歌って、人を笑顔にして、人々に支持されて。
自分の存在を…認められて、いたのだから。
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2013/03/12(火) 20:49:01.48 ID:fz9LGbgw0
喫茶店のドアベルが鳴る。お嬢様、お嬢様。そう呼ぶ使用人の声が響く。
帰りましょう、旦那様がお待ちです。旦那様が、旦那様が。
お帰りにならないのであれば、多少強引にでも、と。黒服はそう言った。
その中に新堂は含まれていなかった。当たり前だけれど、少し寂しかった。
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2013/03/12(火) 20:49:29.71 ID:fz9LGbgw0
その後の事はよく覚えていないの。
家に帰ったら、今までにないくらい、優しく迎え入れられた。
奥の広間に通じる手前の廊下を通って、自分の部屋に戻るように使用人に促された。
17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2013/03/12(火) 20:49:57.16 ID:fz9LGbgw0
ベッドに横になり、今日の事を思い出した。
勝手に社交会を抜けだしたこと、街に出て、たくさんの輝きを知ったこと。
おばあさんと出会って、自分の答えを見つけたこと。
とっても甘酸っぱい、オレンジジュースを飲んだこと。
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2013/03/12(火) 20:50:39.96 ID:fz9LGbgw0
アイドルに目を奪われて、羨んで、憧れて。
私はアイドルになって、自分を認めさせることに決めた。
アイドルになるためにはどうすればいいのか。
19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2013/03/12(火) 20:52:19.87 ID:fz9LGbgw0
まだ、シェフはいるようだった。
食器や調味料、食材のしたごしらえなどをしていたらしい。
私に気付いて、声をかけてきた。
20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2013/03/12(火) 20:54:02.84 ID:fz9LGbgw0
私はここまでの事で気付いた。
私の今までの行動も、きちんと相手に素直になれば、気持ちが通じることを。
あれこれアイドルになるために画策していた事が、急に馬鹿らしくなったの。
21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/03/12(火) 20:55:26.92 ID:h0+z+F2to
最初のアイマスが世に出た頃はネットもまだまだ未発達なとこ多かったんだよなあ・・・
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