過去ログ - 【モバマスSS】香水 あるプロデューサーの物語
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1:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:04:20.27 ID:mPSzAJE90
・オリジナル設定、オリジナルキャラクターが登場します。

・やや性的な表現が含まれます。

・初めての地の文SSですので、お見苦しい点もあるかと思われますが、ご容赦ください。

SSWiki : ss.vip2ch.com



2:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:06:13.33 ID:mPSzAJE90
 西門慶(にしかど けい)は、346プロダクションの自身のデスクで、静かにコーヒーを飲んでいた。
 次に、朝一番に行う業務として、アシスタントの千川ちひろが運んできた自分宛の郵便物を、ペーパーナイフで丁寧に開封していく。中身は他会社のパンフレットなどが多いが、既に開封されているものは、経理から確認のために回されてきた、協力業者からの請求書だったりする。
 書類関係を検めた後に、新聞を流し読みしつつ、慶はこの346プロダクションの今後に思いを巡らせた。

 アメリカから帰国した346グループ会長の娘が、常務として346プロダクション・アイドル事業部の陣頭指揮を執り始めたのが、つい一週間程前。
以下略



3:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:07:02.15 ID:mPSzAJE90
 慶は美城常務の方針に、賛成も反対もしていない。
 これまでは確かに、346プロダクションで働く者の多くに、346は老舗で大手だから大丈夫という油断が瀰漫していた。
 個々の個性を生かして自由に活動させる、と言えば確かに聞こえは良い。だが、裏を返せば成長の停滞とも言え、実力の無い者がのうのうと会社に居座り続けるということでもある。
 切磋琢磨を惹起し、アイドル達の成長を促す。競争についていけなくなった者は切り捨てる。弱肉強食と優勝劣敗は世の理であり、単純明快で良いではないか。

以下略



4:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:07:58.85 ID:mPSzAJE90
 西門慶という男は、「西門製薬」という大手製薬会社の御曹司である。
 西門家は、江戸時代末期のとある蘭学者が開祖らしい。らしい、というのは、慶が自分の家の由来など特に気にしていないためだ。

 江戸幕府の終焉、明治政府の樹立、富国強兵策の推進、そして対外戦争。江戸末期から明治の激動の時代に、この蘭学者は医学から薬学の道を志し、巨万の富を築き上げた。
 何をしたのかと言うと、日本は文明開化によって爆発的に人口が増えること、戦争では必ず負傷者が出ることに着眼し、必然的に医薬品の特需があることを予想したのである。
以下略



5:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:08:34.10 ID:mPSzAJE90
 大企業の御曹司なのだから、芸能プロダクションで働くことはおかしいと思われるだろう。しかし慶には兄がおり、慶自身には一族の継嗣たる資格は無い。
 父親は、慶に西門製薬本社の役員、またはグループ会社の役員の席を用意していたが、彼はにべもなく断った。面倒ごとは兄に任せて、自分は放埓に生きればいいと思っていたからである。

 そんな西門慶が、なぜ346プロダクションなどという畑違いの会社に入社したのか、それは二つの理由にある。

以下略



6:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:09:08.86 ID:mPSzAJE90
 二つ目の理由は、慶自身にある。それは、慶が非常に好色であるということだ。
 彼が職場を選定する際、真っ先に考えたのは、女性と触れ合う機会が多い場所が良いということだった。
 十代の頃から、不純異性交遊によって親を困らせてきた彼だから、女性、それもとびきりの上玉と出合える場所と言えば、芸能プロダクションだろうと安易に考えたのだ。

 では、346プロダクションに入社した彼が、ただ窓際で遊んでいただけかと言えば、決してそうではない。
以下略



7:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:09:55.67 ID:mPSzAJE90



 慶が廊下を歩いていると、前方から清川武大(きよかわ たけひろ)が現れた。

以下略



8:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:10:36.42 ID:mPSzAJE90
 もっとも、慶自身も、他人に容喙できるような立場ではない。担当アイドルに手を出しているという噂に始まり、慶自身の圭角もあり、あまり周囲からの評判は芳しくないのだ。
 しかし慶の場合は、嫉視反感に財閥の御曹司というファクターが多分に含まれている。そんなものは幼い頃から経験しているため、腫物扱いは気にもならない。

「聞いているよ、西門君。最近、また新しいアイドルをデビューさせようって話じゃないか」

以下略



9:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:11:12.18 ID:mPSzAJE90
 何を言っても、嫌味に聞こえないのが清川の美点かもしれない。他に二、三言葉を交わし、二人は別れた。
 
 慶が廊下の曲がり角にさしかかった時、後ろで女の声が聞こえた。振り返ってみると、清川が、自身の担当アイドルの神谷奈緒と、何か話しているところだった。
 神谷奈緒は、いまのところ芽が出ていないアイドルである。少し恥ずかしがりやで、扱いにくいように見えるかもしれない。
 
以下略



10:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:11:50.81 ID:mPSzAJE90



 ジュースキントの、「香水 ある人殺しの物語」という小説をご存じだろうか。
超人的な嗅覚を持つ主人公グルヌイユが、街中で出会った女性の香りに憧憬を抱き、その香りを香水で再現しようとして、次第に狂気に取り憑かれていく物語である。
以下略



11:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:12:43.22 ID:mPSzAJE90
「これが例の香水か。ただの水にしか見えないけどな」

