1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/24(木) 14:07:38.08 ID:9uLTT2Jd0
【序】
いつもの店の、いつもの席に座り、いつものヤツを頼む。
いつもと違うのは、アイドル諸君らと一緒に来たこと。
そして、珍しく私が誘われる側だったということだ。
「余計な連中まで呼んだ覚えは無いんだがな」
キミはそう言って悪態をつくが、彼らを仲間外れにするわけにもいかない。
「せっかくお互いにフェスをやり終えたのだから、共に労ってやりたいじゃあないか」
そう言うと、キミは鼻を鳴らし、黙ってグラスを傾ける。
吉澤君は、その様子を横目で見ると、ふっと笑い、煙草に火をつけた。
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2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 14:09:23.13 ID:9uLTT2Jd0
ウチのアイドル達だけでなく、律子君らプロデューサーの二人、そして――。
ジュピターと言ったかな、彼らも少し緊張しているようだった。
天海君達と一緒のテーブルについたものの、しきりに店内をそわそわと見渡している。
程無くして、マスターが私のグラスを差し出してくれた。
3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/07/24(木) 14:12:05.19 ID:UKIljuJ80
期待!
4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 14:12:07.23 ID:9uLTT2Jd0
我慢比べ――と、キミも思っていたのかは分からない。
お互いに、2杯目のグラスを少し進めたところで、ようやくキミは切り出してくれた。
5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 14:13:51.62 ID:9uLTT2Jd0
【1】
資料を一通り揃え、時計に目をやると、もう10時をまわっている。
本当は9時半くらいには事務所を出たかったのだが、少し準備に手間取ってしまった。
6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 14:15:46.02 ID:9uLTT2Jd0
僕と高木の役割分担は、至って明瞭だった。
僕がアイドルの候補となる人材をスカウトし、高木が育てて売り込む。
僕の方が、良い人材を見つける能力に秀でる一方、高木は人を育てるのが得意だった。
仕事やライブの時は、僕が事前に戦略・企画立案を行い、高木が陣頭指揮を執る。
7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 14:17:35.86 ID:9uLTT2Jd0
「う〜ん――あの、とても光栄なお話であるのは良く分かるのですが――」
今日スカウトする一人目の子は、見た目とは裏腹に結構身持ちの堅い子だった。
昨今のアイドルブームに乗っかろうと、抵抗無く食いつく子も多いというのに。
8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 14:19:32.57 ID:9uLTT2Jd0
「実は私、卒業後は父が経営する会社に勤めることが決まっていまして――」
「えっ、あ、そ――そうなんだ」
家のことを持ち出されると、さすがにキツイ。
高い身長、控えめだが美しいボディライン、ショートカット、キリっとした目鼻――。
9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 14:21:33.69 ID:9uLTT2Jd0
二人目の子は、先ほどの子とは違い、とても明るく元気な子だった。
「本当に、私をアイドルにしてくれるんですか!?」
おまけに、アイドルというものに強い憧れもあるようだ。
さすがは高校生。未来が眩しくて仕方がない年頃なのだろう。
10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 14:24:51.52 ID:9uLTT2Jd0
「おーい、アキコおめぇ何やってんだ?」
ふと、聞きなれない声がした方を見ると、制服姿の大男がすぐそばに立っていた。
この子のツレか――勝手な印象だが、総身に知恵が回りかね、と言ったところか。
11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 14:27:02.39 ID:9uLTT2Jd0
左頬がまだヒリヒリと痛む。
道端に放置された車のサイドガラスで少し確認したら、相当腫れていた。
今日は色々と散々な日だ。
思えばマフラーも忘れ、一人もスカウトできず、まして一人から平手打ちを喰らう――。
12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 14:29:02.84 ID:9uLTT2Jd0
ほんの少し緑がかったセミロングの髪。
右の目元にある泣きぼくろも、何だかセクシーだ。
それでいて、穏やかなで優しそうな印象を与える横顔。
13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 14:30:30.46 ID:9uLTT2Jd0
「あ、いや――」
馬鹿か僕は、何で声をかけたんだ。
この子にダンスをやらせる気か? 絶対無理だ、賭けてもいい。
14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 14:32:21.85 ID:9uLTT2Jd0
「へっ? あ、いや――」
一瞬、何を聞かれたのか理解できず、変な声が出てしまった。
マフラー――何でいきなりマフラーの話を?
15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 14:34:09.87 ID:9uLTT2Jd0
「お前らしくねぇなぁ」
翌朝、したくもない話をしてやったところ、案の定高木は呆れた様子だった。
「昨日クリーニングに出したっつったって、今日までに仕上がるはずねぇじゃん。
今日その子が来たらどう言い訳すんだよ」
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 14:36:14.62 ID:9uLTT2Jd0
「もし本っ当に、からっきし運動できないとかいう子だったら、俺も面倒見きれねぇぞ」
高木が一瞬、不安そうな顔を覗かせ、またいつものニヤケ面に戻った。
「半端モンのアイドル担ぎ上げたって、新風は巻き起こんねぇんだろ?」
17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 14:39:54.11 ID:9uLTT2Jd0
高木にコーヒーを淹れるよう指示し、彼女を応接室のソファーに座らせる。
彼女はよほど恐縮しているようで、小さい肩をさらに縮ませ、ガックリと俯いていた。
「カップのことは、気にする必要ないですよ。
大分年季が入っていたし、そろそろ買い替えようと思っていたんです」
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 14:41:44.01 ID:9uLTT2Jd0
「ところで、今日はコイツに貸したマフラーを返してもらいに来たのかな?」
高木が間抜けなトーンで話題を振った。
「お、おい高木――」
「いやねー、まだクリーニング終わってないんだよね。ごめんねー。
19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 14:43:38.04 ID:9uLTT2Jd0
「いえ――大丈夫です。おかげで寒さに凍えずにすみました」
僕は、何とか平静を装い、彼女に返事をした。
高木は、その横で必死に笑いを堪えている。
「よ、良かったぁ」
20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 14:46:25.27 ID:9uLTT2Jd0
右の人差し指を頬に寄せ、少し考えて彼女は答えた。
「すごいなぁって、テレビを見て思ったりします」
「運動や、音楽に関する経験は、何かありますか?」
「運動、は全然ダメです。
21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/07/24(木) 14:49:14.35 ID:9uLTT2Jd0
応接室のソファーに戻り、彼女に話を切り出す。
「音無さん――アイドルに、なってみたいと思いませんか?」
えっ――彼女の口から小さな声が漏れ、しばらく硬直した。
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