1:名無しNIPPER[saga]
2015/10/28(水) 00:59:37.65 ID:iHsws6qc0
提督の死体が執務室に横たわっている。頭から血が流れ出したことによる失血死。うつぶせた死体の傍らには角を血で赤く汚した「ドッキリ成功!」と赤文字で記されたプラカードが投げやりに転がっていた。
誰が見てもその死の原因は「ドッキリ」にあることは明白であった。提督は「ドッキリ」により死んだのだった。
猩々緋の絨毯を黒く染めた死体は、書類がきちんとまとめられた書斎机の正面でいかにも死体的に両手を上げて突っ伏し指先を力なく丸めていた。花火を見るため夏に改装した大窓は縦滑り式に少しだけ開けられており、そこからふかまった秋の冷たい朝風が室内のフラワーアレンジメントを幽かに揺らしている。朝日が水平線から線的に延びて波頭によって破片のように散らされていた。
整然と日常的秩序を伴う部屋は提督の死を演出するにはふさわしくなかった。もしくは、日常的執務室を演出するには提督の死体という調度品はそぐわなかった。死体と現場は相互にどっちつかずと足を引っ張り合っている。
ダズル迷彩の艤装を扉にぶつけないよう注意しながら入室した榛名は困惑した。彼女の日常の始まり方には二種類あった。一つは執務室に提督がいる場合と、もう一つは執務室に提督がいない場合であり、前者なら提督の指示に従い執務を行い始め、一日が進行していく。
後者、つまり提督が不在の場合、日常の始まり方は謎だった。そこは榛名自身にも知るよしもない暗闇だった。事情はもしかしたら冬眠するクマやカエルにとって冬が存在しないように仮死によって己の時間を停止して再び己を生き返らす機会をうかがっているということかもしれなかった。
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2:名無しNIPPER[saga]
2015/10/28(水) 01:01:10.29 ID:iHsws6qc0
だから、榛名の主観性に基づくなら、日常の始まり方は二種類ではなく、提督が執務室にいる場合の一種類だけである。すなわち提督は毎日しっかり執務室に出頭しており、榛名にしてみればそんな誠実で真面目な提督にある種の尊敬の念を抱いたりしていたのだった。
いかなる時間に赴こうとも執務室の席で書類を整理している提督、いつ休息をとっているのか不思議に思わないでもないが、敬愛すべき優しい提督に指示され仕事を片付けていく、そんな日常こそ榛名の持つ唯一の日常であった。しかし、いまや榛名は第二の異なった日常的始まりに遭遇していた。
「執務室に提督がいた場合」とは、なるほど確かにいつも通りの日常的始まり方だ。しかし、それは厳密に言い直せば「執務室に提督が生きて存在している場合」であり、「執務室で提督が死体としてある場合」は榛名の始まり方からは逸脱していた。
3:名無しNIPPER[sage]
2015/10/28(水) 01:02:25.86 ID:3nF6KDUc0
ドッキリネタけっこうあるけどたまにはうみねこばりに本格的なグロ事件を演出したの見てみたいな
4:名無しNIPPER[saga]
2015/10/28(水) 01:03:30.40 ID:iHsws6qc0
提督のあたかも死体的な様子、傍に転がる「ドッキリ成功!」のプラカード。これはどのような命令を意味するのだろうか。やはり提督が残す言語的痕跡「ドッキリ」という語が重要に違いなかった。
「ドッキリ成功!」とはこの場合、提督のダイイングメッセージである、なぜなら、何らかの意図がなければ、わざわざ「ドッキリ」によって殺される道理はないからだ。提督が意図的に「ドッキリ」によって殺されることに成功したとするなら、「ドッキリ」の意味について考える必要がある。
榛名は「ドッキリ」の場面に遭遇したのは初めてだが、「ドッキリ」とは何かについて知識はあった。一般的にドッキリとは対象を非現実的特殊な状況に直面させて反応を見る悪戯と考えられている。
5:名無しNIPPER[sage]
2015/10/28(水) 01:04:54.57 ID:8aRhP2ymo
哲学の人か