「間違っても飲んじゃダメだよ。試すなら、一吹きだけにしてね。名付けて、『サテュリオン』なのだ」

「ラブ・ポーションじゃないのな」
以下略



12:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:13:23.77 ID:mPSzAJE90
 慶は、一ノ瀬志希に自分のタワーマンションの一部屋を与えていた。慶が、フロアごと借りているうちの一室である。
 志希と出会ったのは、慶が以前にアメリカにいた時だ。
 偶然慶が住んでいた都市に、飛び級で大学に入学し、化学を専攻している日本人がいると聞いて、興味本位で会いに行ったのだ。
 
 アイビーリーグの某大学に、飛び級で進学しているとあって、当初、彼女との会話にはついていけなかった。
以下略



13:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:14:12.97 ID:mPSzAJE90
“……では特別に、奥様だけにお教えしましょう。いいですか? 例えばマチンという薬を最初は一グラム、次の日は二グラムと量を増やしていくと、二十日目には二十グラムのマチンを一度に摂取することになりますが、死ぬことはございません”

“まあ、そうなの?”

“しかし、最初から二十グラムも接種してしまうと、その人にとって猛毒になるのです。こうすれば、同じ瓶から飲んでも、相手だけ殺せるでしょう?”
以下略



14:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:14:56.14 ID:mPSzAJE90
 その日は、穏やかな日差しの昼下がりだった。
 大学の図書館には、幾人かの学生の姿が見受けられ、アメリカン・ボザール様式の館内は、学問に対しての誠実さを要求してくるような、森厳な雰囲気を醸成している。
 しかし、その一角で交わされている慶と志希の会話は、鴆毒に等しいものだった。外の天気とは正反対に、そこだけ淫雨が降り注いでいるようだ。

「……そんじゃあさ、あたしも連れてってくれない?」
以下略



15:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:15:38.97 ID:mPSzAJE90
 そんな慶の内心を知ってか知らずか、志希は机に置いてあったハードカバーを、慶の目線に持ち上げて見せる。
 その表紙には、「Das Parfum – Die Geschichte eines Mörders」と記されていた。

「ジュースキントか」

以下略



16:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:16:30.32 ID:mPSzAJE90
「……けど、その香水を観衆にふりかけて、自分に死刑を求刑した者たちを魅了して、判決を覆しちゃうんだ。人間の精神を捻じ曲げる香水……そんなものがあったら、すごいと思わない?」

 そんなものがあったら、すごいどころの話ではない。呆然とする慶の表情に満足しているのか、志希は話を続けた。

「そこで志希ちゃんは思いました。ファンタジーの中で、惚れ薬ってのが出てくるでしょ? ほら、おとぎ話の魔女が、悪い顔しながら鍋をかきまぜてたり……誰もが現実にはあり得ないと思ってるけど、なんとか再現できないかなーって」
以下略



17:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:17:25.39 ID:mPSzAJE90
「だからさ、志希ちゃんのギフテッドの頭脳と嗅覚と、キミの財力がタッグを組めば、向かうところ敵なしってわけ」

 怪訝な顔をする慶を嘲笑するように、志希は更に言葉を継ぐ。

「惚れ薬があれば、キミはどんな女も掌中にできる。惚れさせるということは、つまり傀儡にできるってわけだからね。鷦鷯深林に巣くうも一枝に過ぎず、って誰かさんは言ったらしいけど、キミの野心が世間の片隅に収まるとは思えないなー」
以下略



18:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:18:05.30 ID:mPSzAJE90
 慶は目の前にいる少女を、まるで蛇のように錯覚した。アダムとイヴに、失楽園を齎す蛇の誘惑。
 しかし、慶はその誘惑に乗ることにした。志希の言うとおり、このまま財閥の次男として燻っているのも癪である。ここはひとつ、蛇の甘言に従い、荒淫と頽廃で身を崩すのも良いのではないか。
 慶は黙ったまま、志希に右手を差し出した。志希は脂下がった顔で、両手で慶の右手を包み込み、ブンブンと上下に振る。

「けーやくせーりつー♪ どんどんぱふぱふー♪ これであたしとキミは一蓮托生……ま、一つよろしく!」
以下略



19:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:18:50.27 ID:mPSzAJE90
 脳内の遠くで、彼女との契約を回想しつつ、慶はスプレーボトルを見つめる。

「しっかし、グルヌイユの香水を本当に再現できるとはねぇ」

「何なら試してみる?」
以下略



20:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:19:30.32 ID:mPSzAJE90
 かつて、オーストリアの精神科医フロイトは、性欲とは、性的衝動および欲求を引き起こす心的エネルギー、「リビドー」であると提唱した。
 しかしこれは、根拠が無い、妥当性に欠けるとして近年では否定されている。
 
 一般的な生物学的見地からすると、男性の場合は、睾丸内で精子が生成される際に、テストステロンという男性ホルモンの一種が分泌され、それが性欲を引き起こすとされる。
 一方女性の場合、排卵周期によって、このホルモンの分泌量が変化するという仕組みだ。
以下略



21:名無しNIPPER[saga]
2016/03/28(月) 23:20:18.43 ID:mPSzAJE90
 そもそも、どうやって相手に投与するかという問題がある。
 効果が覿面なのは静脈注射だが、これは相手に注射針を打たなくてはならないため、論外。
 密かに、飲み物や食べ物に混ぜるという手段もあるが、経口摂取は吸収率という点で非効率すぎ、現実的ではない。

 そこで志希は、匂いによる惚れ薬の開発を研究することにした。
以下略



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