過去ログ - モバP「白菊ほたると一輪の笑顔」
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1: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/09/07(水) 12:43:03.75 ID:QSjMH8mi0
二重に絡まる電流が走った。
エジソンとテスラが脳裏に浮かび、直流か交流かなんて不毛な言い争いを始める。間違いなく、俺は混乱している。
一目惚れだった。初めての経験だった。
白菊ほたるは物憂げな表情を浮かべ、不安そうな視線を俺の胸元に泳がせている。
これはいけない。こんなに可愛い子なのに、まだまだ子供なのに。
笑ってほしいと思った。そして、幸せになってほしいとも。
だから俺は、ほとんど向こう見ずに声を発していた。
「結婚してください! 幸せにします!」
「えっ、……あのっ」
直後、小会議室に乾いた音が響く。丸めた書類を右手に握るちひろさんは、天才的な突っ込み技術を持っている。
「できるか馬鹿」
こうして俺のプロポーズは失敗した。十三歳の女の子とは結婚できないのだから当然だ。
それでも、ほたるちゃんの小さく零した笑みを見られれば、悪い気はしない。
俺はほたるちゃんを幸せにしたいと思った。
◇
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2:名無しNIPPER[sage]
2016/09/07(水) 12:44:13.91 ID:U5TsC10RO
期待期待
ほたるちゃん大好き
3: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/09/07(水) 12:44:39.03 ID:QSjMH8mi0
顔合わせから数日後、俺とほたるちゃんは都内のスタジオを訪れていた。
アイドル雑誌に載せる写真を撮りにきたのだ。プロダクションが持つ枠のひとつで、毎月新人や売り出し中の子にあてがわれている。
撮影後は軽めのインタビュー。新人には仕事に慣れてもらうための簡単な仕事と言える。
4: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/09/07(水) 12:45:53.46 ID:QSjMH8mi0
顔合わせのとき、ほたるちゃんは自分を指して不幸体質だと言った。
人を巻き込み不幸にして迷惑をかけてきたのだと、彼女は申し訳なさそうに言葉を紡いだ。
俺は首を傾げた。どこに因果関係があるのか理解できなかったから。
5: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/09/07(水) 12:48:04.63 ID:QSjMH8mi0
カメラマンと軽く打ち合わせをして、さあいざ撮影を始めようとした段階になって問題は発生した。
どうやら機材トラブルが起きたらしい。幸い、少し時間をかければ解決できるそうなので、大人しく待つことにしよう。
スタジオの端にあるパイプ椅子に、俺とほたるちゃんは腰を下ろした。
6: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/09/07(水) 12:49:08.82 ID:QSjMH8mi0
「ほたるちゃんはさ、幸不幸ってなんだと思う」
「えっ、幸せと不幸ですか?」
「うん。あっ、そんなに難しく考えなくていいよ。暇つぶしだと思って」
7: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/09/07(水) 12:51:24.03 ID:QSjMH8mi0
雑誌の撮影から二カ月、穏やかな日々が続いた。
大きな失敗もなく、ほたるちゃんは着実に仕事をこなした。自信のなさは相変わらずだけど、それでも彼女が首を傾げるぐらいには順調と言えた。
俺とほたるちゃんの仲も、多少は近づけたように思う。
8: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/09/07(水) 12:52:24.07 ID:QSjMH8mi0
ある日、ほたるちゃんは両手ですずらんの鉢を抱えてきた。事務所を出てすぐの花屋で買ってきたらしい。
控えめにだけど、自己主張する彼女は珍しい。嬉しくなる。
「この部屋、緑が少ないと思います。……ダメですか?」
9: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/09/07(水) 12:54:59.07 ID:QSjMH8mi0
だから、油断したんだと思う。
さらに一ヶ月が経った今日、ほたるちゃんは小日向美穂とともに、双葉杏と諸星きらりのステージでバックダンサーを務めた。
しかし、完璧ではなかった。細かなミスがいくつかあった。ただ、許与範囲と言える。気にするなとは言えないけれど、気にし過ぎるほどでもない。
10: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/09/07(水) 12:56:06.78 ID:QSjMH8mi0
だけど、ほたるちゃんにとって「次」は不確実なもので、「今」は脆くいつ崩れ落ちても不思議ではないのだろう。
杏ちゃんはテーブルに突っ伏しながら気だるげに言う。
