72:名無しNIPPER[sage saga]
2019/04/09(火) 13:15:18.92 ID:W+HAaMa50
ここまで言われて、彼が黙っていられるわけがない。現に彼は拳を握ってわなわなと震えている。
そう、それでいい――俺の口元が意地悪く歪む――そうして激情に任せ、拳を振り上げ、俺に襲いかかってこい――!
「……っ!?」
73:名無しNIPPER[sage saga]
2019/04/09(火) 13:20:48.78 ID:W+HAaMa50
*
俺はグラウンド横の階段に腰掛けて、哲学者の名前を与えられた鶏たちが思い思いに歩き回るのを茫然と眺めていた。
「……やなちゃんの言ったこと、本当?」
74:名無しNIPPER[sage saga]
2019/04/09(火) 13:24:53.80 ID:W+HAaMa50
「……そんなのひどい。そんなの、なんの説明にもなってない」
「だよな……」
透子が心を痛めているのが伝わってきて、さすがにだんまりを決め込むことはできなかった。
75:名無しNIPPER[sage saga]
2019/04/09(火) 13:29:44.63 ID:W+HAaMa50
「あれを《未来の欠片》と名付けたのは、俺にとって、あれが自分に欠けているピースのような存在だと思ったからなんだ」
どこに行っても、自分のいるべき場所はここではないような気がしていた。
そんな中で聞こえてくる《未来の欠片》は、俺が向かうべき場所――俺がいていい場所を指し示す、道しるべのように思えた。
76:名無しNIPPER[sage saga]
2019/04/09(火) 13:34:45.88 ID:W+HAaMa50
全ては、透子に出会ってから、変わった。
「……少しずつ、わかってきたんだ。俺が欲しがっていたのは、なんだかよくわからないピースみたいなものじゃない。もっとはっきりとした、もっと実体のあるものじゃなかったのかって」
俺が必要としていたのは、概念上の強さや完全さなどではなく。
77:名無しNIPPER[saga sage]
2019/04/09(火) 20:33:42.74 ID:W+HAaMa50
<第7話 自転車>
少しずつ日が傾いていく。藍色と茜色が混じり合う空に、ひぐらしの声が溶けていく。
「今度、海、行こう」
78:名無しNIPPER[saga sage]
2019/04/09(火) 20:40:03.38 ID:W+HAaMa50
*
母さんが父さんの家に帰ってきた次の日、俺は早起きして例の高台へ行った。
考えていたのは変わらず透子のことだった。
79:名無しNIPPER[saga sage]
2019/04/09(火) 20:53:04.25 ID:W+HAaMa50
*
昼食を終えてしばらくすると、家の電話が鳴った。
透子かもしれないと思い、父さんや母さんに先んじて受話器を取る。
80:名無しNIPPER[saga sage]
2019/04/09(火) 20:55:27.00 ID:W+HAaMa50
*
麒麟館にやってくると、透子は熱心にエッシャーの絵を眺めていた。
声を掛けると、嬉しそうに振り返り、そのまま俺を外に連れ出した。
81:名無しNIPPER[saga sage]
2019/04/09(火) 21:00:09.21 ID:W+HAaMa50
「なんか、私ずっとここで暮らしてるのに、駆くんのほうがいろんなこと知ってるみたいで、なんか悔しい」
唇を尖らせる透子から、海岸沿いの平地に寄り集まる家々に視線を移して、俺は少し感傷的な気分で言った。
「この街の些細なことを知ったからって、透子が暮らしてきた事実に比べたら、つまらないことだよ」
82:名無しNIPPER[saga sage]
2019/04/09(火) 21:04:09.63 ID:W+HAaMa50
「…………そんなこと、ない」
同じ過ちは繰り返すまい、と決意を込めて透子を見つめていると、透子は照れたように視線を逸らした。
すると、透子も透子で、今のやりとりから何か思うところがあったのか、高山のことを話題に出す。
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