6:名無しNIPPER[saga]
2015/10/28(水) 01:05:01.76 ID:iHsws6qc0
ドッキリには親しい間柄において関係を盛り上げる小さな悪戯的用法があるに違いなかった。この線で考えるならば、提督は榛名と「親しい関係」にあるということになる。榛名は感激した。提督がそのように考えていてくれるなんて。
「このドッキリは私たちの関係を深めるための手段なのですね」榛名は判断する。状況の意味が固定されると、そこを足がかりに榛名が今何をなすべきか自ずと明らかになった。
結婚。それ以外ありえなかった。
7:名無しNIPPER[saga]
2015/10/28(水) 01:07:18.20 ID:iHsws6qc0
榛名は書斎机の引き出しをダズル迷彩の艤装をバールのように用いてこじ開ける。ケッコンカッコカリの書類を取り出し、名前欄に「提督」と「榛名」と丁寧に綴る。印章が必要らしかったが、印鑑が見当たらないので、提督の親指を傷口に添えて血判させた。死人に意志はないので、榛名が全ての意志であった。
榛名は左手薬指にはめた指輪をうっとりと眺めた。婚約の証である指輪は榛名の方だけがつければ良い。鎮守府では重婚が認められていた。提督は何人も妾を持つことが許され、それが好ましいことだとさえされる一方で艦娘達は一途に操を立てなければならなかった。
提督と艦娘の関係は非対称的であり、それを「性的搾取」であると糾弾する社会運動もあったようだが、艦娘たる榛名にとっては提督と「常に一緒に」いるという日暮しであるのだから、「重婚は不誠実だ」と主張されても、己に関わる問題だという実感はありえなかった。
8:名無しNIPPER[sage]
2015/10/28(水) 01:07:43.43 ID:kQcYu6Rjo
パニックなのか、安定的に頭おかしいのか
9:名無しNIPPER[saga]
2015/10/28(水) 01:09:13.03 ID:iHsws6qc0
すなわち。提督は確かに既に死体であった。しかし、榛名が指輪をはめたことにより、法的事実世界において停止条件説的に死体である提督に対して遡及的に「榛名に愛の告白をする意志」が発生したのだと考えてよい。
死してなお中絶されることのない原液的な愛の関係に榛名は酔った。「双方の合意」なんぞに頼り、「死が二人を分かつまで」という宣誓で結ばれる軟弱な関係では決してない。榛名は今の私たちの関係こそ愛の最も理想的な形であると信じて疑わなかった。
提督との愛に陶酔する榛名はそのうち内心だけで処理しきることが出来ないほど己の情熱を大きくしてしまい、仕草に落ち着きのなさが現れる。それは良人に何か尽くしてやりたいという女的欲求を喚起させた。尽くすことによっていかんともしがたい愛の膨張を抑えようというわけだ。
10:名無しNIPPER[saga]
2015/10/28(水) 01:11:39.34 ID:iHsws6qc0
提督の表情が落ちてしまった。正確には提督の顔が落ちてしまった。目のあった場所は眼裂さえなくなり、鼻部分の隆起は真っ平らになってしまった。口に関しては最初から死人に口無しだったので気にする必要はない。
榛名は無貌となった提督を見て狼狽した。最近の掃除用品がここまで肉体の識別性を損なうものだとは考えていなかったのだ。指紋を薬品で焼き消すなんてことはドラマなどではそれなりに親しいシーンではあるが、顔ごと消すとなると。
確かに現状では顔無しは最も目立つ特徴であるかもしれないが、それは一時的なものに過ぎないのは明白である。クレンザーと激落ちくんで落ちる程度のものだ、人が考えるより顔なんてものは人間の同一性にとって案外どうでも良いものなのかもしれない。
11:名無しNIPPER[sage]
2015/10/28(水) 01:11:43.35 ID:ALrLFJIAO
激落ちくんに草
12:名無しNIPPER[saga]
2015/10/28(水) 01:13:35.39 ID:iHsws6qc0
