過去ログ - 律子「待ちくたびれたプロデューサーへ」
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名無しNIPPER
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2015/06/23(火) 02:02:09.30 ID:O6N65gcso
1
私――秋月律子の活動停止が決まった。
ずいぶん、唐突な話だと思った。私だって、死ぬまでアイドルを続けるつもりはなかったし、
いつかは終わりが来ると分かっていたけれど。
「悪かったよ、ろくすっぽ相談もせずに」
と、プロデューサーは頬をかいた。
「……少しくらい話してくれても、よかったんじゃない?」
「ごめん、悪かった」
プロデューサーは、そう繰り返した。
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2
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名無しNIPPER
[sage saga]
2015/06/23(火) 02:02:49.84 ID:O6N65gcso
一年余り続けてきたアイドルとしての自分に、区切りがつく。
あっけない終わりに、私は動揺できなかった。
元より、自分からアイドルを志望したわけでなく、周りと比べても資質が劣っていることは自覚していた。
年貢の納め時というのか、早い段階での活動停止も薄々は予感していたし、却ってよくやってきたものだと思う。
以下略
3
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名無しNIPPER
[sage saga]
2015/06/23(火) 02:03:15.74 ID:O6N65gcso
「今のままで居ても、これ以上の成功は……」
「あ、いや、私も限界は見えた気がする。大丈夫、ちょっとびっくりしただけだから」
私は慌ててプロデューサーの苦そうな言葉を遮った。
以下略
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:
名無しNIPPER
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2015/06/23(火) 02:03:42.15 ID:O6N65gcso
二人でラストコンサートについて話しているうち、
活動停止という事実が私から遠ざかっているような気がした。
活動停止を告げられた時刻が、すでに一時間も流されたように。
けれど、事実は遠くなるどころか、近くへ迫っているのに。変な違和感があった。
5
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2015/06/23(火) 02:04:39.31 ID:O6N65gcso
打ち合わせを終えたあと、私はいつものように雑務を手伝ってから、プロデューサーより早く事務所を出た。
空模様は無地の赤一色で、赤信号の鉄枠が黄色い人影を透けた腹に押し込めていた。
ポケットに手を入れ、携帯電話を弄くる。そのメモリには空想の部品が一つ、例えば海底に落ちた金貨みたいな。
自分がアイドルを引退したあと、新しいプロダクションを立ち上げる。
以下略
6
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名無しNIPPER
[sage saga]
2015/06/23(火) 02:05:06.95 ID:O6N65gcso
2
レッスンが終わったあと、プロデューサーは必ず私を迎えに来る。
今日もスタジオを出てすぐのところへ車をつけていた。
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7
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2015/06/23(火) 02:05:45.26 ID:O6N65gcso
「シートベルトしろよ」
プロデューサーは言いつつ、サイドブレーキを下ろした。
シートベルトをかちりと身体に巻きつける。車が動き出して、それから、やっと目をつむった。
以下略
8
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2015/06/23(火) 02:06:21.83 ID:O6N65gcso
「疲れたか、律子」
声にまぶたを上げて、運転席の方へ目を向ける。
プロデューサーはカーステレオのボリュームを絞っているところだった。
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9
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2015/06/23(火) 02:06:52.92 ID:O6N65gcso
私が車を降りる頃には、とっくに歌は終わっていた。
プロデューサーは、ゆっくり休めよ、と言い残して車をUターンさせた。
きっと、コンサートの準備を進めるんだろう。
人には休めと言っておいて、自分は頑張って――それは仕事だから?
以下略
10
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2015/06/23(火) 02:07:25.87 ID:O6N65gcso
3
朝から雨が続いていた。
アスファルトに灰色の根を伸ばすような空はいかにも憂鬱だったけれど、
レッスンへ集中できない理由とするには弱々しい。
以下略
11
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2015/06/23(火) 02:07:51.82 ID:O6N65gcso
最近、ずっとこんな調子だ。集中しようと必死になるほど、気持ちが離れていく。
結局、今日のレッスンもどこか浮いたような感覚をこそぎ落とせずに終わった。
着替えを済ませてから、荷物と傘を取ってスタジオを出ると、プロデューサーが待っていた。
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12
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2015/06/23(火) 02:08:19.13 ID:O6N65gcso
「あのぅ、プロデューサー。今日は私、一人で帰ります」
「どっか寄って行くのか?」
「まあ……、そんなところ。せっかく迎えに来てもらって、申し訳ないけど」
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13
:
名無しNIPPER
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2015/06/23(火) 02:09:00.01 ID:O6N65gcso
私は水辺の道を、よたよたと歩いて行く。
ふと、今日が私の誕生日だったと気づいた。私は十九歳になったらしい。
「また、忘れたのね」
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14
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2015/06/23(火) 02:09:49.57 ID:O6N65gcso
4
「そういえば、この間、私の誕生日だったんですよ」
プロデューサーとの軽い打ち合わせを終えてから、私は不意にイジワルをしてみたくなった。
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15
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2015/06/23(火) 02:10:29.76 ID:O6N65gcso
わざわざ、気を使わなくてもいい――心からそう思っていたら、口に出すものか。
本当は気を使ってほしい、贅沢を言えば忘れないでいてほしかった。
私のファンや、以前に仕事をした人、学生時代の友だち、家族――色んな人が私の誕生日を祝ってくれた。
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16
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2015/06/23(火) 02:10:56.29 ID:O6N65gcso
「私、なんだか、おかしな勘違いをしちゃったな」
ほろ苦さにもう一度笑う気力はなく、今日まだ途切れない雨を傘で断つ。
踏みつけた水たまりは思ったよりも柔らかく、スニーカーの布地に染みる冷たい感覚が足を引っ張った。
以下略
17
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名無しNIPPER
[sage saga]
2015/06/23(火) 02:11:34.76 ID:O6N65gcso
5
ステージ衣装を着ると、まさに身が引き締まる。
身体のラインを綺麗に見せるために、少しタイトに作ってあるせいかもしれない。
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18
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2015/06/23(火) 02:12:01.46 ID:O6N65gcso
衣装合わせにはたっぷり時間をとるのがプロデューサーのやり方だった。
スタジオで実際に衣装を着て、パフォーマンスに支障がないか確かめる。
衣装の中には以前に使ったものもあって、なんだか懐かしい気持ちになる。
ふと、プロデューサーは口を開いた。
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19
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2015/06/23(火) 02:12:42.53 ID:O6N65gcso
ラストコンサートは目前に迫っていた。準備の方もいよいよ峠を越えたらしい。
プロデューサーは、やっと寝る時間ができたと冗談めかして笑っていた。
私はと言えば、まだどこか信じられない気がしていた。
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20
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2015/06/23(火) 02:13:12.86 ID:O6N65gcso
6
リハーサルではまず会場の大きさに圧倒されたけれど、観客が入り始めると、また違う種類の緊張が身体の中に意識される。
私の身長くらいありそうなスピーカーが、開演までの間を埋めるようにBGMを流している。
以下略
21
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2015/06/23(火) 02:13:39.60 ID:O6N65gcso
開演十分前を知らせるアナウンスが会場へ放送されると、熱せられたように観客の声が波立った。
嫌でも、身体に力が入る。
「リラックスしろ」
以下略
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