「気にするなって言われても無理だよねー。こればっかりは気持ちの問題だからさ。でも、ほたるちゃんが落ち込んでると逆に気になるんだよね。だから、杏たちのために気にしないでよ」
11: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/09/07(水) 12:57:51.97 ID:QSjMH8mi0
それから帰り道、喫茶店に寄った。せめて、もう少し明るい気持ちで帰ってほしかったのだ。
カウンターでコーヒーとココアを受け取って席に着く。俯くほたるちゃんの前にココアを置いてから、俺は口を開いた。
「練習ではできていたよね。なんでミスしたと思う?」
12: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/09/07(水) 12:58:57.67 ID:QSjMH8mi0
「一緒に確認して反省しよう。今すぐどうにかは難しいと思う。だから、一緒に慣れていこう。不幸があったならふたりで乗り越えよう。大丈夫、ほたるちゃんを見捨てはしない。俺も、プロダクションもね」
ほとんどプロポーズだった。まあ、形は違うけど似たようなものだ。
俺はほたるちゃんに伝えなければならない。ここなら安心だと、明日は普通にやってくるし、今日は崩れないと。
13: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/09/07(水) 13:00:43.27 ID:QSjMH8mi0
「あの……笑顔の練習、付き合ってもらえませんか?」
ライブの一件からしばらくして、ほたるちゃんはレッスンの休憩中に、唐突にそう言った。
「小さい頃から、いつも困った顔してるって言われて……」
14: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/09/07(水) 13:02:07.16 ID:QSjMH8mi0
「ああぁぁ……今笑えてたよ。うん、可愛かった」
「……すみません」
「いや、謝らなくていいよ」
15: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/09/07(水) 13:04:30.93 ID:QSjMH8mi0
茹だるような暑さに気が滅入る。
周囲は人、人、人。喧騒と雑踏に嫌気がさしながら、俺はほたるちゃんの手を引いて歩く。
出店の鉄板と人の多さのせいか、会場までの道程は気温以上に暑く感じた。
16: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/09/07(水) 13:06:04.88 ID:QSjMH8mi0
突然の待ちぼうけ。俺とほたるちゃんはフェンスに近づく。目の前は暗い海。その先には街が煌々と輝いていた。
「向こう側、キラキラしてますね」
「うん、綺麗だね」
17: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/09/07(水) 13:08:19.51 ID:QSjMH8mi0
プロダクション主催の合同ライブに、白菊ほたるの出演が決まったのは半年前、きらりちゃんと杏ちゃんのバックダンサーを務めた直後だった。
夏頃までは現実味がなかったのだと思う。ライブまで残り一ヶ月と迫って、ほたるちゃんは不調に陥った。
それまではできていたのに、歌えば音を外し、踊ればどこかしらでミスをする。端的に言えばスランプだ。
18: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/09/07(水) 13:09:57.11 ID:QSjMH8mi0
遠い目をしているのは、うん、きっと未来を見ているのだと信じたい。
俺にできることは少ない。こればかりは他人がなんと言おうと、最終的には本人の問題だから。
だとすればなにができるのか。
19: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/09/07(水) 13:11:29.12 ID:QSjMH8mi0
「俺もダメだったろうなぁ。水やり忘れそうだし」
他愛ない会話をして歩く。のんびりとした時間は安らぐ。ほたるちゃんも少しは、気を楽にしていればいいけれど。
帰り道、アクセサリーショップに寄った。
20: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/09/07(水) 13:13:01.98 ID:QSjMH8mi0
「ほたるちゃんがどう思ってるのかは知らないけれど、俺はほたるちゃんと一緒にいれて幸せなんだ。だから、恩返し」
幸不幸は解釈による。俺はどんな出来事も、ほたるちゃんといれば幸福に思える。
ほたるちゃんは困ったように笑う。
21: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/09/07(水) 13:14:19.98 ID:QSjMH8mi0
ほたるちゃんが移籍してきてから一年近くが経った。
桜が心地よい風に舞い、あらゆる出来事を祝福して見える。出会いと別れの季節。ほたるちゃんにはさらなる幸せと出会い、これまでの不幸と別れられるよう願うばかりである。
今日は雑誌の特集であるブライダルセレクションの撮影だ。
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