女の服飾は委ねるように投げ出され受動的であるように運命づけられてきた。しかし、女にも能動性の獲得が期待されるようになり、女が自ら服を着脱するようになっても、服飾の構造に変化はなかった。精神が変わろうとも環境がそれに追いつくことがないというのはよく知られるところである。
瞬足と鈍足の二人三脚は互いに足を引っ張り合い、互いの利点である先進性も堅実性も食い合いもたつくのであるが、それに慣れてくると奇妙な技術が磨かれてくる。榛名の手つきはまさにそれであった。本来受動的な服を能動的に着るように慣らされた榛名にとって本来能動的な服を受動的なものとして脱がせることは造作もないことであった。
だから、榛名が提督の服を滑るように脱がしたからといって、それは時代的技術であるかもしれず、榛名に淫乱の気質があったり発情したりしたと考える必然はないはずだった。
13:名無しNIPPER[saga]
2015/10/28(水) 01:16:58.48 ID:iHsws6qc0
黒いオーバーニーブーツも脱ぎ捨て裸足になり、純真無垢な白い下着姿となると提督に添い寝するように布団の盲縞を波立たせた。提督の胸元をワイシャツ越しにしばらく撫で回すと、噛み付くように小さなボタンを一つ一つと一息もらしながら、ゆっくり開けていく。
開いた隙間から指先を滑り込ませる。ぞっとするほど冷たかった。冷気は指先から上腕を伝い背筋を流れてつま先をぎゅっと縮め込めた。榛名は上腿を交差するようにして腰をくねらせる。それは提督の冷たさに不気味さを覚えたわけではなく、冷たい炎で暖をとろうとしたような観念と事実とのズレに驚く肉体的反応に過ぎなかった。
しかし、また榛名がその冷たい生命としての提督にある感激を覚えたのも事実ではあった。マネキンのような無関心に起因する人工的冷たさではない。擬死的な冷たさ。生を中断し己を完全に委ねるような冷たさ。完全な委託。絶対的信頼の証。女性的庇護欲を刺激された榛名はしばらく死体に向かって己の肉体を擦り付けるように蠢かせた。
14:名無しNIPPER[saga]
2015/10/28(水) 01:19:33.11 ID:iHsws6qc0
榛名は提督の腕を人形遊びでもする如く自由に曲げて遊んだりし、次に榛名は内ももで提督の陰嚢をぐいと押し込んだ。ぐにゅりと逃げるような感触。普通の男性なら痛がって榛名を叱責するところだが、死体である提督は寛容にもその粗相を許しきっている。榛名は肉体に過負荷を与えることに愉悦を覚えた。
しばらく嗜虐的母性を満足させるべく榛名は性的遊戯にふけっていたが、そのうち落ち着きを取り戻してくる。なぜなら、死体には生殖能力がないので、榛名と提督の状況はいつまでたっても遊戯の領域を超えることがなかったからだ。
また提督の精神状態も冷静さの要因であった。広く死者に認められる精神的症状の特徴として完全な無気力と感情の平板化に伴う徹底的な沈黙が挙げられる。どれほど挑発的な言葉を治療者が放とうとも無関心は持続する。死の状態は最近の研究において「全知全能の存在との受動的な結合という性的な願望と関係がある」と考えられており、榛名にとって全知全能を演ずるのは少し重荷であった。
15:名無しNIPPER[saga]
2015/10/28(水) 01:22:36.93 ID:iHsws6qc0
もしかしたら、対象である榛名の方から仕掛け人である提督に「ドッキリ成功!」と伝えなければいけないのではないか。というのも、提督がこの「ドッキリ」で意図したであろう榛名との親密さの向上は既になされたのだから、後は宣言が残るのみである。考えてみたら、死人には口がないのだから宣言する方法がないと今更ながらに気づく。
問題はどのようにして仕掛け人に「ドッキリ成功!」と伝えるかであった。死人には耳もないのだから、ただの発言では不十分であることは明白である。そして、ここで通常予想されるであろうことは榛名が問題を解決しようと何かしらの伝達手段を考え出すということである。
しかし、純愛を貫こうとする榛名は「ドッキリ成功!」と榛名自身が宣言する行為の意味に不穏なものをみとめた。私が「ドッキリ成功!」と完全に宣言した時、それはこの死体の状態である提督を否定しているのではないか。純愛とはいかなる状態であろうとその対象を愛することではなかったのか。
16:名無しNIPPER[saga]
2015/10/28(水) 01:28:16.68 ID:iHsws6qc0
不純な愛は対象をよく知ろうと欲して、その過程で愛に値するものとしないものとをふるい分ける、愛する故に憎しむというアンビバレンスはここで生まれる。不純な愛に関する洗練は基準を徐々に厳しくすることでなされていく。そして、しまいには基準をクリアするような愛に値する対象は砂粒程度になるという結末を迎え、「愛に値する対象が無い」と嘆く羽目になるのだ。
無対象を愛する純愛にそのような破局の心配はない。ただ困ったことには、榛名が提督を純粋に愛する時、その対象である提督とは何者かが不明になるという問題を抱えざるをえなかった。
榛名は布団から出た。大窓からはいまだ朝日が執務室に差し込んでおり、榛名の裸体を黄色く照らし出した。花火を見るため夏に改装した大窓は縦滑り式に少しだけ開けられており、そこからふかまった秋の冷たい朝風が室内のフラワーアレンジメントを幽かに揺らしている。提督の死体を発見した時から既に相応の時間が経過したはずだったが、榛名が操作したところ以外の状況は何も変わっていなかった。
17:名無しNIPPER[saga]
2015/10/28(水) 01:31:46.69 ID:iHsws6qc0
客観的には実在しない真っ黒な水平線の境界に榛名は魅入った。「NO DATA」、情報量ゼロの存在に境界があること、「NO DATA」の空に「NO DATA」の海と個別化が可能であると示す景色に榛名は何か感じ入るものがあったのではないか。
世界の大部分である空と海が「NO DATA」と無化してしまったことは世界という存在にとって大変な危機であるのだから、榛名は焦燥や絶望を持つべきであったのかもしれない。しかし、榛名は提督を純粋に愛する純愛者であって、それ故に世界の滅亡をそれとなく喜ぶ気持ちが大きいのは否めない事実であった。
「なぜ何もないのではなく、何かがあるのか」「どうして世界は、つまり何を意味するにせよ具体的対象があるのか」という問は世界が存在する必然性の根拠を尋ねる。これに対する解答は次のように考えることもできよう。
18:名無しNIPPER[sage]
2015/10/28(水) 01:34:13.72 ID:A9CQEdFho
吹雪型と早霜の人?
19:名無しNIPPER[saga]
2015/10/28(水) 01:38:07.18 ID:iHsws6qc0
世界存在の必然性が無の単一への収束に基づくというのなら、榛名の純愛と世界の存在はトレードオフの関係にあると言えた。榛名の純愛対象たる提督はもはや全ての状態属性を抽象された何者か『X』であり、それは何ものも含まない無であるべきだった。
もし『X』に何かがあるというなら、愛は所詮その何かを条件的に愛しているに過ぎない。榛名が純粋に提督を愛す時、それはもはや提督を愛していては純愛足り得なかった。提督の肉体、精神、環境、記憶、思い出といったあらゆる属性が欠落しようと反転しようと愛すること、それが榛名の決定した究極の純愛である。
しかし、榛名が愛する無は提督を抽象した後に残る空虚『X』ただ一つである。抽象すれば全ては無に帰すからといって、榛名の純愛が『X』以外のものにまで及ぶはずもない。純愛は一途であるものだからだ。
20:名無しNIPPER[saga]
2015/10/28(水) 01:43:19.92 ID:iHsws6qc0
今まで書いたドッキリスレは読者の反応が余り良くなかったので、今回の筋書きとして「提督がドッキリして、ネタばらしして、対象艦娘と仲良くなって、結婚して、性関係を結び、対象艦娘が世界を敵にするほどの純愛に目覚める」というテンプレートを採用してみた。
細かい所を抜けば比較的親しみのある展開になったはず。
ドッキリスレ
21:名無しNIPPER[sage]
2015/10/28(水) 01:50:57.67 ID:jUtB7ISqo
乙
つまり榛名は見境なしのビッチってこと?
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